図書館でのFOSS貸し出しを目指す新団体が発足
Public Software Foundationは、Todd Robinson氏とKarlie Robinson氏が中心となって先月旗揚げされた。Linuxの各種ディストリビューションやOpenOffice.orgなどを図書館向けに提供することで、オープンソース・ソフトウェアに接する機会がない人にも知ってもらうことを狙う。現時点では、インディアナ州北部とコロラド州に1人ずつボランティアがいる。また、マサチューセッツ州トーントンの図書館から引き合いが来ているほか、他の図書館でも話が持ち上がりつつある。
PSFでは、提供するソフトウェアを順次増やしていく予定だ。現時点では、4種類のLinuxディストリビューション(Edubuntu、Fedora、Knoppix、Ubuntu)と統合ソフトOpenOffice.orgを提供している。各ソフトウェア・パッケージは、ソフトウェア本体に加えて、わかりやすい英語による説明、ハードウェア要件、ネット上のドキュメントやサポートへのリンク、PSFの提供タイトルを入手できる場所の情報、ライセンス情報で構成されている。ドネーション・キット(配布用のPSFタイトルを作成するためのキット)には、CDの盤面やジャケット用の画像も入っている。
このほか、提案されているタイトルには、Debian Multi-Arch、Linux Mint、PCLinuxOSがある。PSFの承認プロセスはさほど形式張ったものではない。提供タイトルに含めるかどうかの最大の判断基準は使いやすさだ。また、ソフトウェア・プロジェクトの成熟度、オンライン・ドキュメンテーションおよびヘルプ・チャネルの品質、コミュニティによるバックアップの充実度も判断に加味される。PSFの代表者、Karlie Robinson氏はこう話す。「たとえばFedoraで考えてみよう。先進性を売りにした製品では、どのように動くのか誰にも理解できないという事態が起こりがちだ。だがFedoraの場合、技術面の進歩をコミュニティがすばやく把握しているため、皆に理解が広まり、スムーズに利用できる」。
PSFで提供されているソフトウェアはすべて、オープンソースのライセンスに基づいて配布されている。オープンソースの定義には次のような規定がある。"「オープンソース」であるライセンスは、出自の様々なプログラムを集めたソフトウェア頒布物(ディストリビューション)の一部として、ソフトウェアを販売あるいは無料で頒布することを制限してはなりません。ライセンスは、このような販売に関して印税その他の報酬を要求してはなりません。"つまり、誰がどのような理由で使うにせよ、無償で自由に使用および共有できるということだ。
PSFが目指す目標はたいへん立派だが、その達成にはさまざまな困難が伴う。Robinson氏にとっては、時間の制約が特に大きいという。PSFのスタッフが図書館に連絡を取るには限界があり、世界中のほとんどの図書館には手が回らない。それに、新たな取り組みを提案するときには、同じ地域に住む人同士が直接会って交渉する方が話が進みやすい。コロラド州デルタ郡図書館のシステム管理者で、Automation System Colorado Consortiumの技術サポート担当を務めるCookie Wolfrom氏は、「私の経験では、何人かの図書館員と直接話し合う方がうまくいく」と話す。こうしたことから、PSF自体は、旗振り役としての役割が中心となる。実際の草の根の活動はもっぱらライブラリ・リエゾンと呼ばれる人たちが担当する。各地で地元の図書館員に連絡を取って交渉する人たちのことだ。ライブラリ・リエゾンは、Linuxのユーザ・グループやボランティア・グループが務める場合もあるし、個人が務める場合もある。Robinson氏はこう話す。「我々の仕組みは、FedoraのAmbassador、UbuntuのLoCO、Freecycleのローカル・モデレータのモデルを組み合わせたようなものだ。これら3つはいずれも、地域ごとにある程度の独立性を保ちつつも、コミュニティ全体から支えられているという関係にある。私は当面の自分の役割を、FedoraのGreg DeK氏やMax Spevack氏のようなものと考えている。つまり、おおまかな方向性は定めるが、実際のハンドル操作は参加者に任せるというやり方だ」。
