オープン・クラウド・コンピューティングの現状

 クラウドコンピューティングのベンダーの中には、3teraやNirvaniなどのように、選択の幅が狭く、限定されたまたは閉じられたアーキテクチャーでしか使えないプロプライエタリーなプラットフォームやツールを提供しているところがある。そうした大手ベンダーがクラウドと言えば、それはそのベンダーが提供するクラウドのことだ。だから、クラウド・コンピューティングを利用するアプリケーションの開発では書き方や構築の方法が制約されるのはやむを得ないと思うかもしれない。しかし、そうした見方は間違っている。クラウド・コンピューティングのためのオープン標準はすでにあり、今は調整段階にあるからだ。

 しかし、これは、ある一つのクラウド・コンピューティング・プラットフォームが普遍的に利用できるということではない。いくつかのベンダーがクラウド用のプロプライエタリーなプラットフォームをそれぞれ開発しているように、さまざまなオープンソース企業やコミュニティーが開発に取り組んでいるからだ。

 Linux Foundationのエグゼクティブ・ディレクターであるJim Zemlinは次のように述べている。「我々はすでにその域に達しており、それが趨勢だと思う。Webベースの新興企業のほとんどはハードウェアやソフトウェアを買わずに、Ruby on RailsやPerlなどオープンソースのミドルウェア製品やプログラミング製品を利用している」

 人気の高いミドルウェア製品には、JBoss Enterprise MiddlewareWSO2、Iona Fuse、IBM WebSphere Application Server Community Editionなどがある。

「クラウド」とは?

 クラウド・コンピューティングはある特定の技術というよりプロセスだ。現在クラウド・コンピューティングと呼ばれているものの基礎にある概念は、さまざまな名前で呼ばれてきた。クラスター・コンピューティング、ユーティリティー・コンピューティング、グリッド・コンピューティング、オンデマンド・コンピューティングなどなど。

 現時点でのクラウド・コンピューティング・モデルは、次のような要素を含んでいる。データ・ストレージやデータ・センターが提供しているようなコンピューティング・タスクで、ネットワーク上のさまざまなインターネット接続、ソフトウェア、サービスに分散されているもの、そのサーバー群が提供するスーパーコンピューター並みの機能、地理的制約から解放されたデータ。

 Zemlinによると、クラウド・コンピューティングのためのオープン標準策定に向けた動きはしばらく前からあり、オープンソース・ツールを使ってクラウドにアクセスするという現在の傾向は今も拡大を続けているという。

最適な形態は?

 クラウド・コンピューティング・サービスの利用を検討する場合、最も大きな障害は、おそらく、自社の要件に合わせて最適な形態を選び出すことだろう。Zemlinによれば、クラウド・コンピューティング・サービスを複数の方法で利用できるようにオープンソース製品を組み合わせているところが多いという。

 たとえば、カリフォルニア大学サンタバーバラ校のコンピューター科学科では、最近、Eucalyptus Projectというクラウド・コンピューティングのためのオープンソース・インフラストラクチャーをFreeBSDライセンスで提供し始めた。AmazonのElastic Computing Cloud(EC2)によく似たもので、Eucalyptusという名は「Elastic Utility Computing Architecture for Linking Your Programs To Useful Systems」を意味する。クラスター上にクラウド・コンピューティングを実装し、複数のクライアント側インタフェースが提供できるように設計されている。使われているのはLinuxツールと基本的なWebサービス技術だ。

 最近アルファー版がリリースされた10gen platform-as-a-service technologyもその一つで、ダイナミックでスケーラブルかつ基幹的なWebサイトやアプリケーションの開発を支援する。10genのWebサイトによると、GoogleのApp Engineに似たソフトウェア・スタックを持ち、クラウド環境での実行に必要なデータベース、グリッド管理、アプリケーション・サーバー・ツールから成る独自のスタックが提供される。アプリケーション・サーバーでの開発言語として現在JavaScriptとRubyがサポートされているが、ほかの言語のサポートも予定されている。

拙速か?

