エンタープライズ・レベルに達したiSCSI――急速に普及するiSCSI-SAN。その技術の成熟度を測る 3ページ

やっぱり人気はFC-SAN!?

 一方、ハイエンド環境においては、SANの主流は現在もFCだ。その理由として特に大きいのは、普及価格帯製品の転送速度である。普及価格帯では、ほとんどのEthernet機器の転送速度は現在も1Gbpsに留まっているが、FCの場合は4Gbps、さらには8Gbpsへの対応も進められている。

 だが、iSCSIのパフォーマンスは、いくつかの方法で向上させることが可能だ。例えば、インテレネットのスタイン氏は、サーバにQLogic製のiSCSI対応Ethernetアダプタ(iSCSI HBA)を装着している。iSCSI HBAは「徐々に安定してきた技術」(スタイン氏)の1つで、低コストにiSCSIを高速化することができる。スタイン氏によると、インテレネットでは iSCSI HBAのおかげでデータセンターのストレージをDASからSANに移行することができたという。

 エマージェント・ネットワークスのアンダーソン氏も、チーフ・マニュファクチャリングの案件でQLogicのiSCSI HBAを使用したという。「EthernetポートとMicrosoftのiSCSIイニシエータを使用することもできたが、TCP/IP処理をCPUからiSCSIカードにオフロードするため、(iSCSIイニシエータを備える)iSCSI HBAを使用した」とアンダーソン氏。

 ただし、現在の状況を考慮すると、iSCSI HBAを導入することで得られるパフォーマンス向上が、それによるコスト増や作業増に必ずしも見合うとは言えない。アンダーソン氏は、「IntelやBroadcomが提供するEthernetカードには、TCP/IPオフロード機能を備えているものもある。そのため、個人的には、iSCSI HBAと標準的なEthernetインタフェースの間に大きな違いはなくなってきているように思える」と指摘する。

 なお、最近では10GbE製品の価格が確実に下落してきているが、その要因の1つはiSCSIの普及である。ストレージ関連機器/サービスの販売代理店であるベル・マイクロプロダクツは今年1月、10GbEアダプタおよびASICソリューションを提供するチェルシオ・コミュニケーションズと代理店契約を結んだ。また同じく1月には、Brocade Communicationsが、ネットワーク・ストレージ環境におけるストレージ・トラフィックの転送速度およびパフォーマンスを向上させるネットワーク・プロセッサを開発するシルバーバック・システムズを買収している。Brocadeは、シルバーバック買収の主な理由として、同社が持つiSCSIの技術と経験を挙げている。

 Forrester Researchのアナリスト、ステファニー・バローラス氏は、これら10GbEを巡る動きがSAN市場を強く活性化させると見ている。「現状、10GbE製品は高価であるが、3~4年以内には普及価格帯にまで値下がりするだろう」とバローラス氏は予測している。

 ただし、FCがすぐに衰退することはないという。「ストレージ技術者には保守的な人が多い。したがって、iSCSIが価格とパフォーマンスの面で十分な競争力を持ったとしても、すぐにFCに取って代わるとは考えにくい」(バローラス氏)

 一方、Burton Groupのリーブス氏は、「ハイエンドのストレージ・アレイは、依然としてFC用に作られているということを忘れてはならない」と指摘する。確かに、EMCはハイエンド・ストレージの「Symmetrix」シリーズでiSCSIをサポートするとしているものの、これは基本的にアドオンで実現されるものである。

 リーブス氏は、「いずれはベンダーもiSCSIに注力するようになると思うが、できるだけ長い間、高価で利幅の大きいFC機器に固執しようとするはずだ」と分析している。

Column 2:iSCSIの今後に影響を及ぼす周辺技術
マーク・レオン/マリオ・アピセラ

 iSCSIは今後どこに向かうのか。それが気になる人も多いだろう。実際のところ、iSCSI対応製品の出荷は堅調に伸びているが、“保守的なアナリストらの見識”によって、SAN市場におけるiSCSIのシェアはきわめて低いままに留まってしまう可能性もある。

 では、iSCSIはどのような市場セグメントに適しているのだろうか。IBMのストレージ部門でエンジニア兼チーフ・テクニカル・ストラテジストを務めるクロード・バレラ氏は、「iSCSI対FC」というテーマに関しては、社の方針どおりの姿勢を崩さない。同氏は、「iSCSIはFCの補完技術としては最適だ。サーバの価格が1台当たり2万5,000ドル以下なら、SANをiSCSIで構成してもいいだろう。だがそれ以上なら、FCのほうが適している」と主張する。

 バレラ氏は、FCをローカル用に、iSCSIを長距離用に使用したハイブリッド型のSANをサポートする新世代のマルチプロトコル対応スイッチの登場を期待している。「注目すべきはCiscoだ。今後、同社から興味深い製品が発表されるはずだ」(同氏)

 またバレラ氏は、10GbE製品が手ごろな価格になれば、顧客の間でiSCSIにするかFCにするかといった議論がさらに活発になると予測しており、2010年までには、ハイエンドの分野でFCの競合としてiSCSIが台頭するかもしれないとしている。

 一方、LeftHand Networksのマーケティング担当バイスプレジデント、ジョン・ファネッリ氏は、バレラ氏よりもiSCSI寄りの立場を取っている。同氏は、市場はすでにFCからiSCSIへと移行しつつあり、サーバ仮想化の普及が、iSCSIネットワークを中心とするクラスタ・ストレージ・ソリューションをより魅力的に見せていると指摘する。

 コンサルティング会社グラスハウス・テクノロジーズの主席コンサルタント、アシシュ・ナドカーニ氏も、サーバ仮想化の普及がiSCSIの導入を後押しするとの考えを示している。同氏は加えて、「CPUの高性能化が今後さらに進めば、TCP/IPスタックの処理に関するCPU負荷は軽減し、そうした問題がiSCSIを否定する根拠として指摘されることもなくなるだろう」と語る。

 近い将来、iSCSIの普及が一気に進むということは、どうやらなさそうだ。しかしながら、進化の行方は仮想化やクラスタ・ストレージといった補完技術にある程度依存すれど、大方の意見は「iSCSIが引き続き市場シェアを拡大し続けるだろう」という点で一致している。

(月刊Computerworld 2007年7月号に掲載)

提供:Computerworld.jp