オープンソースビジネスにベンチャー投資を呼び込むには

 オープンソースではFirefox以来となるすばらしい構想ができあがったとしよう。その重要性は間違いなくTCP/IPを上回る。あとはプロジェクトを立ち上げるだけだ。そのアイデアの非凡さゆえに、殺到する投資家たちへの対応にひと苦労するだろう……。そんな状況が現実にあると考えているなら、第2のサブプライムローンに手を出さないように注意したほうがいい。ベンチャーキャピタルから事業資金を調達するのは、販売の対象が商用の製品であっても容易ではない。オープンソースの製品であれば、その難しさは何倍にも増大する。もちろん不可能ではないが、何回あるいは何十回断られても決してあきらめないひたむきさが必要だ。

ベンチャーキャピタル訪問

 Untangleの共同設立者でCTO(最高技術責任者)のDirk Morris氏の場合がまさしくそうだった。何か月もずっとベンチャーキャピタル(VC)のドアを叩き続けた彼は、いったい何度断られたのか覚えていないという。しかし彼はあきらめなかった。そして努力は報われた。カリフォルニア州サンマテオを拠点とし、ファイアウォールやスパムおよびウイルスブロッカなどのネットワークゲートウェイ製品を開発するUntangleは、VCから約1850万ドルを調達した。

 Morris氏の場合、オープンソースの堅実なビジネスプランの提示が決め手になったという。「“オープンソース”であることを伝えても、VC側はどんなライセンスの下でコードを提供するのかとは訊いてこない。彼らにとって大事なのはビジネスモデルだ。オープンソースは、大きなコミュニティを伴う優良なビジネスモデルなのだ」

 こうした見方は、サンフランシスコのVC会社CMEA Venturesの役員Jim Watson氏とも共通している。よく練られた明確なプランなしに資金調達を始めるオープンソース開発者は結局うまくいかない、と彼は考えている。また、そうしたプランは「対価を払ってくれるのはだれか」という単純な質問をオープンソース起業家が自らに投げかけるところから生まれる。

 「オープンソースの場合、投資をどうやって回収するのかをしっかりと把握する必要がある。最終的には、あなたのやっていることに対して、だれかが代金を払ってくれるか、何の価値も認めてくれないか、のどちらかだ」(Watson氏)

何年にもわたるプロセス

 商用の開発会社からの資金要請の件数はオープンソースの20倍近くある、とWatson氏は言う。資金を獲得しようとする組織は通常、次のような何段階もの手順を踏む。

  • エンジェルファンド:“シードファンド”ともいう。この立ち上げ段階では、“エンジェル”と呼ばれる個人投資家を頼って創業資金を集める。この時点で技術者は、コードを書いたり、VCに見せることのできる製品の開発に取り組んでいたりする。Watson氏によると、普通、エンジェルの数は2、3人で、集まる資金の総額はせいぜい100万ドルだという
  • シリーズA:VCから出資を受ける最初の段階。ここで獲得した資金は通常、製品の開発と仕上げに使われる
  • シリーズB:この段階は、マーケティングおよび販売チームの編成など、事業体の構築を目的としていることが多い。ここまで来ると、単なる製品の開発ではなく“れっきとした事業の立ち上げ”になる、とWatson氏は言う
  • シリーズC:資本増強のための最終段階。この段階になると、組織は製品の上市を果たし、販売を行っている。販売およびマーケティングのチームを増強したり、場合によっては販売地域を広げたりするなど、事業の成長と拡大をねらう時期でもある。「組織を大きくするために資金を集めるわけだ」(Watson氏)

 もちろん、従業員も増える。シリーズCの資金を獲得する頃までには、従業員が50名ほどになっている場合が多い。例外的な事例もあるが、通常はこうしたプロセス全体に5年ほどかかる。シリーズCの資金調達はシリーズAの3~4年後になるのが普通だ、とWatson氏は語る。

 サンフランシスコにあるMarketcetera社は現在、このプロセスの真っ只中にいる。同社はシードマネーとシリーズAの資金調達を終えており、シリーズAでは新興のVC会社Shasta Venturesから出資を受けている。Shastaからの出資額400万ドルを元手にMarketceteraが開発しているのは、オープンソースのオンライントレードプログラムである。

 MarketceteraのCEO(最高経営責任者)、Graham Miller氏は、多くのオープンソース開発者と違って自分の場合は短期間で資金を獲得できた、と述べている。「最初は、資金集めを開始して実際に獲得するまでに4か月ほどかかった。シリーズAとしては早いほうだろう。シード資金としては数十万ドルを集めたが、ハードウェアおよびソフトウェアリソースの調達とプロダクトの構築にはそれで十分だった」

ベンチャーキャピタルとの相性

 Shasta社にめぐり合えたのは15社ほど回ってからだった、とMiller氏は語る。資金の調達だけを目的とせずに、よい出会いを探す必要がある。「最初の頃の会合は、お互いを探り合うような場になる。我々はやろうとしていることを大まかなレベルで伝え、相手側の投資目的に合っているかどうかを確認する。大勢の人々と話していくうちに、同じ視点で世の中を見ている資金提供者が見つかる。彼らが考えていることの先を進んでいけば、より良いパートナー関係を築くことができる」

 オープンソースの領域では、自分たちの組織と製品を心から信じてくれる投資家を見つけることが特に重要になる、とUntangleのCEOを務めるBob Walters氏は言う。オープンソースの場合はリスクが大きくなる可能性があるため、そうした投資家を見つけるのがいっそう難しくなる。「オープンソースの資金調達は、最近特に厳しい目で見られている」(Walter氏)

