Fedora 9のリリース――“Make waves”をスローガンとした貢献者中心のプロジェクト活動

 かねてよりFedoraディストリビューションはその革新性についての定評を確立しているが、本日(5/13)リリースされたFedora 9もその例から漏れていないようである。簡単に実行可能なファイルシステムの暗号化やext4フォーマットのサポートなどは、今後リリースされる他のディストリビューションにて標準化されるであろう諸機能を、時間にして半年は先行して採用したと見ていいだろう。しかしながら本年2月に新たなFedoraプロジェクトリーダとして就任したPaul W. Frields氏の言葉を借りるならば、今回のリリースを際だたせている変化はテクノロジ面ではなくそのサポートコミュニティに関するものであり、より広範なフリーソフトウェアの世界に貢献するテクノロジとしての存在形態ということになる。

 Frields氏は以前のリリース作成にも関与してきたが、プロジェクトリーダ就任後のリリースはFedora 9が初めてとなる。最終的なリリースに到達するまでの過程において同氏を驚かせたのは、コミュニティが実際にどのように活動しているかであった。「一般的な貢献者の傾向として、それぞれが自分の役割分担にのみ没頭して、人のやる作業を顧みようとはしないものです。それに対して今回私が行った仕事はそれとまったく逆のものでした。リリース期限が近づくにつれ、私は様々なグループでの進捗状況を把握するように自分の視野を広げる必要に迫られたのです」

 Frields氏にとって新鮮な驚きだったのは、リリース直前の最終週になると「解決すべき問題は、あらかた片づけられていました。私が初めて知ったのは、事前の段階で準備が済まされていた作業が多く、それらの大部分がルーチン化されていたことです。実際、多くのプロセスはスムースに進行していました。私のようなA型人間にとって、ある意味これは屈辱的な出来事でしたね」という経験であったと、同氏は苦笑いしながら語っていた。

 「つまり、これまでに何度もリリース活動を繰り返してきた過程において、現実に即した有用なツールのセットが構築できていた訳です。これは内部的なプロセスに大がかりな変更を加えた成果というものではなく、むしろ個々のリリースごとに適切なバランスというものを見いだせるようになった帰結ではないかと私は考えています」

Fedoraをとりまくコミュニティの成長

 Frields氏はリリースのプロセスが効率化されたもう1つ別の理由として、Fedoraコミュニティが健全な方向に成長し始めたことを挙げている。同プロジェクトに対する貢献者数は現状で2,000名以上というRed Hatの従業員数に匹敵する規模となっているが、より重要なのは、従来FedoraはRed Hatの勢力圏に置かれているものと見られてきたものの、現行の貢献者のうちRed Hat従業員が占める割合は既に1/4以下にまで低下しており、パッケージメンテナにおいても1/3に過ぎなくなっている点である。「これはFedoraを中心としたコミュニティがどのように形成されてきたかの実態および、オープンソース世界に貢献する場として同コミュニティへの認識が得られたことを如実に物語っているのです」とFrields氏は語っている。

 Frields氏はこうしたコミュニティ成長の要因の1つとして、コミュニティへの参加プロセスの変化を挙げている。従来の方式の場合、Fedoraへの貢献を志願する者は、規約に関する書面をダウンロードした上でこれを返送し、プライバシキーを入手する必要があったのだ。「この方式は、wiki上のトピックに対する簡単な追加をしたり、マーケティング面での貢献をしたいだけという希望者にとって過大な負担となっていたはずです」と同氏は語る。そしてこのプロセスが改訂されたのは数カ月前の話であり、「アカウントのセットアップページにアクセスしてもらうと分かるはずですが、現在では(コミュニティへの参加手続きは)文字通りに数回のマウスクリックといくつかのテキストフィールドに必要事項を入力するだけで済み、その手間はソーシャルネットワークサイトへの参加手順と大差なくなっています」ということだ。このプロセスに関してはよりいっそうのスリム化が今後数カ月がかりで施される予定であり、その完成時にはプロジェクトサイトのwikiはMediaWikiベースのものに刷新され、貢献者はシングルサインオンのプロセスによってシステム全体へのアクセスが可能になると説明されている。

 Fedoraコミュニティを成長させているもう1つの要因は、同プロジェクトの普及を促進するAmbassadorsプログラムを展開して、Fedoraの宣教師役を務めるメンバを募っていることだ。Frields氏によるとAmbassadorsプログラムの参加メンバ数は、昨年だけで191人から353人という85%の増加を見せたとされている。

 その他に注意が向けられ始めているのは、北米以外の地域におけるメンバ募集である。「ヨーロッパにおけるコミュニティの著しい成長」とFrields氏が語る現象に対応する必要上、新設されたFedoraグループにおけるアドバイザ役となるべく、以前にプロジェクトリーダを務めていたMax Spevack氏が中東およびアフリカ地域と兼任する形でヨーロッパ地域におけるコミュニティリーダに就任している。同様の人材配置はアジア太平洋地域でも行われており、また南米地域でもこうした活動への関心は高まっているのである。

