FSFが優先プロジェクトの支援キャンペーンを展開、寄付金を募集

 GNUプロジェクトの創立25周年をStephen Fry氏からのお墨付き翻訳記事)の言葉とOpenGLのライセンス変更翻訳記事)で飾ったフリーソフトウェア財団(FSF:Free Software Foundation)は、1か月に及ぶ記念行事の締めくくりとして、優先プロジェクトのリストを再び掲げてその支援を強化しようとしている。優先プロジェクトのリストには、完全にフリーなコンピュータシステムの実現に必要でありながら、まだ手つかずだったり未完成だったりするソフトウェアが記されている。このリストは、FSFのWebサイトにただ掲載されているわけではない。プロモーション活動の対象として活発な支援や議論の呼び水となり、FSFの活動を改めて強調するものになるという。

 FSFは今後、ブログとメディアへの露出および発言でリストの宣伝を強化していくつもりだ。FSFのキャンペーンマネージャJoshua Gay氏は次のように話している。「リスト再公表の本当のねらいは、この優先プロジェクトリストを我々の活動に組み入れることだ。だから我々は、世間とメディアの関心をできるだけ集める必要がある」

 今回のキャンペーン資金の元手になるのは、WorldLabel.comのオーナーRussell Ossendryver氏からの寄付金10,000ドルである。Ossendryver氏は、ずっと以前からフリーソフトウェアを支持しており、ここ2年は自身のブログでOOXML-ODF標準規格に関する論争を繰り広げていることで知られている。また、2年前に開催されたOpenOffice.orgのテンプレートコンテストのスポンサーでもあった。

 Ossendryver氏の寄付によって生まれたこの基金は、同氏によれば、開発者への報酬に直接あてられるのではなく、おそらくは開発者が一堂に会しての短期集中開発の実施といった、支援活動全般に使われることになるという。また、必要に応じて文書化やアート制作にも資金が供給される。

 寄付への参加を希望する組織や個人は、FSFサイトの新しいページからその申し出を行うことができる。

 Ossendryver氏は次のように語っている。「優先プロジェクトリストの再公表は、フリーおよびオープンソースコミュニティ内の対話を深めるきっかけになり、コミュニティが必要とするソフトウェアの開発をあと押しすることになるだろう。こうした活動は、コミュニティが独自のテクノロジに取り組む場合には特に重要だと思う。それがプロプライエタリソフトウェアとのギャップを埋めるために必要なテクノロジであればなおさらだ」

優先リストの裏事情

 エグゼクティブ・ディレクタPeter Brown氏によると、FSFは、優先プロジェクトリストへの取り組み強化を年初から計画していたが、OpenGLのライセンス変更を巡るSGIとの協議を理由にその活動を控えてきたという。「優先プロジェクトリストの公表によってSGIのコードがいっそう注目されることを我々は懸念していた。だから、SGIとの交渉に決着がつくまではリストの公表を先延ばしにするのが賢明だと考えた」

 リストには、3DビデオドライバやFlashの代替となるGnashの完成版など、だれもが求めているソフトウェアが含まれている。しかし、Brown氏は「政治的な理由でリストに挙がっているプロジェクトもある」と説明する。たとえば、FSFは昨年春にGNU PDFをリストに加えて資金提供を求めていたが、資金を獲得するとリストから削除された。

 同様に、学術研究分野で広く利用されている数値計算システムMATLABの代替プロジェクトGNU Octaveもリストに入っているが、それはOctaveがあらゆるユーザのデスクトップにふさわしいソフトウェアだからではなく、研究者ならフリーソフトウェアの目的に共感してくれるだろういうFSFの思惑が絡んでいる。

 またFSFは、外部とのやりとりや資金調達の管理に役立つプログラムなど、非営利組織による業務管理を可能にするソフトウェアも必要としている。「そうしたソフトウェアがあれば、非営利組織のインフラストラクチャの完全なGNU/Linux化が容易になる。また、非営利組織の多くはそれを望んでいる。というのも、フリーソフトウェアと非営利組織およびそのミッションとの相性の良さが、広く認められつつあるからだ。フリーソフトウェアの普及は非営利組織によって加速される、と私は考えている」(Brown氏)