 UntangleのMorris氏も、相性が良くないとダメだと考えている。「おそらく二十数社ほどのVCに話を持って行ったはずだ。“分野が違うので興味がない”と言われることもあった。とにかく、自分たちの考え方とやっていることに賛同してくれる相手を探し回るわけだ」

 Watson氏も同じような見方をしており、最初から適切なVCにアプローチすれば拒絶の数も減るだろう、と述べている。起業家は次のような点について自問する必要がある、と彼は言う。「新たに会社を立ち上げるのか。だとすれば、出資者として適切な規模の会社はどこか。事業者は、自らのやるべきことをやると共に、然るべき規模の投資会社にアプローチしなければならない。50万ドルの開発資金で済むのなら、おそらく我々のところは適切なアプローチ先とはいえないだろう」(Watson氏)

ビジョン

 Untangleの場合は、乗り越えるべき困難がほかにもあった。「我々にとって最大の障害は、事業範囲が小さいことだった。だから、VC側は「“それは難しい市場だ。このテクノロジで大企業を相手にしたらどうか”と言って難色を示した」(Morris氏)。だが、Untangleは当初のビジョンにこだわりながらも最初の頃の拒絶を踏まえて訴求内容を変更した、とMorris氏は言う。彼もまた「ビジョンを賛同して力を貸してくれるVC(会社)を探し求める」ことの大事さを強調している。

 ただしビジョンだけは十分ではない。だからユーザを味方に付けることが重要になる、とUntangleのWalter氏は語る。「活動中のオープンソースコミュニティがなければ資金を調達したくてもうまくはいかない。オープンソースの世界では、コミュニティの存在がきわめて重要だ。コミュニティが確立されていない場合は、かなり冷ややかな目で見られるだろう」

 コミュニティがまだ十分に育っていないなら、確固たるビジネスモデルと事例を用意することがなおのこと重要になる。もちろん、一番肝心なのはアイデアだが、誕生したばかりの組織の舵取りを巧みに行いつつ、VCを説得して資金を集められる、強い意志と豊かな経験を持つリーダー陣の存在も同じくらい重要だ。

 組織を立ち上げる段階では、製品開発を成功させる確度を上げるために専門の創設者を探してくることもある、とWalter氏は言う。つまり、「(創設者は)自分たちの周りにビジネスチームを作り上げる必要がある。そのため、かなりの場数を踏んだ人物が求められる」

チームの努力

 「(新米のリーダー陣で)こうしたビジネスを成功させるのは非常に難しい。経験を積んだチーム、何度か成功を勝ち取ったパートナーが必要だ。そのほうがVC側のリスクもずっと低くなる」(Watson氏)

 こうした体制作りは、組織の売り込みにとっても重要である。資金を獲得したければ、テクノロジについて詳しく話すのではなく、収益性をアピールしてVCの関心を引くことの重要性を理解しておかなければならない。Watson氏がいちばん興ざめするのは、プレゼンテーションのときだという。「50枚ものスライドのうち48枚が技術的なものだったり、話を15分聞いてもいったい何を売りたいのかがわからなかったりする。彼らは、だれもが自分たちと同じくらいテクノロジに詳しいと思っているようだ」

 この時点で、売り込みを続けるのは非常に難しくなる。「彼らの話をさえぎり、“内容はよくわからないが資金が要るということだろう”と言わざるを得なくなる」と話すWatson氏は、正しい売り込み方について次のようなアドバイスをくれた。「事業の話をするなら、まるで6年生のクラスで教えているかのように説明することだ」

だれが買ってくれるのか

 ただわかりやすく説明するだけでなく、対象となる市場や顧客についても把握していなければならない。Watson氏が非常に悪い印象を抱くのは「市場のことを考えていない」人々だという。「その製品やサービスを購入してくれる顧客はいったいだれなのか。そんなこともわかっていない連中があきれるほど多い」

 Oracleデータベースの利用効率を向上させるというテクノロジの売り込みにきた3人の技術者もそういう手合いだった。「人類にとって技術上の大きな進化をもたらすアイデアだというのだが、その内容も、その対価としてだれがお金を出すのかも、さっぱりわからなかった」(Watson氏)

 反対に、iPhoneのアプリケーションを99セントという価格で売るとか、「1兆人をターゲットにして販売」という具体的な数字を出してきたら、Watson氏は即座に「なるほど」と言って身を前に乗り出すだろう。

 MarketceteraのMiller氏からも、オープンソースの起業家に向けたアドバイスがある。「我々が本当に助かったのは、売り込みの対象や位置づけ、製品の方向性について、さまざまな立場から意見をもらえたことだ。自画自賛するのではなく、聡明で判断力の確かな人物を探してフィードバックを得る」ことが非常に貴重だという。

視野を広げる

 VCからの資金獲得を成功させるには、多角的な見方が繰り返し求められる。Miller氏によると、最初からそういう捉え方をすることも可能だという。「2人以上で事業を立ち上げることだ。1日費やしても全員を説得できないなら、それはたぶん事業を立ち上げるほどのアイデアではない」

 Morris氏もこのアドバイスの的確さを認めている。「大勢の人に話をすること。(公式な)話し合いをする前に、VCにアイデアをぶつけてみる。そうすれば、何をすべきか、どうすれば資金を調達できるのかがよくわかる」

 とりわけ重要なのは、自分たちのアイデアを信じているなら地道な努力を続ける、ということだ。「決して失望してはいけない。きっと多くの人から“興味がないので結構”という返事をもらうことになる。それもまたこのゲームの一部なのだ」(Morris氏)

Keith Wardはフリーランスの技術ジャーナリスト。

Linux.com 原文(2008年10月23日)