 「例えばブラジルの場合、フリー/オープンソース系ソフトウェアの活動に参加したいという人々の意欲には驚かされるべき点が多々存在します」とFrields氏は語り、「あの国ではドゥ・イット・ユアセルフ的な意識が非常に高く、Fedoraのようなプロジェクトにも関心が向いているのです」としている。

 新規の貢献者を確保する際の障壁を緩和する措置の一環として、メンター(指導者)プログラムの利用促進を図るプランも進められているとのことだ。「メンターシステムが有効に機能するのは、それを支える綿密なスケジュールが練られている場合である」という調査結果をFrields氏は引き合いに出し、「貢献者が必要な支援を得られやすくするよう」ボランティア参加したメンターにIRCあるいは可能であれば電話を介して特定の時間枠にて接触できる態勢を整備する計画が進行中であると語っている。

 コミュニティ成長に関するその他の構想として検討されているのが、North Carolina State UniversityおよびカナダのSeneca Collegeとの共同プランだ。大学コミュニティのメンバとの共同作業に関するFedora側の意図としては、単なる自己完結したプログラムではなく、「スケーラブルで有用なオープンソースカリキュラムのコアとして機能するものを考えています」とFrields氏は説明している。「その根底には、これらの大学にてオープンソースとは何かを教えるだけでなく、このカリキュラム自体をフリーかつオープンなものとしておくことで、世界各国の大学に属すスタッフがオープンかつ自由に利用できるものを構築するというアイデアがあるのです」

 双方のプログラムに属す学生たちに対してはFedoraへの参加も奨励するが、その背景には単なる同プロジェクトへのメンバ確保だけではなく、より広範なフリーソフトウェアコミュニティへの入り口として利用してもらおうという意図があるとのことだ。「Fedoraのオフィシャルリポジトリには膨大な数のソフトウェアが収録されており、これはその他多数のコミュニティの存在を意識する場として機能するはずです」とFrields氏は語り、「Fedoraを1つの踏み台として、そのアップストリームに位置する何らかのコミュニティに対する関心を(学生に)抱いてもらえるといいのですが」としている。

“Make waves”というスローガン

 Frields氏を始めとするFedoraコミュニティ全体は、コミュニティによる貢献活動を非常に重要視しており、新規リリースを行う際のマーケティングすらもこうした活動を中心に考えられるようになったとしている。例えば今回の新規リリースについては、新設されたWavesテーマを全面に押し出す形でのプロモーション展開が検討されており、同プロジェクトサイトでも“Make waves”というスローガンが散見されるのだ。

 Frields氏は「今後私たちは、貢献者間でのカルチャ形成の原動力としてFedoraを位置付けるようにしていくつもりです」と語っている。

 貢献活動の重要さを特に強調するFedoraの場合、現行リリースにおける技術革新およびFedoraと他のフリーソフトウェアとの関係においてもこのコンセプトを使うまでになっている。Frields氏は、他に先がけて新機軸を取り入れる姿勢こそがFedoraのプライドであるとしながらも、「こうした変化を他の人々が追随することが不快という訳ではなく、むしろその逆です。オープンソースとはそうした現象を意図しているのですから。新たな機能が広範に受け入れられることは私たちにとって最大級の喜びですし、それらの使われる場所がFedora以外であっても話は変わりません。そうした行為はいずれもフリーおよびオープンソース系ソフトウェアの世界を一歩前進させるものであり、ひいてはプロプライエタリ型のモデルを引き離すことにつながるはずです」としている。

 つまり、Fedoraプロジェクトへの貢献活動をする者は究極的にはフリーソフトウェア世界全体への貢献をしていることになる、というのがFrields氏の考えるFedoraの存在意義なのである。フリーなソフトウェアとプロプライエタリなソフトウェアとの違いについて同氏は、「1つの消費者文化を形成すること自体はそれ程難しくありません。彼らの望むものを豊富に与える形で、各自の製品を使用してもらえばいいのですから。しかしながら、オープンソースという概念を推進してその貢献活動に人々を参加させるというのは、まったく別の話です」と説明している。

 「私どもが志しているのは、正に後者の活動です。オープンソースの推進活動にソフトウェアの開発者やマーケティングの専門家だけでなく、アーティストやミュージシャンや作家を含めた様々な職業の人々が参加する機会を提供するというのが、Fedora全体の掲げる理念としていいでしょう。これこそが“Make waves”というスローガンの示すものだと私は考えています」

Bruce Byfieldは、コンピュータジャーナリストとして活躍しており、Linux.comに定期的に寄稿している。

Linux.com 原文