“ハイパーバイザ・バトル”を制するのはだれ?――白熱する仮想化市場
John Fontana/Robert Mullins
Network World米国版
「仮想化発表ラッシュ」の裏にあるもの
今年11月中旬、Microsoftの「Hyper-V」、Oracleの「Oracle VM」、Sun Microsystemsの「Sun xVM」など、米国の大手ベンダーによる仮想化ハイパーバイザ関連の発表が相次いだ。その裏にあるのは、ユーザー企業を巻き込んだ仮想化ブームの熱気に乗って、サーバ仮想化市場の王者であるVMwareを打ち倒し、自ら王座につかんとする各社の熱き思いである。
彼らがとろうとしているのは、まずハイパーバイザ技術をコモディティ化し、次いで企業ネットワークの仮想化に向けた管理ツールを提供することにより、(VMwareに取って代わって)企業ユーザーに食い込もうという戦術である(戦術の詳細については後述)。
一方、6年前に企業向け仮想化ソフトウェア製品の第1弾を投入して以来、この市場でリーダーの座を守り続けるVMwareは、一貫して「ハイパーバイザのコモディティ化」という路線を否定し続けている。あえて軽量化することを避け、プロプライエタリな管理技術に基づいて構築することを選んだ同社のハイパーバイザの“奥深さ”はだれしもが認めるところであり、今のところは、VMwareの独占状態が当面続くであろうとの見通しを否定する専門家もいない。
だが、上述した発表ラッシュからも見てとれるように、仮想化市場における競争は過熱する一方で、今年8月に米国Citrix Systemsが5億ドルでXenSourceを買収したことで、体力勝負に入った感もある。
仮想化市場で繰り広げられるこうした激しい競争の恩恵は、あるいはハイパーバイザがインストールされたサーバ・ハードウェアというかたちで、またあるいはサーバやストレージなどの仮想化環境を物理リソースとともに同時管理するツール・セットというかたちで、ユーザー企業にもたらされることになる。
2大派閥の戦い「VMware vs. Xen」
今日のハイパーバイザ市場は、「VMware」と「Xen」の2大派閥によって形成されている。ご存じのように、Xenはオープンソースのハイパーバイザ・プロジェクトであり、“Xen派閥”には、本家のXenSourceのほか、Oracle、Red Hat、NovellなどのXenをベースにした技術が含まれる。
VMwareのハイパーバイザは、VMwareのサーバ仮想化ソフトウェア「VMware ESX Server」の中核を担う技術である。同製品に、障害復旧のための「VMotion」などの企業向けの管理機能を組み込んだ「VMware Infrastructure」は、堅牢性の高さを最大の特徴としている。
これに対し、 Microsoftが先日発表したハイパーバイザ「Hyper-V」(開発コード名:Viridian)は、単体のサーバ仮想化ソフトウェア「Hyper-V Server」として提供されるほか、Windows Server 2008のアドオンという形態でも提供される予定だ。また、Red HatとNovellも、それぞれのLinuxディストリビューションの一部として、ハイパーバイザを提供している。
一方、これまでハイパーバイザ・アーキテクチャをあえて採用してこなかった米国SWsoftも、来年には、サーバ仮想化ソフトウェア「Parallels Server」の一環としてハイパーバイザを提供する計画だ。
こうした動きに対抗するかたちで、VMwareは11月中旬、軽量の無償版ハイパーバイザ「VMware Server」の2.0ベータをリリースした。
米国の市場調査会社Illuminataのアナリスト、ゴードン・ハフ(Gordon Haff)氏は、「現在、あらゆるベンダーが、何らかのかたちでハイパーバイザ・レースに参戦したいと考えている」と語り、その結果、市場に次のような混乱が生じていると指摘する。
「まず、今の市場には、ハイパーバイザを制御用のOSとセットで提供する方法と、サーバ・ハードウェアに直接組み込むという方法の2つの流れがあるが、そのどちらが主流になるかわからないというのが第1の問題だ。第2に、今後もVMwareがハイパーバイザのトップ・サプライヤーとして君臨し続けるのかどうかという疑問がある。さらには、そうしたことがユーザーにどういった影響をもたらすのかということもはっきりしない」
この最後の疑問に、「ハイパーバイザはいずれ、制御用のOSを必要としなくなり、ハードウェア・ベンダーによって直接サーバ・マシンに組み込まれるようになる」との構想を打ち出すことによって答えようとしているのが、ほかならぬVMwareである。同社は今年9月に、制御用のOSを廃してわずか32MBのサイズにサーバ仮想化機能を収めた新製品「VMware ESX Server 3i」を発表している(関連記事)。つまり、同社の構想どおりに事態が推移すれば、今後、ユーザーは、ハードウェアをプラグインするだけで、直ちにゲストOSのローディングを開始して、仮想マシンを構築できるようになるわけである。
だが、VMwareの競合ベンダーは、「ハイパーバイザの役割はライブ・マイグレーション、高可用性、一元管理など限られたものだけで十分」と見ており、企業の(購買)意欲はむしろ、「仮想と物理の両環境をカバーする管理ツール」に向けられるようになるだろうとにらんでいる。
