少ない電力でより多くのデータをストア――ストレージ管理の「今日的キーワード」は「省電力」

 電力不足が深刻化し、エネルギー・コストが急上昇する中で、今、ユーザーもベンダーも、より少ない電力でより多くのデータを管理すべく悪戦苦闘している。これは電力対策の問題であると同時にデータセンターの設計効率化に関する問題であり、またストレージ管理にまつわる問題でもある。つまり、この問題を解決するために企業に問われているのは、人材の問題をも含めた「総合力」なのである。

ロバート・シャイアー
Computerworld 米国版

 金融、法律、健康、科学といった専門情報の提供をなりわいとするThomson Corporationで、情報サービス事業を統括しているリック・キング氏にとって、顧客向けに提供する2.5ペタバイト(PB)の法務、規制データをストアしておくために必要な電力の確保は、今や最重要課題であると言える。

 Thomsonの北米法務事業担当上級副社長を務めるキング氏は、2005年5月に、同社が築10年を迎えたデータセンター2カ所(計1万7,000平方フィート)を増改築したときの指揮官でもあった。

 その際、同氏がとりわけ重視したのは、仮想サーバやストレージの高密度化に対応するために電力供給量を増やすことであり、その方針の下、それまで1平方フィート(約0.093平方メートル)当たり25ワットだった最大電力供給量を同60ワットにまで増強した。

 また、送電を2カ所の変電所から受けられるようにしたり、バックアップ電源や発電機を用意したりといったように、電力供給の冗長化も図った。

 Thomsonでは、オンラインによるビジネスの比率がここにきて急速に高まっており、十分なパワーのない、あるいはアップグレードに時間とコストがかかるサードパーティのデータセンターではもはや対応するのが難しくなってきている。

 そのため、キング氏は現在、顧客が増えても問題なく対応できる(少なくとも現在と同じく1平方フィート当たり60ワットの電力供給が可能な)8万平方フィートの最先端統合データセンターを構築すべく、準備を進めているところだ。

 こうしたデータセンターの設置は、31億ドルの規模を誇るThomsonの情報サービス事業にとっても決して小さな投資ではない。そこで、さまざまな方法でコストの削減が試みられるわけだが、電気料金が高騰する中にあって、キング氏の関心は、最近もっぱら「コンピューティング技術と消費電力、施設設計の関係性について深く理解しているスタッフをいかに確保するか」ということに向けられているという。

 だが、そうしたスキルを持ったスタッフは給与水準も高く、確保できたらできたで、データセンターの構築で膨らんだ予算をさらに押し上げてしまうことにもなりかねない。

 実際、コネチカット州ニュー・キャナンのITワークフォース・コンサルティング会社、フート・パートナーズのCEOでチーフ・リサーチ・オフィサーを兼ねるデビッド・フート氏によると、ストレージ管理者の給与水準は、2006年下半期だけで20パーセントも上昇した。

 また、上級ストレージ・ネットワーク管理者の給与は、2006年12月までの18カ月で10パーセント上昇したという。この数字は、「IT関連職種の給与上昇率としては、平均をかなり上回っている」(フート氏)のである。

 人材不足と電気料金の高騰は、ストレージ管理者の給与の上昇へとつながり、年間70パーセントの勢いで拡大を続けるストレージ・ニーズは、IT予算を急激に圧迫し始めている。こうした複合的なストレージ問題に、企業はどのように対応すればよいのだろうか。

深刻化する電力不足

 一般にディスク・ドライブ/テープ・ドライブの電力消費量は、データセンターで利用される電力の5分の1程度にすぎず、サーバによって消費される電力(残りの5分の4のほとんど)に比べればはるかに少ない。

 しかしながら、オンライン上にストアされ、本番用のアプリケーションによって利用されるテラバイト規模のデータは、災害時に備えてバックアップを取っておく必要がある。

 また、コンプライアンス対策のために“第3のコピー”をアーカイブしておく必要が生じることもある。その結果(コピーを重ねることによって)、データが3倍になれば、もちろんそれを格納するストレージ・デバイスの電力消費量も3倍になるわけだ。

 さらに、それに伴って、冷房のダクトやウォーターパイプなどの配管を拡張したり、緊急電源を増強したり、発電機を大型化したりといったことも必要になってくるわけだから、やはりストレージ関連の消費電力量の節減は管理者が取り組むべき課題としては最優先事項ということになる。

 管理者にとって憂鬱なことに、電気料金は今後さらに上昇すると見込まれている。米エネルギー省によると、データセンターなどの商用ユーザーの電気料金は、 2000年にはキロワット時当たり平均7.43セントであったが、2005年にはこれが平均8.67セントにまで上昇した。さらに、2006年11月には、キロワット時当たりの平均料金は9.11セントに達した模様だ。

 また、地域によっては、キロワット時当たりの料金が最高14.38セントになるようなところも出てきているという。例えば、「ワシントン州東部では、MicrosoftやYahoo!、Intuitなどが相次いで大規模なデータセンターを設置した結果、電力需要が急増し、電気料金が高騰した」と指摘するのは、シカゴの大手不動産販売会社ストーバックの代表、ジム・ケーリガン氏だ。

 バージニア州アーリントンにある国際的な電力会社、AESコーポレーションで副社長兼CIOを務めるジョージ・コールター氏は、「この1年半ほどの間に、電力事情はさらに深刻さを増した」と、業界の状況を打ち明けたうえで、ユーザーの立場から問題のありかを次のように証言する。

