エンタープライズ・レベルに達したiSCSI――急速に普及するiSCSI-SAN。その技術の成熟度を測る 2ページ
「低コスト」と「容易な管理」が最大のセールスポイント
仮想化はiSCSIの大きなセールスポイントではあるが、これは数あるメリットのうちの1つにすぎない。
ホスティング・サービス会社のインテレネット・コミュニケーションズでプロフェッショナル・サービス担当ディレクターを務めるジェフ・スタイン氏は、プロビジョニングとメンテナンスを効率化する方法を模索するなか、3年ほど前からiSCSIに注目していたという。同氏は、当時のiSCSIについて、「技術的に当社のマネージド・サーバ・サービスに適用できるようなものではなかった」と振り返る。
しかし、そんなスタイン氏も、今ではすっかり“iSCSI推進派”となったようだ。「iSCSIは技術的に安定し、価格も安くなった。iSCSIのおかげで当社はディスクレスのマネージド・サーバを提供することが可能になった。サーバのOSと顧客のデータはSAN上に置かれており、現在はiSCSI環境で約1,000のサーバを顧客に対して提供している。iSCSI-SANに移行したことで、プロビジョニングなどに要する時間は従来の1/6程度にまで短縮できるようなった」と同氏は強調する。
iSCSIが導入される以前、インテレネットでは、一部顧客向けの特別サービスとしてFC-SAN環境も用意していたが、基本的なサービスはすべてサーバ直結型のDAS(Direct Attached Storage)で提供していた。「全サービスをFCベース化することも検討したが、その場合のコストはiSCSIの10倍に上り、スタッフのスキルに関する問題も浮上したため実施には至らなかった。現在、当社の24時間365日対応のスタッフは全員がiSCSIデバイスに精通しているが、FCではこうはいかなかっただろう」(スタイン氏)
インテレネットのSAN環境は、iSCSI-SANベンダーのEqualLogicが提供するデータ・アレイ上に構築されている。なおEqualLogicは、クラスタ・ストレージ上で動作する仮想化ソフトウェアも提供している。
EqualLogicの製品は、保険会社セーフウェイ・インシュアランス・グループが自社内で行った製品評価テストにおいて、ストレージ大手EMCの「CLARiiON CX」シリーズと最後まで1位の座を争った。同グループのネットワーク・サービス・マネジャー、マイク・レザー氏によると、再三請求したにもかかわらず EMC側が製品のパフォーマンス・データを提供しなかったため、最終的にEqualLogicの「PS」シリーズを採用することに決定したという。
同グループでは当時、基幹システムであるSQL Serverクラスタのパフォーマンスを向上させる必要に迫られていた。ボトルネックはシステムのDASに対するI/Oにあり、これはつまりSANソリューションを導入する必要があるということを意味していた。「当初はFC-SANの導入を検討していたが、HBAやFCスイッチを購入する必要のない iSCSIのほうがはるかに安上がりだった」(レザー氏)
新システムが立ち上がったのは 2005年10月中旬だったが、実運用は慎重を期して2006年2月に入ってからとなった。その後、セカンダリのSQL ServerやExchange ServerなどのストレージもSANへ移行し、2006年夏には、新たなプロジェクトとしてレプリケーションの導入にも着手。レプリケーション用のシステムには、EqualLogicのiSCSI対応ストレージ「PS 3600」と同社のレプリケーション・ソフトウェアが採用された。レザー氏は、「現在当社には、まったく同じシステムが2つあり、それらの間でデータベースを5分おきにレプリケートしている」と説明する。
現在のところ、両システムともイリノイ州ウェストモントにある自社サイトに置かれているが、今年4月には、800マイル以上離れたセカンダリ・サイトに一方を移動する予定だという。「この2つのシステムは、堅牢なディザスタ・リカバリ・システムとして、10MbのメトロEthernetを介してiSCSI接続されることになる。また2007年後半には、完全な双方向レプリケーションと完全な冗長ホットサイト構成を実現する。さらに2007年中に、ロード・バランシングの機能も整備する。そしてこれらと並行して、仮想化の評価も進めていく予定だ」(レザー氏)
セーフウェイ・インシュアランス・グループの環境では、これまでのところ特に大きな問題は起きていないが、レザー氏によると、iSCSIの導入を検討する前に1つ注意すべきことがあるという。「過去3年間、ネットワーク・インフラのグレードアップなどを行っていないのなら、まずそれを試してみたほうがいい。当社の場合は、数年前にスイッチを交換してギガビットEthernetを導入していたので、これには当てはまらなかったが」とレザー氏。
ビール卸売業者のハウス・オブ・ラローゼでシステム管理者を務めるダン・ブリネガー氏の場合、適切なインフラを整えられたことが、iSCSIのよさを引き出すのに役立ったという。「社屋の移転に伴い、ネットワークを自由に設計できることになったので全面的にギガビットEthernetを導入し、加えてルーティングが可能なCiscoのCatalyst 4500スイッチを購入した」とブリネガー氏は語る。
ハウス・オブ・ラローゼでは、このスイッチのルーティング機能を使って、iSCSIのトラフィックとそれ以外の業務トラフィックを切り分けているという。これは、標準的なIPネットワーク上で使用できるというiSCSI最大のメリットをデメリットにしてしまわないために重要なことだ。トラフィックの切り分けを行わないと、ストレージのトラフィックがミッション・クリティカルなシステムのパフォーマンスを低下させてしまう可能性があるからである。
