GNOME/OOXMLポッドキャストにさほどの対立はなかった
この議論の発端は、Gnumericスプレッドシートの開発リーダーであるJody Goldbergの活動をGNOMEがサポートしたことにある。Goldbergは、OOXMLとその延長で以前のバイナリフォーマットについて公開を進めるようMicrosoftに圧力をかけるために、ECMAのプロセスを使っている。反対派は、この動きがOOXMLを信認することになると批判し、ライバルであるOpenDocument Format(ODF)へのサポートが犠牲になるのでないかと懸念している。問題を複雑にしているのは、Goldbergの活動が彼の勤務していたNovell(多くのフリーソフトウェア支持者がMicrosoftの協力者と見なしている企業)によって以前にサポートされていたために、反対派の一部は、外部からかかわっている人々の発言に、GNOME FoundationがひそかにMicrosoftをサポートしているという兆候が見られないかと詮索し始めたことである。
以前の記事にあるとおり、GNOME Foundationは自身の行動を説明する声明を発表している。この声明が批判を鎮める効果がなかったので、GNOME Foundationの役員であるJeff Waughは公開討論を提案している。
討論
討論はWaughの開始声明で始まるはずだったが、Waughのポッドキャストへの接続にトラブルが発生したので、代わりにSchestowitzが自身の観点を取り留めなく説明し始めた。Schestowitzは、自分はGNOMEに対する偏見は持っていないとし、このプロジェクトは「もう少し問題のあるグループと対話」しなければならないかもしれないと認めた。しかし、Mono(GNU/Linuxによる.Netの実装)のようなプロジェクトによる活動により、ユーザーが特許侵害で訴訟を起こされるかもしれないという懸念も抱いているようだ。事実Schestowitzは、「実際にMicrosoftは現在さまざまな大企業に入り込み、GNU/Linuxのデスクトップやサーバーを使っている人たちから、実際には特許侵害を明示せずに料金を徴収している」と主張している。
この時点で、Waughが話に加わった。Waughによれば、GNOMEの関与は「GnumericでOOXMLを実装しやすくするためだけに、Microsoftができるだけ多くのドキュメントを提供することになるように」Goldbergを支援することだけに限られており、「また彼が参加を続けていなければ、(Microsoftに)圧力をかけ、(OOXML標準に必要な)ドキュメントのさまざまな細部にまでMicrosoftに協力させることはできないだろう」とのことだ。また、Goldbergの活動を支援する利点は、フリーソフトウェアがOOXMLだけでなく以前のバイナリフォーマットをサポートするためにも役立つことだという。さらに、GoldbergはMicrosoftの協力者どころか、「このプロセスを通じて彼らの悩みの種になっている。なぜなら、Microsoftにとってわざわざやらなくても済んだ作業を彼が強いているからだ」と付け加えた。
Schestowitzはこれに応じて、OOXMLは非ヨーロッパ言語を完全にはサポートしておらず、既存の国際標準を仕様の中で使用していないので、設計として「非常に貧弱」だと述べた。また、もしMicrosoftがMicrosoft Officeの将来のリリースで間違いなくフォーマットを拡張し変更するのなら、OOXMLのドキュメントに価値があるのか疑問だとした。彼は、OOXML標準の会議に参加することは何の役にも立っていないと暗に言っているようだ。
Waughはこれに対し、仕様の質よりも重要なのは、Microsoftの文書フォーマットについて多く知り、それを利用するユーザーをサポートする機会があることだと述べた。「私たちがしていることは、ユーザーが友人や仲間とお互いに文書をやりとりできるようにすることであり、周囲の人たちがフリーソフトウェアを使っていなくても、フリーソフトウェアを使えるようにすることだ」という。
