Microsoftがインドの提携NGOに影響力を行使 OOXML支持を依頼

 Microsoftはインド国内の提携団体に対しOffice Open XML仕様(OOXML)をインド標準局(BIS)とインドIT省に押すよう促している。競合するOpenDocument Format(ODF)の支持者たちはこの動きに憤慨し、「ソフトな」インドはMicrosoftの圧力戦術に抵抗できないのではないかと危惧している。

 Open Source Initiative(OSI)のボード・メンバーRaj Mathur氏は、MicrosoftがNGOに送った依頼状のコピーを持っているという。「Microsoftは、いくつかの非営利団体に対して、OOXMLプロポーザルを支持している旨の意見書をインドIT長官とBIS担当局長に送りつけるよう『説得』している」

 Mathur氏はこの依頼状を「雛型」と呼んでいるが、それはこの依頼状が意見書の書き方まで指南しているからだ。「すでに説明しましたように、本状にはいくつかの添付資料が同封してあります。例文は適宜加筆修正の上ご活用ください。一覧は本状をお送りしたNGOです。その他の参考資料には本依頼に関わる事項(原文にタイプミスあり)が詳細に説明されています。以上、ご高配を賜りますようお願い申し上げます。なお、意見書をお送りいただける場合は、当社にて進捗を把握いたしたく、お手数とは存じますが署名(原文にタイプミスあり)済みの意見書の画像を当方までお送りいただきますようお願い申し上げます」

 依頼状の本文では「当NGOはOXML(原文のまま)を標準として支持します。選択の幅が広がり相互運用性が高まるため、私たち最終消費者の持つ選択の幅が広がるからです。複数の標準の存在は我が国の経済、また技術の革新と進歩にとって好ましいことであり、当NGOのような選択と技術革新を必要とする小さな団体にとってはことさらに望まれます」という主旨のことを記すよう求め、その後に団体の活動について記述するよう助言、さらに「これには経済的負担がまったくないため社会の福利と発展のために使うべき資源が減ることもありません。当NGOは、この点からもOXMLを支持します」旨記すよう書いている。

 電話での取材に対して、Open Source Foundation of Indiaの創設者の一人Venkatesh Hariharan氏は、NGOがそうした意見書を送ったとしても責めるつもりはないと述べた。「たぶん、その支持したるところを知らざればなり、だからだ」。Mathur氏も同じ意見だ。「……OOXMLとオープン標準について本当に知っているNGOがどれほどあるのだろうか」

 Microsoftは、Project Jyotiプログラムを通じて、インドのいくつかのNGOと協力関係にある。同プログラムのWebサイトに掲載されているNGOに電子メールで依頼状について尋ねたが、回答はどこからもなかった。

 Hariharan氏は「インドは心優しき国だ。こうした倫理にもとる行為をしても咎められることはない。こうした手続きにNGOが利用されているのは大変悲しい」と述べた。

 Microsoft Indiaでコーポレート・コミュニケーションを統括するMeenu Handa氏に、問題点を十分に理解していないNGOに対してOOXML支持を求める理由を尋ねたが直接的な回答はなかった。代わりに、Handa氏はProject Jyotiプログラムの背景を説明し、Microsoftは13のNGOと提携し「3億7500万ルピー(約930万米ドル)相当の現金とソフトウェアを提供しているだけだ」と述べた。

 「そうしたNGOは社会の重要な領域を代表する。したがって、彼らの意見は[Office] Open XML問題についてBISが設置した委員会で表明されるべきであり、この手続きにおける重要なる利害関係者の一人として、この問題についての彼らの意見と支持を求めたのだ。世界中で使われる文書形式の一つとなるであろう規格の採択過程に参加することは、このコミュニティにとって大きな関心事だ。これは消費者の選択と技術革新にまつわることだからだ。いろいろな意見があることは承知しているが」

 「いろいろな世界標準がある中でOOXMLを検討するためにISOが始めた手続きでは、主権国家の国家機関が世界のIT産業とその利用者の利益にかなうと思われる標準の審査と改善に参加することが保証されている。[Office] Open XMLはその格好の例だ」

 「ご存じのように、[Office] Open XMLを自発的に支持すると表明したNGOの数はProject Jyotiプログラムで提携するNGOの数よりはるかに多い。支持の意見書を送るという判断は、それぞれの団体の基礎(原文のまま)、利益によって行われたものだ。同様に、提携先の中には意見を表明しないことを選択をしたところも多い」

 Microsoftが支持を求める依頼状を送った提携先はNGOだけではない。先月、著名なインド産業界の団体、インド商工会議所連合(ASSOCHAM)は「公益の観点から」OOXMLを標準とすることを推奨すると報道発表した。Hariharan氏によると、同連合は記者に質問に対してMicrosoftが同連合の会員だから支持したことを認めたという。

 Hariharan氏はASSOCHAMに苛立ちを覚えているが、それは同連合がインド国内のオープン標準推進団体にまったく相談しなかったからだ。「やはり(Microsoftから)依頼されたと思われるインド商工会議所連盟(FICCI)はそれを会員に回覧し、IBMの意見も聞いている。今どき、何か問題があったとき、それを調べることにどれほどの困難があるというのだろうか」

 Microsoftが提携先に影響力を行使しようとするのは、これが初めてではない。昨年、スウェーデンの提携先に特別な「マーケティング支援」を行い、OOXMLへの賛成票を投ずるよう促している。この策略は一旦はうまくいったが、その「賛成」票はのちに無効と宣言された。記録的な額の反トラスト制裁金を賦課したばかりのEUは、現在、MicrosoftによるOOXML形式支持獲得のための活動を調査している。

 「(正しい標準を選択することの)重さについて、インドはまだ政治的に目覚めていない。我々はOOXMLを技術レベルで論じるが、問題はそれよりもずっと深いのだ。今、標準に関する特許の保有は貿易に対する非関税障壁だと論じる人は多い」とHariharan氏は話す。

 MicrosoftがNGOに送った依頼状は、インドのオープン標準支持団体にとって目覚ましのベルとなった。「知る限りの政策立案者に呼びかけるつもりだ。こうしたプロプライエタリーな標準は人と人が行うコミュニケーションに対する課税であり、地域経済に何の価値ももたらさないからだ。しかも、ほかにも標準はあるのだ。インドが妥協すべき理由はない」

Linux.com 原文