 「われわれのデータセンターは十分なキャパシティを持っていたはずなのだが、最近、少々不安が出始めた。というのも、ここにきて、機器を稼働させるための電力ではなく、空調設備用の電力をいかに確保するかという課題が浮上してきたからだ」

 その懸念は、ひとりAESだけのものではない。市場調査会社Gartnerが2006年に発表した予測によれば、全世界のデータセンターの約50パーセントは、2008年までに、ブレード・サーバなど高集積タイプの機器のサポートに必要な電力および冷房用電力のキャパシティ不足に直面することになるという。

 こうした現状を見据えて、「電力需要は、発電所から主要都市へと電気を供給する高圧送電グリッドの拡張スピードをしのぐ勢いで増加している」と指摘するのは、カリフォルニア州パロアルトのエレクトリック・パワー・リサーチ研究所でイノベーション担当副社長を務めるクラーク・ケリングス氏だ。

 ちなみに、米エネルギー省は、2006年8月に発表した報告書で、米北東部とロサンゼルス・エリアでは、こうした送電線が過密状況に陥りつつあると指摘している。

 データセンターの建設コストは、ロケーションや稼働時間など、さまざまな要因によって変動するが、ケリングス氏によると、“ファイブ9”(99.999 パーセント)の信頼性を目指そうとすると、通常よりは1平方フィート当たり1,000ドル以上もコストが上昇することを覚悟しなければならないという。

ベンダーも省エネ化で協調

 高いコストと低いアベーラビリティの問題から逃れるべく、最近、一部のユーザーは、複数のベンダーからスペースを借りるなど設備の分散配置に乗り出している。

 ワシントン州に本社を構えるユニバーサル・サービス・アドミニストレーティブも、オペレーションの多くの部分を本社からそうしたロケーションへと移動させつつある。同社で情報システム戦略およびアーキテクチャ担当ディレクターを務めるブライアン・サストカス氏は、「本社のビルには、これ以上電線を引き込むことができない」と、嘆いてみせる。

 最近では新規にデータセンターを建設する場合、電力不足で悩むことがないように、必要に応じて電力や空調設備を簡単に増強できるような設計にしておくことが多い。

 アウトソーシング・ベンダーのインフォクロッシングでCTOを務めるデーブ・レオナード氏によると、同社ではアリゾナ州テンペに新しくデータセンターを建設したとき、冷房の効果を高めるために、床下に36インチの空間を残したという(通常は11か18インチ、せいぜい24インチどまりといったところ)。

 それだけでなく、ビル内に引き込むことのできる電線数を増やすとともに、データセンター全体に冷却水や冷気を循環させるための配管も通常の設計より増やしたという。

 他の企業も、仮想化やデータ・デデュプリケーション(重複の除外)、データ圧縮といった技術を導入することによって必要とするストレージ量を削減するなど、データを保持するための電力量(ストレージ・デバイスの数)を減らす努力を続けている。一方、ベンダーの間でも、製品の省エネ化で協調する動きが活発になっている。

ストレージ管理の重要性

 ストレージ管理プロセスが全体のコストに占める割合は、確かに決して小さくない。しかしながらと言うべきか、だからこそと言うべきか、ストレージ管理を正しく実行すれば、管理者はストレージの需要を劇的に減らすことができる。

 サストカス氏は、厳格なストレージ管理ポリシーとドキュメント管理システムによってストレージ管理を徹底する一方、「ワークフローと文化を変えることによって」(同氏)スペースを無駄遣いしていたそれまでの慣行を改めることに成功したという。

 例えば、1人のユーザーが30人ないし40人の同僚に同じ5MBのPDFファイルのコピーを送り、それぞれがネットワーク・ドライブに複数のリビジョンをストアするといった状況を避けるために、ドキュメント管理システムがすべての対象ユーザーにファイルのコピーをダイレクトに送付できるようにしたのである。

 一方、ニューヨークをベースに写真共有型のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を運営するフォトログのCTO、ワレン・ハビブ氏は、3PARdataのストレージ・サーバを利用することで、年間6万ドルの管理コストを節約することに成功したという。

 3PARdataの“シン・プロビジョニング”技術によって、必要に応じてストレージ・ボリュームが自動的に拡張されるため、「定期的にボリュームをリサイズしたり、データ量の増加を常時モニターしたりする必要がなくなった」(ハビブ氏)というのが、管理コストを削減できた大きな理由だ。

 また、ダラスに本社を置く防衛関連企業、ノースロップ・グラマンで共有サービス・オペレーション・グループ・ディレクターを務めるケン・レーマン氏は、 700PB以上に膨れ上がった社内データの増殖を食い止めるため、全社レベルの情報ライフサイクル管理プロジェクトに力を入れている。

 同氏は、向こう3年から5年の間にはメジャーな技術変更はないと見て、その間に、価値の変化に応じてデータを安価なデバイスに移していき、不要になった段階で破棄するというプロセスを確立しようとしている。「この情報ライフサイクル管理が実現すれば、スタッフ、電気、スペース、データ保護、その他のストレージ・コストに大きなインパクトを及ぼすことができる」と、同氏は期待を隠さない。

 このように、デデュプリケーション、シン・プロビジョニング、仮想化といった新しい技術を利用すれば、データのストアに必要なスタッフや電力需要の増加を抑制することが可能である。しかしながら、管理者にはその前にまずやらなければならないことがある。それは、データを可能な限り選別し、削除することを前提としたポリシーを設定して、最初からデータそのものを増やさないようにすることだ。

(Computerworld.jp)

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