またブリネガー氏は、FalconStorのストレージ仮想化ソフトウェア「IPStor」を通じて、ハイエンドのLinuxマシンを4TBのストレージを備えたRAIDアレイとして利用している。「われわれの最大の目的は継続的なデータ保護の実現であったが、そのための予算は4万ドルしかなかった。この予算とパフォーマンス要件を考えれば、iSCSI以外に選択肢はなかった」と、ブリネガー氏は当時の状況を振り返る。
同氏によると、同社では現在、データ・ウェアハウスや給与計算システム、車両管理システムの常時バックアップを実現しているという。「当社にはNovellのシステムがいくつもあるのだが、これらについては現在もFCを使用している。とりわけNetWare 5.1はiSCSIと相性が悪いため、6.5にアップグレードした後でiSCSIに移行することになるだろう」とブリネガー氏。
同氏は加えて、「iSCSIを導入したことで、バックアップの仕方が大きく変わった。サーバごとにテープ・ドライブを接続していた以前と比べると、管理者としての負担は大幅に軽減された」と語る。
Column 1:SMB向けのネットワーク・ストレージ製品が続々登場
マーク・レオン |
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NAS(Network Attached Storage)市場で実績のあるNetwork Appliance(以下、NetApp)は、SANにも力を注いでいる。例えば、米国最大の石炭輸出企業であるコンソール・エナジーでは、NetAppのストレージ製品「FAS960c」を2台クラスタ化し、iSCSI-SANを構築している。FAS960cは、単体でSANとNASの両方に対応するネットワーク・ストレージ・システムである。 これに対する競合製品が、まだそれほど著名とは言えないベンダーから登場している。NASの機能強化に力を入れているAgami Systemsは、4つの64ビットOpteron、大規模環境向けのSATAドライブ、AMDのHyperTransportデータリンクを、消費電力の少ないコンパクトな筐体に搭載したSMB(小・中規模企業)向けのストレージ・システム「AIS(Agami Information Server)」を提供している。そのAgami Systemsが、2007年2月にSAN市場への参入を果たした。同社のAISシリーズ全製品で動作し、NASとSANの両方をサポートする新OS「Agami OS 3.0」をリリースしたのだ。 ITサービス企業のルミナルトでエンジニアリング担当バイスプレジデントを務めるバルマー・クナパラジュ氏は、複数の顧客のサイトでAIS製品の検証を進めている。「これまでの検証で驚くべき結果が出ている。同製品のパフォーマンスは、アプリケーションに対するアウトプットが400~500MBの純粋なiSCSIデバイスに匹敵する。ある顧客は、製品の購入を真剣に検討中だ」(クナパラジュ氏) 一方、HPは2006年9月、シンプルなストレージ・システムを望むSMB向けに「HP StorageWorks 400 AiO Storage System(以下、AiO 400)」を発表した。AiOとは「All-in-One(オールインワン)」の意味で、iSCSIターゲット(サーバ)およびイニシエータ(クライアント)間のブロック単位でのデータ転送や、ファイル・レベルの接続により、SANとNASの両方の働きをするストレージだ。AiO 400のベースとなっているのは「ProLiant DL 100 G2」で、OSにはMicrosoftの「Windows Storage Server」を採用。250GBのSATAドライブを4基と、デュアルポートEthernetインタフェースを搭載している。 米国フロリダ州タンパに拠点を置くセーレム・ロー・グループの情報システム担当ディレクター、デビッド・レイ氏は、HPのAiOアプライアンスを高く評価している1人だ。同氏は、SANおよびNASソリューションを探している最中にHPの製品を知ったという。 「機能性にすぐれるソリューションはどれもあまりに高価で、当初はがっかりさせられることが多かった。しかし、AiOは違った。操作はポイントとクリックだけであり、実にシンプルだ。セットアップを済ませ、ExchangeストアをAiOアプライアンスへ移行するのに20分もかからなかった」(レイ氏) その後のテストもうまくいったため、レイ氏は2台のAiO 400を約1万ドルで購入した。このうち1台はフロリダ州ラーゴのコロケーション・サイトに設置し、分散ファイル・システム(DFS)を用いてWAN経由のバックアップを行っている。 同社では、AiO 400とアプリケーション・サーバの間をiSCSIで接続している。レイ氏によると、その設定は非常に簡単で、単にEthernetポートに接続するだけだという。また、パフォーマンスを向上させたければ、ギガビット・スイッチを使用することもできる。「これがiSCSIであると知らなければ、IPストレージであることにすら気づかないだろう。テストは無事に終了しており、システムの一方のセットアップは助手に任せても大丈夫だと思っている」(同氏) 調査会社のIDCによれば、NetAppやEMCなどの数社が、AiOの競合となるオールインワン型のシンプルなSMB向けネットワーク・ストレージを近く投入する予定だという。これにより小・中規模企業も、ストレージの分野で最も革新的なテクノロジーのメリットを享受できることになりそうである。 |