もう1つの難題は、図書館の購買担当者や管理者へのソフトウェアの頒布を、費用のかからない現実的な方法で実現するにはどうすればよいかだ。インターネット技術サービスとデジタル・メディア出版を扱うWebpath Technologies社では、ディスクの提供を行い、on-disk.comというWebサイトを利用して、PSFで承認されたディストリビューションや人気のソフトウェアを、そのまま利用可能な低コストのパッケージとして頒布している。また、ドネーション・キットを無償で利用することも可能だ。図書館の購買担当者が自らソフトウェアをダウンロードしてCDに焼こうとするとはあまり考えられないが、予算に限りのある各地域のライブラリ・リエゾンにとっては好都合な方法かもしれない。これなら、各タイトルと付属物のパッケージをボランティアが作成し、図書館に寄贈できる。Robinson氏によると、図書館からPSFに連絡があれば、パッケージを無償で送ることもできるという。
Robinson氏によると、もう1つ鍵となる問題は、図書館の購買担当者に対する啓蒙活動だという。「当初からわかっていたとおり、図書館員や図書館利用者にとって、オープンソース・ソフトウェアという概念は未知の領域だ。また、利用者がどこで技術サポートを受けられるかを明確にしておかないと、図書館員たちはソフトウェアの受け入れに消極的だということも、最初の調査の時点で判明した。こうした点に対応できるよう、すべてのタイトルに共通する構成要素は吟味して定めた。わかりやすい英語での説明や、ヘルプに関する情報などだ。図書館によっては、地元のPSFボランティアが質問に対応してくれる場合もあるが、大きな展望としては、コミュニティによるサポートというものに新しいユーザーも慣れてほしいと考えている。Wiki、電子会議室、Linuxユーザ・グループなど、さまざまなリソースから助けが得られる。これらはいずれも、ユーザのためを思って作られたものだ」とRobinson氏は話す。
コミュニティによる取り組み
まだ生まれたてのPublic Software Foundation。その成果物を図書館に広めるためには、コミュニティ・メンバの力が欠かせない。PSFでは、各地域でのオープンソースの普及や啓蒙に興味があるグループに対し、クルー・チーフという役割の人物を定めるよう奨励している。その地域での活動を統轄し、PSF、地元のライブラリ・リエゾン、および図書館をつなぎ合わせる役割を果たす人物だ。クルー・チーフは、ライブラリ・リエゾンの指導者的立場でもよいし、ライブラリ・リエゾンを兼任してもよい。クルー・チーフやライブラリ・リエゾンは、各地域での活動をそれぞれ自主的に進めるが、PSFの代理人として、PSFで承認されたソフトウェアのみを提供しなくてはならない。この2つの役割は、Linuxとオープンソース・ソフトウェアの基礎知識がある人なら誰でも務めることができる。
Wolfrom氏は、自分の担当地域の図書館に対し、オープンソース統合図書館システムへの移行についてコンサルティングを行っている。費用を節約し、ベンダによる囲い込みを防ぐためだ。図書館にオープンソース・ソリューションを導入することで、支出が抑えられ、書籍にかける費用を増やせると同氏は強く感じている。また、各地の図書館回りを続ける中で、利用者向けのパソコンにOpenOffice.orgをインストールするよう働きかけ、うまくいったことも何度かある。「オープンソース・ソフトウェアを取り入れる図書館が増えてきたことはうれしい」と同氏は話す。Public Software Foundationの話を聞いたときは、ぜひ力を貸したいと感じたという。「図書館とオープンソースという組み合わせにはさまざまな可能性があり、わくわくする。私がこれまでコロラド州の各地の図書館に触れ回ってきたのは、まさにこれだ。ぜひこのプロジェクトの力になりたいと強く思う。今年中には、コロラド中を回って、みんなに情報を伝えていきたい」。
マサチューセッツ州のトーントン公共図書館で教育技術資料を担当する司書、Stephen Vermette氏はこう話す。「PSFのソフトウェアを受け入れる最初の公共図書館となることを非常にうれしく思う。周辺の図書館にもこの情報を伝えられるよう、さらに詳細を知ることができたらと思っている」。
この先1年間の目標について、Robinson氏はこう話す。「我々が立てた目標はかなり控えめだ。オープンソース・ソフトウェアは以前ほど未知の存在ではなくなったとはいえ、出足はゆっくりになると思う」。それでも、設立1年以内で、米国内12か所以上および国外2か所以上の図書館にPSFのタイトルを受け入れてもらうことを目標としている。