機能の向上を期待させるKOffice 2.0ベータ版

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 KOfficeは長い間、主要なオフィスアプリケーションを追う位置にあった。もう開発に何年もかけているにもかかわらず、機能的にはまだOpenOffice.orgに及ばないが、十分に完全な機能を有しており、愛用者コミュニティも存在する。今回のベータ第1版からは、KOffice 2.0はまだOpenOffice.orgなどの競合するフリーソフトウェアに匹敵するレベルにはならないものの、そのレベルに向けた大きな一歩を踏み出していることがうかがえる。

 KOffice 2.0は、ソースコードとして2つのtarファイルで提供される。その一方には、2つのグラフィックプログラムであるKarbonとKritaのみが含まれる。Debianの実験版リポジトリにもパッケージが存在する。あるいは、Kubuntu Intrepid Ibexのベータ版をインストールしてLaunchpadからパッケージをダウンロードすることによっても入手できる。バイナリはWindowsおよびMac OS X向けにも提供されている。

 どのような方法でこのベータ版を入手しても、そこに含まれるのはせいぜいKWord、KSpread、KPresenter、KPlato、Karbon、Krita、KChartのみである。アルファ版は10回リリースされているにもかかわらず、Kexi、Kivio、KFormula、Kugar、KOffice Workspaceの新バージョンはまだ提供されていない。これは間違いなく、プロジェクトが非常に複雑であるためだ。

 本記事では、主要なアプリケーションであるKWord、KSpread、KPresenterを紹介する。残り4つのアプリケーションについては第2回の記事で紹介する予定である。

 KOffice 2.0についてまず気がつくのは、最近数回のリリースで進められていた共通インターフェースへの移行がほぼ完了したことである。古いバージョンでは、各アプリケーションのインターフェース機能がほとんど共通していなかったのに対し、新しいベータ版では外観が統一され、これまでよりもずっとOpenOffice.org 3.0に近い、簡素で効率的なものとなっている。

 2つめに気がつくのは、共通インターフェースが大幅に改造されている点である。各編集ウィンドウの右側にはDockerが並んでいる。もちろんこれは下着ブランドの名称(Dockers)ではなく、スタイル、図形、フォントなどの機能を使用するためのパレット群である。スペースを確保するために各Dockerを折りたたんだり、ドラッグしてデスクトップ上の任意の位置にフロートさせたりすることもできる。あるいは好みに応じて、パレットをウィンドウの左側、上端、下端にドッキングしたり、ドッキング領域全体を編集ウィンドウの外側に配置したりすることも可能である。配置するDockerの種類をデフォルトとは異なるものにしたい場合は、「Setting」メニューによってDockerを追加したり削除したりすることができる。全体的な印象として、作業領域は自由にカスタマイズ可能だが、デフォルトのDockerの中には、一部のアプリケーション向けにはあまり適切ではないと思われるものも含まれている。たとえば「Tool Options」Dockerは、KSpreadには不要だろう。

 デフォルトのDockerやツールの多くはグラフィックス向けであるようだ。たとえば今回のKOfficeには、さまざまなパターン用のDocker、フリーハンド描画機能、カリグラフィックツール、パターンやグラデーションを追加する機能などが含まれている。少なくともベータ版の描画ツールの種類は、OpenOffice.orgほど豊富ではないが、それらを導入したという点はKOfficeにとって大きな進歩である。

 もう1つ、全体に共通する変更点として、スクリプトの導入が挙げられる。つまり、他のオフィススイートで一般的に用いられる名称で言えば、マクロやエクステンションのことである。ベータ版では利用できないようだが、「Tools」メニューから、スクリプト内のいくつかの項目を参照することができる。興味深いことに、OpenOffice.orgのスクリプティングおよびエクステンション・サブシステムであるOpenOffice.org Unoが含まれており、正式版ではOpenOffice.orgエクステンションとの互換性が実現される予定であることがうかがえる。このスクリプトの導入によって、ついにKOfficeの機能は完全なものになったといえるのかもしれない。

テキスト処理プログラム「KWord」

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KWord 1.6.3

 テキスト処理プログラムであるKWordは、複雑なレイアウトが簡単に作成可能なフレームをその特徴とする。これまでのバージョンでは、作成されるフレームは、編集ウィンドウの左側のアイコンとドキュメント構造を表すツリー表示において強調表示されていた。このバージョン2.0のベータ版では、フレームコントロールはメニューの中に収められており、目立たなくなっている。フレームが必要となるようなレイアウトの作成は、一般的なユーザーが望むよりも高度な使用方法であるため、今回の変更は適切であると思われる。

