ソフトウェア特許廃止キャンペーン 来月始動

 Ben Klemens率いる新団体End Software Patents(ESP)が、来月活動を開始する。この活動に参加するのはFree Software Foundation(FSF)、複数のプロプライエタリー・ソフトウェア企業、そして少なくとも1人のベンチャー・キャピタリスト。何が彼らを共闘に導いたのだろうか。

 基金は現在25万ドル(拠出者は明らかにされていない)で、ESPは個人や企業からの寄付によりさらに積み上げたいとしている。米国最高裁が判断を大きく変更する際に通常要する期間から判断して、この活動には5年またはそれ以上掛かると見込まれるからだ。

 この連合体のリーダーであるKlemensは『Math You Can’t Use: Patents, Copyright, and Software』の著者であり、米国で最も長い歴史を持つ最高のシンクタンクBrookings Institutionで3年前からGuest Scholarとして研究している。

 Klemensはゲーム理論の経済及び政治学への応用でカリフォルニア工科大学から博士号を授与された。「私が取り組んできたのはほとんどが理論ですが、理論はコンピューターを大量に使うことがよくあります。ですから、ソフトウェアを書く時間が多いのです。それに、プログラムを動かしていれば論文を書かずに済みますからね」

 そうしたプログラミング漬けの日々が、Klemensのソフトウェア特許に対する関心に火をつけた。「たくさんのソフトウェアを書き、コンピューターの仕組みを知り、特許が何のためにあるのかを知りました。それで、特許とソフトウェアの間にある根本的な不整合に気づいたのです。悩みましたね。数学を財産だと主張するのは倫理に反しますから。私はそれを糧としてきたすべての研究者を代弁しようと思います。それに、実世界のソフトウェアを反映し、しかも特許が利益になりうるような理論モデルは作れないということも悩んだ理由の一つです」

 Brookings Institutionで1年間研究したKlemensは2006年に『Math You Can’t Use』を上梓した。その本を、FSFのある支援者がFSFのエグゼクティブ・ディレクターPeter Brownに勧めた。今年の春、FSFの年次総会でのことだ。Brownは同書に感動し、Klemensがこの問題に明らかな情熱を持っていることを察して、Klemensにソフトウェア特許廃止活動を組織するよう依頼した。Klemensはそれに同意し、この活動が始まったのである。それ以後、FSFは先頭から退き、一メンバーとして活動している。

なぜ今か

 ESPの関係者によると、米国では、これまでソフトウェア特許を真正面から取り上げるのに適切な時期ではなかったという。

 ソフトウェア特許に対する現行の考え方は、1990年代前半にあったIn re Alappat訴訟に端を発する。Klemensの説明によると、この訴訟で法廷はアルゴリズムに「何らかの物理的手順が含まれている場合、それは機械的または化学的と同様の物理的な過程である」と判断したのだという。これは、当時一般的となっていた判断を逆転させるものだ。それまでは、歌手の歌がそれを録音する過程とは別物であるのと同様、コンピューター・アルゴリズムはそれを実行する物理的動作とは別物であるという判断が一般的だった。

 この大逆転は、その意味が理解されるまでしばらく時間を要した。実際、その全貌が明らかになり、些末な特許と特許あさりという状況が始まったのは新世紀に入って数年が過ぎてからだった。

 特許に対するこの考え方は2005年に再検討された。この年、最高裁はLabCorp v. Metabolite訴訟を審理した。Klemensに言わせると、この訴訟は「まったく些末な物理的手順」に関するものだ。最高裁は、結局、専門性が限定されることを理由に判断を示さなかった。しかし、Klemensによれば、「我々人間の行為でここから先は特許を与えるべきではないという一線を引く問題に最高裁は真剣に取り組んでいることを示したのだ」。そして、「私が会ったどの専門家も、最高裁はLabCorp v. Metabolite訴訟における判断を見直せるような訴訟を待っているという見方で一致している」と述べた。

 「立法の場では、ここ数年、特許改革のための多くの法案が葬られてきました。改革は絶対に必要なのですが、行き詰まり状態になっています。そして、それはソフトウェア特許が行き詰まっているからです。あらゆるものが特許可能なわけではないというルールを復活しさえすれば、ほかの特許改革はあるべきところに落ち着くか、ごく容易に片付くでしょう」

 「この混乱を収拾する責務は私たちプログラマーが引き受けざるを得ません。なぜなら、ソフトウェア特許で最もひどい目に遭っているのは私たちだからです。しかし、米国の経済全体にとっても、これは棘です。今日まで私たちの活動に多くの人々が経済的支援を寄せてくれましたが、それはソフトウェア産業とはゆかりのない人たちです」

戦略と目標

 ESPの具体的な戦略は、まだ策定中だ。Klemensによると、この活動は法的、立法的、教育的活動の組み合わせになる。「基本となる戦術、そして私が最も期待しているのは、LabCorp v. Metabolite訴訟の判断を見直せるような訴訟です。しかし、議会にも注目していますし、訴訟リスクなしに自分の創意に基づいてソフトウェアを書けるようにする手段も探しています」

 特許あさりや独占主義者がESPに抵抗するだろうことは疑いない。Klemensもそう予想してはいるが、活動に対する支援は大きく広がると期待している。「私たちがここにいるのは集団行動に伴う問題を克服するためであり、自分の頭で作り出した単語や式を書いて『盗み』とされる可能性があるために自分が書いたものを調べなければならないことに割り切れない思いをしているすべての人を糾合し、誰もがそれにうんざりしていることを(上下両院の)適切な小委員会に知らしめるためなのです」

 「私たちの唯一の目的は特許可能なものを定めることです。それは、今日の特許法が持つ大きな傷です。すべてが特許可能なわけではない。法的にも経済的にも倫理的にも」

 そして、Klemensは次のように締めくくった。「私は、この活動のための連合を作り上げるために裏方で積極的に動いています。まだ私の話を聴いていない会社や団体があったら、メールでお知らせください」

Bruce Byfield コンピューター・ジャーナリスト。Linux.com、IT Manager’s Journalの常連。

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