 Gay氏によれば、Xiphのようなプロジェクトもリストから外されているという。フリーのメディア形式とそれに対応したソフトウェアはすでに十分な発展を遂げ、その利用はFSFのPlay Oggキャンペーンを通じて容易に促進できるからだ。

 また、対象のアイテムそのものが重視されている場合もある。たとえば、リストに追加されたばかりの項目の1つにVoIPクライアントがある。「大事なのは、フリーのSkypeクライアントの開発を奨励しているわけではないことだ。なぜなら、VoIPクライアントはSkypeを使った通話の利用促進にもつながるおそれがある」(Gay氏)。Skypeはプロプライエタリなだけでなく、その利用は消費者にプライバシーの問題をもたらす。この問題は、FSFの重視する、個人によるコンピューティングの管理の問題との関わりが深い。

 優先リストに取り上げられることは、プロジェクトが利用できるリソースに大きな影響を与える。「GnashとGNU PDFのどちらのプロジェクトも、リストに載ることが資金調達の面で有効なことを報告している。資金提供者は、優先プロジェクトのリストを見て、コミュニティおよびニーズの存在、そしてすでにそのテーマに取り組んでいる開発者グループの存在を知る。ほかのプロジェクトも、このリストを資金調達と知名度向上の手段として捉えるようになるだろう」(Brown氏)

議論のきっかけ

 リストの再公表にあたって、FSFはそれぞれの項目がなぜリストに挙げられているかの説明を充実させており、どんなプロジェクトをリストに載せるべきかに関するコミュニティ内での議論の活発化をねらっている。

 FSFの一員として、Brown氏はこう語る。「我々は常にフリーソフトウェアと共にある。だから、それ以外のソフトウェアのことは必ずしもよく知らない。人々がやむを得ず使っているフリーでないソフトウェアがあれば、ぜひ教えてもらいたい。そうすれば、その項目をリストに追加できる」

 またGay氏は次のように補足する。「リストに何を載せるべきか、また何を除くべきかについては十分な議論が可能だ。これがリストにあるのはなぜか、あれがないのはおかしいといった不満も含めて、多くの人々からの書き込みを期待している。必ずしも十分な回答ができるわけではなく『ありがとう、こちらで調査する』といった内容になるかもしれないが、寄せられた意見にはなるべく応えていきたい」

 たとえリストに載らなくても、議論の話題になればコミュニティから一定の注目を集めることができる。「このことが特にあてはまるのは、GNUプロジェクトではなく、我々が世間の注目を向けたいと思うようなすばらしい活動を行っている、フリーソフトウェア業界全体のプロジェクトだ」(Brown氏)

最終目標の再確認

 優先リストの内容は主観的で変更が絶えないかもしれないが、フリーソフトウェア運動の目的を周知させるうえで重要な役割を担うことができる、とBrown氏は示唆する。「目的をきちんと掲げておかないと、それに逆行する行動をとってしまいがちだ。すべてのフリーソフトウェアを自由にするという最終目標が存在すること、またRichard(Stallman氏)が言っているように、プロプライエタリなソフトウェアを開発するという考え方が不条理なものであることをコミュニティにわかってもらう必要がある」(Brown氏)

 「GNUが25周年を迎えた今、私は新しいデスクトップシステムのすべてがフリーソフトウェアとフリーBIOSだけで構成された最先端のオフィス環境にいる。かつての状況を思えば、‘我々は多くのことを成し遂げたのだ’という自信と満足感を覚える。だが、今回の優先プロジェクトリストの公表で、我々の使命と成し遂げるべき仕事が改めて胸に刻み込まれた。そしておそらく、コードを書き上げることよりも重要なのは、我々自身をプロプライエタリソフトウェアから開放することにコミュニティの意識を向けさせることだろう」

Bruce Byfieldは、Linux.comに定期的に寄稿しているコンピュータ分野のジャーナリスト。

Linux.com 原文(2008年10月2日)