在宅ワーカーのためのITツール

 ほんの数年前までは珍しいことだったが、最近では多くの企業が様々な職種で在宅ワーカーを雇用するようになった。その形態も様々で、基本的には従来通りのオフィスで働くが週に一日だけ在宅勤務をする人がいるという企業もあるが、スタッフもマネージャも実は全員が在宅でパジャマ姿で働いているという企業まである。コーディングなど一部の業務は、最低限の指導があれば、姿の見えない労働力によって遂行可能であることも多い。

 しかしその他の種類の業務については、在宅ワーカーのマネージメントにどのようなIT関連のサービスを役立てることができるかを一度考え直してみると良いだろう。驚くべきことに、もっとも効果のある方法の中には、かなりローテクなものもある。そして、もっともシンプルなツールの一つであるIM(インスタントメッセンジャー)が今でも圧倒的に多く利用されている。

 在宅ワーカーの側もマネージャの側も、IMは欠かすことのできない生産性ツール/管理ツールであると考えている。取材を行なったところ6人の在宅ワーカーが、本社で働く人々とコミュニケーションするために、毎日、終日IMを利用しているとのことだ。IMは、ウェブサイトのURLや、電話番号や、その他伝えにくい形の情報や、電話で伝えるには時間がかかりすぎるような情報を共有するためのツールとして、電話と組み合わせて利用されることが多いようだ。カリフォルニア州エルドラドヒルにあるDST Output社で品質管理リーダーを務めるTerri Sanne氏は、「会議では、電話をしながら同時にIMも使うことが多い。IMの相手も皆、同じように電話でも繋がっている。特に、製品の大掛かりな改造やまったく新しい実装を行なうときなどにはそのような手段を利用している」と述べた。

次点はVOIP

 VOIP(インターネットベースの電話)は、わずかの差でIMの次によく使用されている重要な管理ツールだ。オランダのライデンにあるOCLC PICA(前Fretwell-Downing)社の製品アナリストJulie Nye氏は、OCLC PICA社は「SkypeとSkypeとSkype、それからSkype」に頼っていると表現している。またニューヨーク州シラキュース市のPolaris Library Systems社で上級製品戦略担当者を務めるCandy Zemon氏によると「在宅ワーカーも会社で働く人々も、全員が同じ会社の内線としてつながることのできるVOIPシステムを導入しているので、いつでも電話をかけて話すことができる」とのことだ。

 IMやVOIPのクライアントの多くには、ユーザがシステムにログインしているかどうかを表示する機能があり、この機能は、他の在宅ワーカーや本社で働く人々との間での仮想的な存在感を構築するのに役立っている。また従来の形態で働く人々に対して、仮想的な同僚が「オフィス内にいる」という安心感も与えるのだという。Nye氏によると「(Skypeの)ムードメッセージを、社内にいるかどうか、出張中(そしてそのためにオンラインにいる回数が通常よりも少なかったり、奇妙な時間にオンラインになっている)かどうか、休暇中かどうかなどを示す一種の在席状況表示として利用している。私の場合、毎日ログオン/ログオフし直すことによっても、私が働いている時間を他の人々に知ってもらうようにしている」とのことだ。

 在宅ワーカーにとってIMとVOIPが重要なのであれば、本社がそのような技術をサポートするべきであることは明らかだ。具体的に言えば少なくとも、遠隔地にいるのか社内にいるのかには関わらず、すべての従業員に対してそのような技術を提供して、各人のニーズに合ったクライアントを勧めたり実装したりするということを意味する。AIM(AOL Instant Messenger)では、ユーザは電子メールアドレスをAOLの「スクリーンネーム」として登録することができるようになった。これにより、新規ユーザを追加したり同僚の連絡先を調べたりする際に、当て推量をしなくてもよくなった。AIMをセキュリティ上のリスクだとみなすITマネージャもいるが、心配な点の多くはファイルの共有を不可能にすれば解決する。また、本社のIM環境をよりセキュアにするためのサードパーティ製品もある。その他の問題点も、真の機密情報の場合に使用すべき連絡手段を従業員に徹底させておくことで解決することができるだろう。