こうした方針から、Xen派閥に属するベンダーの多くが、すでに(VMware流の)堅牢なハイパーバイザ・アーキテクチャとは一線を画す動きに出ている。
例えば、XenSourceは、同社の管理ツールで、独自技術とMicrosoftの次期技術の両方をサポートしようとしている。MicrosoftとNovellも、現在、同じような統合作業を進めている。また、Oracleは11月中旬、独自のXenベース・ハイパーバイザをリリースした。
OS組込型か、それとも独立型か
ところで、Microsoftは先に述べたように、Hyper-Vを核とするHyper-V Serverを製品化することによって、仮想化はOSの一機能だとする従来の考え方を180度転換させたことになる(もっとも、Hyper-Vは Windows Server 2008のアドオンとしても提供されるわけだから、OSの一部だとする考え方を完全に捨てたわけではない)。この新製品は、すでに、Dell、富士通、日立製作所、Hewlett-Packard(HP)、IBM、Lenovo、NEC、Unisysといったハードウェア・ベンダーのサポートを取り付けることに成功している。
これに対して、Sunは中間路線を歩むようだ。同社が無償提供する独自のハイパーバイザ型サーバ仮想化ソフトウェア「xVM Server」には、ゲストOSからアクセス可能な同社開発のファイルシステム「ZFS(Zettabyte File System)」と障害管理を担う「Fault Management Architecture」が採用されている。
調査会社Burton Groupのアナリスト、クリス・ウルフ(Chris Wolf)氏はハイパーバイザの動向を次のようにまとめてみせる。
「現在、市場にはサーバ仮想化製品を巡る2つの流れがある。それは、『仮想マシンを走らせるだけの役割を担った(ハイパーバイザを搭載した)サーバ』と『OSの一機能としてハイパーバイザを搭載したサーバ』だ。ちなみに、セキュリティの視点から言えば、軽量のハイパーバイザ(前者)は、制御用のOSと並行して走るハイパーバイザ(後者)よりもずっと攻撃されにくい」
さらにウルフ氏は、MicrosoftがWindows Server 2008に依存しない、単体のハイパーバイザ型サーバ仮想化ソフトウェア製品としてHyper-V Serverを投入することについて、「Microsoftにとっては、考えるまでもない決断だったはずだ。自社のハイパーバイザが市場に受け入れられるかどうかは、IHV(独立系ハードウェア・ベンダー)にどれだけたくさん組み込んでもらえるかによって決まるのだから」と至極、肯定的にとらえている。
VMwareの王座も決して安泰ではない?
ライバルたちの動きに負けじと、率先して変化に取り組むVMwareだが、「ハイパーバイザは必要不可欠な技術」という基本姿勢だけは揺らぐことがないようだ。
上で紹介した同社の新製品、ESX Server 3iは、サーバ・ハードウェア組み込み専用のハイパーバイザとして提供される。OSには一切依存しない、いわば「シン・ハイパーバイザ」である。
VMwareで製品/ソリューション担当バイスプレジデントを務めるラグー・ラグラム(Raghu Raghuram)氏は、「高可用性、モビリティ、リソース管理、全体的な管理レベルの向上など、ハイパーバイザはありとあらゆるメリットを有している」と前置きしたうえで、「Microsoftの製品アーキテクチャでは、仮想化はOSの一部と位置づけられていたが、ここにきて彼らはハイパーバイザの位置づけを再考しつつあるようだ」と、ライバルの動きを皮肉る。
もっとも、最終的に勝利するのは(新たな)ハイパーバイザ・モデルではなく管理ツールかもしれない。それを裏づけるかのように、Sunは、物理環境と仮想化環境の両方を管理する「Ops Center」を12月から提供し始めるし、Microsoftも同様のコンセプトの下に、管理プラットフォーム「System Center」を構築中だ。
Burton GroupのWolf氏は、この件に関して、次のような見解を述べる。
「後発ベンダーの多くが、仮想化が成熟期に入ってから管理インフラを構築したのに対し、VMwareは仮想化が成長過程にある時期に独自インフラとアーキテクチャを作り上げたため、管理面に関しては若干の手直しが必要なようだ。もちろん、他のベンダーは仮想化技術を市場に投入するまでに(VMwareより)はるかに長い歳月を要しているわけだが、彼らのコア管理アーキテクチャがVMwareのソリューションよりもずっとわかりやすいのは確かだ」
同氏に言わせれば、現在の仮想化市場では、「VMware vs.その他のベンダー」という図式が定着しているが、必ずしもVMwareが一方的に優位に立っているというわけではなさそうだ。
「一方に、ハイパーバイザのコモディティ化で手を組んで、(その取り組みを)管理分野にも広げようと狙っているベンダー群があり、もう一方には、異なるハイパーバイザ・モデルを掲げるVMwareがいる。おそらく来年には、前者の中からVMwareの強敵が出現し、仮想化市場はVMwareの独壇場ではなくなるだろう。機能面では依然としてVMwareに一日の長があるかもしれないが、もしVMwareソリューションの4分の1のコストで必要な機能が入手できるようになれば、その製品は十分に競争力を持つはずだ」(Wolf氏)
(Computerworld.jp)
提供:Computerworld.jp