 一方、スタイルを使用するユーザーならば、デフォルトのDockerによって必要なツールがいつでもすぐに使える状態になっていることから、いつものつまらない手作業による書式設定が非常に容易になったと感じるだろう。確かにDockerの中にはスタイルに関するものも含まれているが、手作業による書式設定が必要となるDockerの方がずっと多い。

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KWord 2.0ベータ

 その他にこのKWordの最新版に追加されたものとしては、ファイル暗号化機能(「File」→「Documentation Information」で実行)や、スタイル定義における、OpenOffice.orgのBulletがつまらなく陳腐なものに見えるほどの、多種多様でグラフィカルなBulletが挙げられる。

 全体的にKWord 2.0ベータ版には、一般的なテキストドキュメント向けの目新しい機能はほとんどない。実際、バージョン1.6.3にはあった多くの機能、特に表に関する機能がなくなっている。おそらく正式版ではそれらの多くが復活するものと思われる。しかしKWordは、KOfficeのどのアプリケーションよりも新しい描画ツールやDockerの導入による効果が高く、特にすぐに印刷され、頻繁に改訂されることはないようなプロジェクト向けにはDTP(デスクトップパブリッシング)機能が強化されている。

スプレッドシート「KSpread」

 KOfficeのアプリケーションのうち、最も多くの機能が追加されたのがスプレッドシートであるようだ。私が数えたところKSpreadには、バージョン1.6.3から170以上もの新しい機能が追加されており、その数は50%近くも増加したことになる。その多くはKSpreadを、Microsoft ExcelやOpenOffice.org Calcとより互換性のあるものにすることを目的とした機能である。

 同様に重要な点として、KSpreadの最新版には、待望のソートおよびフィルタリング機能が追加され、スプレッドシートにおける最も基本的な処理の1つであるリスト操作の機能が強化されている。またKSpreadには、新しい計算式ユーティリティがいくつか追加されている。セルの範囲を指定するための手軽なグラフィカルツールであるValidityや、Goal Seekの1つとみなすことができるFunction Optimizerなどである。ピボットテーブルまたはデータパイロット、グループ化、アウトラインなど一部の標準的なスプレッドシート機能がまだ存在しないが、KSpreadは、KOfficeアプリケーションの中では、競合プログラムに機能的に匹敵するレベルに最も近いアプリケーションとして着実に進化している。

プレゼンテーション用プログラム「KPresenter」

 KPresenter 2.0のベータ第1版は、バージョン1.6.3における「Insert」「Format」「Slide Show」の各メニューの項目の多くがまだ実装されておらず、未完成な状態である。したがってこの状態でこれを評価するのは難しい。

 KPresenterについて言えることとしては、編集ウィンドウ内のメモペインがメモビューになり、「Text」メニューが削除されるなど、インターフェースが一部変更されている点が挙げられる。カスタムアニメーションの機能や、OpenOffice.orgのSun Presenter Consoleエクステンションのような、発表者のモニタ上にコンソールを表示するプレゼンタビューも追加されている。これだけに関して言えばこれらの機能の追加は大歓迎なのだが、それ以外にどのような機能がKPresenterに予定されているのか、特に、新バージョンでは音声をサポートするのかどうかといった点については、今回のベータ版からは推測できない。

まとめ

 KOfficeアプリケーションに最高レベルのフリーソフトウェアプログラムとなってほしいと望むユーザーにとって、今回のKSpreadの改良は前途有望である。しかし残念ながらKWordとKPresenterについては、そうはいえない。両プログラム共にもうかなり長い間、可能性を秘めたままの状態が続いており、私もそろそろ、これらが期待に応えてくれる日は来ないのではないかとあきらめかけている。

 ただしKWord、KSpread、KPresenterのすべてに関し、バージョン2.0のベータ版において改良が見られるのは事実であり、その共通インターフェースもKDE 4.xのデスクトップ環境にマッチしている。特に以前のバージョンから速度をさほど落とすことなくこれが実現されていることから、概して今回の変更は有望であるといえる。

 しかし、実装されていない機能が非常に多く、不安定な部分が多いため、今回のバージョンはベータ版となっている。このため、現段階での評価は暫定的なものにならざるを得ない。今のところ、KSpread以外の主要なアプリケーションは、改良はされたが多くのユーザーが期待するレベルには達していないようである。しかし正式版がリリースされるまでに、この状況は変わる可能性もある。

Bruce Byfieldは、Linux.comに定期的に寄稿しているコンピュータジャーナリスト。

Linux.com 原文(2008年10月9日)