先行するAdobe、追うMicrosoft――RIA市場でしのぎを削る両社の強みと課題

 急成長中のRIA(リッチ・インターネット・アプリケーション)市場で主導権争いを繰り広げるAdobe SystemsとMicrosoft。はたして、どちらがマーケット・シェア/マインド・シェアを制するのか。以下、それぞれの強みや課題を探っていこう。

 米国の調査会社Forrester Researchのアナリスト、ジェフリー・ハモンド(Jeffrey Hammond)氏は、AdobeとMicrosoftのいずれも、RIA分野で独自のポジションを形成しつつあると指摘する。「両社には、それぞれ独自の龍座(風水において、部屋の中の最も力のある位置のこと。交渉や事業を最も有利に展開できると言われる)がある」(Hammond氏)

 それでも、どちらがRIA分野で先行しているかと問われれば、「Flash Player」を擁するAdobeだと答える人のほうが多いはずだ。確かにFlashは、Webブラウザの8割以上にインストールされていると言われるほどエンドユーザーに浸透している。また、後述するMicrosoftの「Silverlight」に対抗するべく、Adobeは「Adobe Integrated Runtime(AIR)」と呼ばれるRIA実行環境も開発中だ。

 しかし、Adobeにも不安要素はある。1つはRIA開発者との関係だ。Hammond氏によると、Flashアプリケーション開発環境「Flex」を使っている開発者はさほど多くないという。

 対するMicrosoftは、2007年4月にSilverlightを発表した。同社によると、SilverlightはFlashと同様のインタラクティブWeb機能と、「QuickTime」よりも優れたストリーミング・ビデオ機能を併せ持つ。

 Silverlightは、大きなシェアを持つWebブラウザ「Internet Explorer(IE)」のプラグインとして機能する。だが、残念ながらそれはMicrosoftの強みにはならない。Silverlightを使用できるようにするには、プラグインとして個別にインストールしてもらわなければならないからだ。

 「Silverlightの普及を図るには、現状でも、インターネットに接続されたマシンの70~80%にSilverlightを組み込む必要がある」と、調査会社Directions on Microsoftのアナリストであるグレッグ・デミチリ(Greg Demichillie)氏は語る。

 Silverlightの普及促進で最も手っとり早い方法は、IEの次期バージョンにSilverlightを組み込みことだ。だがHammond氏は、その見込みは薄いとみている。ライバル・メーカーの怒りを買い、Microsoftは反トラスト法違反で提訴される可能性があるからだ。

 Microsoftでは、IEにSilverlightを組み込む代わりに、NBA.comなどの人気サイトにSilverlight技術を採用させるといった方法で普及を図ろうとした。しかし、それだと今度はサイト訪問者がプラグインのインストールを強いられてしまう。

 Silverlightのインストール・ベースが拡大するのは、2008年初めにベータ版リリースが予定されている次期バージョンからになるかもしれない。Silverlight 2.0では「すべてが変わる」と言われている。Hammond氏も「Silverlight 2.0からおもしろくなる」と、新バージョンに期待を寄せている。

 Silverlightの次期バージョンには「.NET Framework」のサブセットが含まれる予定だ。つまり.NETの開発者にとっては、慣れ親しんだC#言語や「Visual Studio」などを使ってSilverlightアプリケーションを開発できることになる。

 Microsoftはさらに、Adobeが得意とするグラフィックス・デザイナー向けアプリケーションにもねらいを定め、「Expression」製品ラインの投入によってAdobeユーザーの獲得を目指している。

 これに対してAdobeの場合は、前述したとおりFlashプラグインのインストール・ベースが足らないなどの問題は抱えていない。だが、同社の開発ツールに関しては、グラフィックス・デザイナーの心をつかんで離さないほど魅力的だとは言えず、それゆえMicrosoftにはシェアを奪うチャンスが十分にある。

 「Adobeの最大の課題は、Flexをもっとモダンに、そして最新式のツールに進化させることだ。FlexはライバルのVisual Studioよりも2年は遅れている」(DeMichillie氏)

 DeMichillie氏は、対Microsoft戦略におけるAdobeの弱みとして、Microsoftのように強力なプログラミング言語をAdobeが持たないことも挙げている。「Microsoftのプログラミング言語を過小評価すべきではない。C#とVisual Basicは本格的なプログラミング言語だ。一方、(Adobeの)ActionScript言語は確かにここ1、2年で成長したが、それを用いて高機能のRIAを開発している人間を私は見たことがない」

 RIAプラットフォームの市場には、MicrosoftやAdobe以外にも多くのプレーヤーがいる。しかし、両社が2強なのは間違いないと、DeMichillie氏は指摘する。

 「RIAプラットフォームの構築には非常に多くのピースが必要になる」とDeMichillie氏。米国Sun MicrosystemsもJavaFXでプラットフォーム構築を試みているが、Sunがすべてのピースをそろえられるとは到底思えないと同氏は語る。

 一方、Hammond氏の見方はDeMichillie氏とは若干異なる。同氏もAdobeとMicrosoftがいずれRIA分野での牽引役になると予想しているが、そのほかに小規模のRIAベンダーが5社程度加わるとみている。

 いずれにせよ、AdobeとMicrosoftに共通する課題は、RIAの重要性をユーザー企業にもっと認識させることである。「RIAに備わっているようなユーザー・インタフェースが、会社のコア・ビジネス・プロセスを動かす主要システムと同様に重要であると、企業の担当者に訴えていかなければならない」(DeMichillie氏)

(Chris Kanaracus/IDG News Service ボストン支局)

米国Adobe Systems
http://www.adobe.com/
米国Microsoft
http://www.microsoft.com/

提供:Computerworld.jp