 クラウド・コンピューティングに参入している企業の中にはオープンソース製品が使えることは否定しないが、標準化の程度を疑問視する向きもある。たとえば、データ管理がクラウドでどの程度有効なのか確信が持てないのだ。

 Red HatのJBoss部門で製品ライン管理担当ディレクターを務めるAaron Darcyは次のように言う。「当社はオープンソースを介してオープン標準を支持している。しかし、あるべき標準への道筋はまだ見えない」

 そして、同社の上位顧客企業はクラウド・コンピューティングの限界を押し広げており、クラウドウェアや、既存ソフトウェアと標準の拡張を求めているという。

 「当社の顧客は経済的理由と開発期間短縮のためにクラウド・コンピューティングを活用しようとしているが、不必要な開発の重複は避けたいと考えている」

 同社も、他社と同じように、クラウドに対する顧客のニーズに応えて次々と製品を送り出しており、たとえばAmazonのクラウド上でJBoss Application Serverなどのオープンソース製品の一部を提供している。同氏によると、こうしたことは同社がエンタープライズ・レベルで行ってきたことの自然な延長線上にあり理にかなっているという。

 クラウド・コンピューティングの目標はオープン標準を通して達成されるべきであり、それこそが、この技術が新たな開発に使われようになりしかも利用者を硬直したプラットフォームに閉じ込めずに済む唯一の道なのだ。同氏はそう考えている。

 「クラウド・コンピューティングの標準は、今はまだ誰も手にしていない。当社にもない。市場はまだまだ若いのだ」

ルールも「クラウド」

 Linux FoundationのZemlinもクラウド・コンピューティングが成長期の痛みに苦しんでいることを否定せず、次のように述べている。

 今は明らかに開発の初期段階にあり、必要なツールが揃っていない。業界が解決すべき問題がいくつかあり、たとえばクラウドの運用には利用料を説明できる管理アプリケーションが必要だ。今はそのためのオープンソース・ツールが多数あるが、それが管理アプリケーションとして役立つためには、クラウド利用の計量と課金の方法に一貫性がなければならない。

 また、クラウド・コンピューティングは規模の世界であり、規模の経済の追求から利益が生まれるという。

トレードオフ

 クラウド・コンピューティングの現在の発達レベルでは、クラウド・サービスを活用しようと思うと、自社でコンピューティング・クラウドを構築するか社外のクラウド・サービスを利用するかの判断を迫られる。その際、プラットフォームやクラウド・サービスについて最も信頼性があり最も長寿命なものを推定する必要があることがしばしばある。推定にならざるを得ない理由の一つは、プロプライエタリーとオープンソースの開発者が共に支持する明確に規定されたクラウド標準がないことだ。

 Red HatのDarcyは「顧客は限られた予算の中でトレードオフを評価する必要がある」と言う。コストの違いはそうしたトレードオフの一つだ。たとえば、プロプライエタリーなクラウド・プラットフォームを利用する場合の費用と、コミュニティー・サポートあるいは有償サポート付きのオープンソース製品を利用する場合の費用を調べ比較する必要がある。それだけでなく、クラウドへの移行によってハードウェアやソフトウェアの購入が必要になり、その結果、既存のプログラムをアップグレードしたり新しいプログラムを学習するための時間と費用が発生したりすることもある。

 また、現状ではセキュリティー・リスクやパフォーマンスに関するトレードオフもある。たとえば、企業のデータを社外のクラウドの中に置くためデータの安全性に疑問が生ずるし、さらに大きな問題になりうるのは、導入されたミドルウェア層が社内のコンピューターに及ぼす影響だ。

 「隠れている要因をすべて洗い出すことはできない」。

 Zemlinは、クラウド・コンピューティングが感じている成長期の痛みは「サービスとしてのソフトウェア」(SaaS)業界が当初受けた痛みに似ている部分が多いと言う。SaaSは、Zemlinが言うように、第1世代のクラウド・コンピューティング技術だ。クラウド・コンピューティングも、ほどなく、中小企業や個人にとってSaaS同様に有用なものになるだろう。

Linux.com 原文