ここでMiguel de Icazaが議論に加わった。短い質問にいくつか答えた後で、Miguel de IcazaはWaughにGNOMEについてほとんど1人で話す機会を与えた。Waughは、人々がGNOMEの行動に腹を立てているのは「Microsoftと関係のあるものは何でも脅威のように見えてしまうから」であり、さらに、反対派が主張するように、GNOMEの行動がMicrosoftへの支援だと誤解されているかもしれないと認めた。しかしWaughよれば、OOXMLへの関与は、ODFのサポートを除外することではなく、「コミュニティ間での共同作業の機会を最大限にする」標準なのだという。OOXMLを使用することに特許の脅威というリスクがあることは認めるが、昨今では、どんなソフトウェアにも同様の脅威に直面する可能性があるというのが、彼の考えである。
Waughによれば、GNOMEのライバルであるKDEのようにOOXMLとはかかわりを持たないことを選択するグループもあるだろうが、「離脱することが存在する問題の解決にはならないと思っている。もっと大事なのは、フリーソフトウェアを使うための相互運用性を人々に与えることだ。私たちは問題と正面から取り組むべきであり、自分たちの小さなコミュニティのなかでぬくぬくと傍観していてはいけないと思う」のだという。
同時進行していたIRCチャンネルからMillerが中継した質問に応じ、SchestowitzはフリーソフトウェアがOOXMLをどう扱うべきかについて、彼の考えを明確に述べようとした。「どんなに消極的であっても参加すれば支援のように思われる」ので、GNOMEは標準の定義に参加するのを中止すべきだというのが彼の考えで、フリーソフトウェアはOOXMLとは共存できないと考えているようだ。いずれにせよ、Waughは緊急の必要性を誇張していると考え、Waughのコンサルタントとしての体験とは逆に、「そういうファイルを受け取ったことがある人がいたとしても、多くはない。そういう場合には、必要に応じてバイナリフォーマットでファイルを要求すれば済むことだ」と反論した。
Waughが、Microsoft Office 2007の説明をしている途中で、このポッドキャストに割り当てられていた時間が尽きた。Microsoft Office 2007はデフォルトでOOXMLフォーマットを使用し、フリーソフトウェアのライバルであるOpenOffice.orgよりも既に多くのユーザーベースを獲得している。
その後…
聴衆ということでいうと、このポッドキャストは間違いなく成功だった。Amisによれば、600人以上がインターネット経由で、さらに50人が電話回線でこの討論を聴いたという。討論の間に約45人がIRCチャネルにログオンしたが、おそらくほとんどが何か別の手段でも聴いていたことだろう。Amisによれば、日中のライブポッドキャストを聴いている人数の少なくとも6倍だという。
それに加え、通常の割合どおりであれば、ライブの聴衆の10倍が次の週の間にこの模様をダウンロードすると予想される。しかし、ポッドキャストの3時間後にダウンロード数は既に300倍近くに達している。ライブプログラムの間に記録されたIRCの討論の筆記録もダウンロードできる。
しかし、結果として何かが解決されただろうか。SchestowitzもWaughも相手の考えを変えることはできなかったものの、おそらくWaughの方が多くの人々を説得できただろう。なぜなら、彼のコメントの方が明確で整理されていた。しかし、彼らはオンラインでの応酬よりもかなり大人しかったし、互いに非難しあうことはなかった(乱暴な陰謀説など言うまでもない)ため、聴衆は彼らが思っていたより近い立場にあると思わせることになったかもしれない。
双方とも明らかにフリーソフトウェアにとって何が最善かを考えているが、目標の設定の仕方だけが違っている。これは些細なことだが、おそらくやっとこれで問題を明確にし始めることができるだろう。
Linux.comでは、既にフリーソフトウェアコミュニティの問題についての今後のポッドキャストを検討しています(初回の良かった点はそのままに、問題点は改善して)。今後のポッドキャストについてのご意見や取り上げるべきテーマなどがありましたら、editors@linux.comまでお寄せください(英語)。Bruce Byfieldは、Linux.comとIT Manager’s Journalに定期的に寄稿しているコンピュータジャーナリスト。