OOXMLに反対するKOfficeの立場は政治的ではなく実際的~KOffice開発者

 GNOME FoundationがODFを切り捨てMicrosoftのOOXML形式を支持していることを非難した最近の記事翻訳記事)の中で、KDEはその反証として示されている。またRichard Stallman氏もKDE Newsの記事を引用して「多数のKDE開発者がOOXMLの拒否を宣言している。GNOME開発者もそうするべきではないか」と提案している。またつい最近では、広く参照されているITWireの記事も、同じ記事を指してKDEはOOXMLに反対して自らの主義主張を貫いたと報じている。しかし当の開発者に聞いたところ、実際のところは上記のような報道とは微妙に異なるようだ。

 確かに、KOffice(KDEとは別プロジェクト)がOOXMLを早期に実装しないという点は事実であり、その理由の一つには政治的なこともある。しかし同時にこの決断は実際的なものでもあって、KOfficeはOOXMLの将来的なサポートの可能性までも否定したわけではない。

 David Faure氏は9年前からKDEの開発者であり、同じくらい前からKOffice開発にも参加している。これまでにはKonquerorやKDesktopのほか、数多くのKDEのコアライブラリにも取り組んできた。またKOfficeでは主にKWordワードプロセッサの開発に注力してきた。さらに2003年以来KOfficeを代表する形でOASISのODF技術委員会にも参加していて、KWordが必要とする変更(例えば全ページに適用されるフレームのサポートや、DTPモードのサポートなど)の実現に尽力してきた。

 Faure氏は間違いなく開発者の中でも特に熱心なODFの支持者で、非公式にKOffice開発者を代表して次のように述べた。「われわれがODFを気に入っているのは、ODFが最初から、HTMLやXMLなどと同様、アプリケーションの設計とは独立して設計されているところだ。それにODFは既存の数多くの標準をベースにしている」。

 一方OOXMLに対してはFaure氏は厳しい意見だ。「Microsoftはオープンな形式を作ったかのような振りをしているが、本当の狙いは、将来的にあらゆる人にOOXML形式を使わせようとして、OOXML形式がオープンであると企業や政府に信じ込ませようとしているだけだ。しかし実際には、OOXMLの技術的な問題を指摘している数多くのウェブやブログの記事からも分かるように、OOXMLは(Microsoftの従来の)バイナリ形式とまったく同じくらいクローズドだ」。OOXML形式が非常に複雑であるためOOXMLを完全に実装することができそうなのはMicrosoft Officeだけだろうと述べた後、Faure氏は「OOXMLがオープンだというのはすべてでっち上げだ」と遠慮なく付け加えた。

 しかしそのような強気の発言にも関わらず、OOXMLをサポートしないという決断に関しては「主な理由は政治的なものではない。最大の理由は人手不足だ」とした。

 Faure氏の説明によれば、この一年間KOfficeプロジェクトは、KOfficeオフィススィート全体の大規模な書き直しであるKOffice 2.0に、持てるエネルギーのすべてを注ぎ込んできたのだという。「つまりその他の形式のサポートは後回しだということ。ファイルのインポートを改善する前に、まずは機能するアプリケーションを用意する必要がある」。

 そのような状況ではOOXMLをサポートするコードを開発しようとすることはほぼ不可能だ。「OOXMLは非常に複雑な形式で、OOXML形式のXMLは古いバイナリ形式とほとんど同じくらい複雑だ。KOfficeでは古い形式、つまり .DOC形式に関しては、テキストと書式はインポート可能だが画像はインポート不可能というところまでしか実現することができなかった。さらに言えばOOXMLには数多くの不具合があるため、実装は非常に困難だと言わざるを得ない。いつかの時点でサポートコードの開発に着手する可能性もあるかもしれないが、開発が一体いつ完了するのかは誰にも分からないだろう」。

 とは言え多くのメディア報道から受ける印象とは違って、KOfficeが後々OOXMLをサポートするという可能性がないわけではない。Faure氏はこれまでのMicrosoftの形式のサポートにKOfficeが取り組んできた理由はユーザからの要求だったということに触れて次のように述べた。「OOXMLをサポートするとしたら、需要があることが必須条件だ。けれども今のところはまだOOXMLに対するユーザの要求はあまり多くはない。MicrosoftがOOXMLが将来の形式だと言ったからといって、ユーザの要求もないというのに今すぐにOOXMLに取り組むのはまったく非論理的だろう」。

 一方でFaure氏は次のようにも述べた。「これらの実際的な観点からの結論には、政治的に好ましい副作用もある。仮に今の時点でKOfficeにOOXMLの優れたサポートがあったとすれば、人々がOOXML形式に移行するのが促進されることになるだろう。それはまさしく、われわれの望まないことだ。したがってわれわれは政治的な駆け引きをしているとも言えるのかもしれない。つまり今すぐにはOOXML形式のサポートの開発を始めないことによって、(ODF形式の方が将来のためにはずっと優れた形式なので)われわれは人々をODFに移行させようとしていると言えるのかもしれない」。

 さらにFaure氏は次のように述べた。「もしオープンで人々にとって優れたものをMicrosoftが本当に望んでいたのであれば、一つの標準という目的を殺すことになる独自路線を推し進めるのではなく、ODFへ移行したうえで必要に応じてODFの拡張に協力しようとしただろう。しかしMicrosoftはODFに参加するのではなく独自路線を推し進めるという道を選んだので、一つの標準という理想は崩れた。ODF/OOXMLに関することの中で私はこのことをもっとも残念に思っている。そしてもっともっと多くの人々がOOXMLではなくODFを支持することを望んでいる」。

 Faure氏はKOfficeの開発者の一人に過ぎず、KOfficeチーム全体を正式に代表しているわけではない。しかしFaure氏は屈指の開発者だ。また、別のKOffice開発者であるCyrille Berger氏の最近のブログ記事を見てもFaure氏のように考える人が一人ではないことが分かる。

 Faure氏やBerger氏のようなKOffice開発者は、OOXML論争において実際的、及び、政治的な観点からのバランスが取れた人物と言えるだろう。また特にFaure氏は、ODF標準の改良にこれまですでに5年間も取り組んできたという実績もある。そのようなことを考えると、大まかに言ってKOfficeはGNOME Foundationとは著しく対照的だと言える。というのも、一方のGNOME Foundationはと言えば、オフィス用標準形式の開発にはつい最近参加するようになったばかりであるにも関わらず、問題の政治的な面を無視して実際的な面からのみ軽率にOOXMLのサポートに走ったからだ。

 とは言え、このような違いから、KDEはもとよりKOfficeの方がGNOMEよりも高い志を持っていると言えるわけではない。むしろ、そう言ってしまうと、KOffice開発者の主流の意見を一部曲解したもののように思われる。

 KOfficeもGNOMEも、どちらも同じ浅瀬を苦労して進んでいる。しかしその違いは、KOfficeは――おそらくFaure氏がOASISに参加していたことによってより多くの知識を得ることができたために――どうやらGNOMEにはできなかった座礁を回避することができたということだ。

Bruce Byfieldは、Linux.comとIT Manager’s Journalに定期的に寄稿するコンピュータジャーナリスト。

Linux.com 原文