 サーバを社内で運営したりJabberXCPのような企業経由でサポートを受けることのできる、オープンソース・ソフトウェアの「Jabber」のような、より高機能なIMクライアントを採用する企業もあるが、大半の組織では、無料でありよく使われているという理由からだけでも、商用クライアントの方が好まれているようだ。またMeebo.comのようなIM用のウェブ・ゲートウェイを利用すれば、従業員が自分のコンピュータ以外のコンピュータを利用している場合にもIMサービスを簡単に利用することができる。

電子メール

 大容量のストレージを提供している、企業向けの優れた電子メールサポートは、言わずと知れた管理ツールだが、あまり評価されていないこともある。在宅ワーカーの一人(本記事では匿名を希望した)によると、彼の組織では、社外にいる人に対する電子メールのサポートが非常に貧弱であり、そのことがすべての在宅ワーカーに影響しているとのことだ。このような点があなたの会社でも障害となっていないかを確認するため、ある程度の長期間に渡ってあなたの会社のエンタープライズ電子メールシステムを会社の物理的な境界の外から試してみるのは意味があるだろう。ウェブメールなど、出張しがちな人向けに設計されたソリューションの中には、メインのメールクライアントとして日常的に使うには面倒であるものもある。

 在宅ワーカーのための優れた電子メールサポートが持つ価値は、単に連絡手段ということだけには留まらない。電子メールは、在宅ワーカーと従来の形態で働く人々とのつながりを構築して維持することにも役立つ。在宅ワーカーとして働くPolaris Library Systems社のCandy Zemon氏は「あらゆる(「誰か電気を付けっ放しだ」や「キッチンにある食物を自由に食べていいよ」といった類いの)社内メールを読むのは楽しい。自分が一緒に仕事をしている人々の様子が想像しやすくなり、会社の一員であることを実感するのに役立っている」と言う。ノースカロライナ州カーボロのCarrboro電子図書館の分館長Margot G. Malachowski氏も同じ意見だ。夕べの催し物の企画を手伝う、図書館学校からの数多くの在宅インターンの指導に当たっている同氏は、「私のチームの全員が、実際には自分が担当している仕事ではないものについても、日々の業務で何が起こっているのかを把握していることが重要だ。というのも私たちの日々の業務は、夕べの催し物の企画内容にも非常に影響するからだ。特に、催し物として何をやるかの決定に影響を与える」と述べた。

 電子メールはとにかく頻繁に用いられる。現在はニューヨーク市立大学で政府刊行物部門長を務めるが、以前は海外に拠点を置く企業に在宅ワーカーとして2年間勤務した経験もあるというGrace-Ellen McCrann氏は、「在宅ワーカーの満足度と生産性とをどちらも高く保つために私は在宅ワーカーとの連絡に使う言葉というものに特に気を使っている」と言う。McCrann氏にはラジオ用コマーシャルの執筆を行なっていた経験もあるため「読んでもらうことが目的の文章は、聞いてもらうことが目的の文章とは非常に異なっているということは認識していたが、電子メールとIMの場合にもかなり異なっているということが分かってきた」と付け加えた。

 しばしば非難されることもある顔文字――書き手の感情を視覚的に表わす文字――でさえも、在宅ワーカーに対する連絡や在宅ワーカー同士でのやり取りでは役立つこともある。McCrann氏は「書き言葉では、読み手は書き手の目の輝きを見ることや、声に含まれている笑いを聞くことができない。これによって非常に大きな違いが生まれる」と指摘している。また、離れた場所にいる場合、問題が心にわだかまったままになってしまうこともあるという。「在宅ワーカーは物理的な職場において人付き合い/絆作りをしないため、何か問題が起こった場合に、遠くにいる従業員(在宅ワーカーにとっては会社で働く人々、会社で働く人々にとっては在宅ワーカー)を中傷しがちになる」。このようなことがあるので、絶え間のないコミュニケーションと、この形態での作業を円滑化するためのツールをサポートすることと、在宅ワーカーとマネージャとがどちらも定期的にログオンすることなどが非常に重要だ。

 Zemon氏はPolaris社での仕事のかたわら、従業員の全員が在宅ワーカーであるウェブホスティング会社Hen’s Nestも運営している。Zemon氏は「絆作りと自己啓発のための時間として、一日一度はログオンする」ことを勧めている。それに関連して言えば、自分の作業時間を自分で自由に決めることができるということが在宅勤務の利点の一つのように考えられているが、実際にはマネージャたちは、連絡を迅速にできるように、多くの場合において従業員はみな同じ時間帯に作業するべきだと考えている。ペンシルベニア州ルイスバーグのバックネル大学でデジタル・イニシアティブ・グループのリーダーを務めるAbby Clobridge氏は「私の同僚のほとんどにとって、私をつかまえることができる時間が毎週決まっているということは、仕事を円滑に進めるのに非常に役立っている。また、私に親近感を持ってくれることにもつながっているようだ」と述べた。Clobridge氏によると同氏は、チームで問題や課題に対処するための、毎週行なわれることが決まっている電話会議をいくつか抱えているという。

テレビ電話は時期尚早?

 それでは在宅ワーカーを統率するのに重要でないものは何だろうか? それはテレビ電話だ。Skypeやその他のアプリケーションではテレビ電話機能もサポートしているが、在宅ワーカーたちはテレビ電話の利用についてはあまり熱心ではないようだ。実際、何人もの在宅ワーカーが「いくつかのテレビ電話機能付きIMクライアントを調べたが、正直に言って、電話とテキストベースのIMクライアントを一緒に使うのがいちばんうまく行った」というClobridge氏の意見に賛同している。その理由はもしかすると、在宅ワーカーたちが実はパジャマで作業しているからかもしれない。しかしより信憑性が高い理由としては、テレビ電話がまだかなり未発達の技術であり、優れたブロードバンド接続経由であってもなおぎこちなく感じることがあるためだろう。その結果、テレビ電話を利用すると実際には在宅ワーカーとの連絡や接触の障害になることもある。

 とは言え、特殊な状況ではテレビ電話が役に立つこともある。例えば雇用のための面接を行なう場合がそうだ。自身は在宅勤務だが従来通り会社で勤務する従業員を監督する立場にあるClobridge氏は、テレビ電話機能付きIMを使用して、本社で行なわれた採用候補の面接に参加したという。「面接の過程で候補者は他の様々な人に会ったが、その後、テレビ電話で一対一の会話を行なうことで、私たちは対面で話をすることができた」。

 在宅ワーカー向けのITサポートを行なうことは、従業員の満足度と生産性を高く保つためにも重要だ。そのためには、在宅ワーカーにコミュニケーション・ツールを使わせるだけでは十分ではない。Nye氏は「在宅ワーカーたちが必要としている遠隔からのアクセス方法がどのようなものかを検討して、それらに関して在宅ワーカーたちをサポートするのは重要だということをIT/ネットワーク管理担当者たちに明確に示すことが不可欠だ」と指摘した。

 全体的に見て、在宅ワーカーの生産性は高い。何人かが指摘したところによると、在宅ワーカーたちは、Sanne氏が「給湯室でのおしゃべり効果」と呼ぶ、従来の職場では生産性に悪影響を与えることもある、勤務中の私語による影響を受けることがないのだという。しかし在宅ワーカーたちは社内の人々と同じITサポートを受けることができるわけではないため、マネージャたちは、新しい機器や新しいソフトウェアを使い出そうと苦労しているときには在宅ワーカーを少し大目に見る必要もある。Nye氏は自分のノートPCが盗まれてしまったときに、突如として「Windows Vistaの最も早期の導入者の一人」にならざるを得なくなってしまい、その後すぐにNye氏の生産性は急落してしまった。「というのも私は、ソフトウェアの移行/アップグレード、ファイルや電子メールのバックアップからの復帰など、非常に多くのことを自分で調べて行なう必要があったためだ。しかし本社の人々が皆、私の生産性が急落した理由を理解してくれたため、問題にはならなかった」。

 IM、VOIP、電子メールの他にも、在宅ワーカーの環境を改善して、在宅ワーカーと社内で働く人々との関係を円滑に保つ方法は数多く存在する。例えば、ウェブベースの出退社時間記録システムや、使いやすいネットワークストレージ、ウェブベースの問題報告ツール(無料のオープンソースの問い合わせ管理システム「RequestTracker」など)などがある。また、どこにいてもすべての従業員との架け橋を築くために利用することができる、wikiやブログといったソーシャルソフトウェアツールもある。とは言え、最良のツールは単に顔文字のスマイリーであることもある。:-)

ITManagersJournal.com 原文