説得の技術:ITマネージャが成功するための秘訣

 「またスタッフを増やせというのか?」「そのアップグレードはしばらく延期だ」「運用のためのトレーニングにかける予算はもうない。以上!」――このような台詞を耳にすることはないだろうか? ITマネージャとしてあなたは、いやが応でも「説得する」というゲームを毎日行なっている。またあなた以外の人(スタッフも同僚も監督者も顧客もベンダ窓口も)の多くも、人々を説得して特定の考え方を受け入れさせるというこのゲームを行なっている。本記事では、あなたが生まれつき説得力のある話し手である場合にもない場合にも、仕事に関するメッセージを次回はもっと説得力のあるものにすることができる方法を紹介しよう。

 心理学的な観点から言うと、説得力のあるコミュニケーションというのは、説得するということ、すなわち、誰かの信条、態度、そして最終的には行動を変えさせるということだ。説得を成功させるための技術は複雑だが、基本はたった3つの点を押さえておけば良い。1つめは論理的な思考という点で、ある人がどのように状況を認識しているかということだ。2つめは潜在的な感情的反応という点で、例えば好きか嫌いかということなどがある。そして3つめは、行動を起こしやすい性質かどうかという点だ。

 以上のような要素を実例に当てはめて考えてみよう。あなたは上司に、高価な受注システムを新たに購入して導入することを説得したい。またあなたは、その意思決定過程に各方面のユーザを含めることが重要だと考えている。ところが上司は、ユーザを参加させることに関して以前、ひどい経験をしたことがある。また、「うってつけの製品」をしきりに勧めているベンダがいて、上司にその購入の決断を迫ってきているということが分かっている。この場合、結果として上司は、ある一定の感情に基づいて状況を認識していて(ユーザの参加は良くない)、論理的な思考としての情報を持ち(「うってつけの製品」を持つベンダがいる)、行動を起こしやすい状態になっている(既製品を購入/導入する)。

 どのような場合であっても、説得力のあるコミュニケーションはどうすれば実現できるのかを理解して、その基本的な要素を認識していれば、「あなたが推奨」する決断に上司が従うようにするために、どのような対応をすれば良いかが見えてくるだろう。

聞き手について知る:自分の要請に対してもっとも影響力を持つ可能性のある人々が誰かを見極めておこう。その後、そのテーマに関する彼らの経歴、技術的な理解度、意思決定能力のレベルを把握しておくようにする。また前もって、そのテーマについての彼らの考え方、信条、態度についてや、説得力のあるコミュニケーションに対して通常どのような反応をするのかについても見極めておこう。さらに、彼らがどのようなコミュニケーション/プレゼンテーション方法(口頭または文書)を好むのかについても早めに知っておくことができればプラスになるだろう。説得の最初のチャンスが最後のチャンスになる可能性もあるので、的を外さないように聞き手をしっかりと把握しておくようにしよう。

テーマについての下調べをする:これは説得力のあるコミュニケーションにおけるもっとも基本的な原則だ。ITスタッフを増やして欲しい等のあなたの要請は、データ、理に適った根拠、あなたの提案のメリットとデメリット、対処しなかった場合に予想される結果、見込みのある他の選択肢などをいつでも説明できるようにしておかなければ、おそらく暗礁に乗り上げてしまうだろう。結果があなたに大きな影響を与えるという場合は特に、準備を重視するようにしよう。誰かを口頭で説得してあなたの要請に同意してもらいたい場合、考えを伝えたり反論に応じたりするための練習を確かなフィードバックをくれると信用できる人物に手伝ってもらおう。一方、文書で要請する場合には、内容がぶれることなくきっちりと的を射ていることを確実にしよう。また可能であれば文書を直接手渡しして、フォローアップのためのミーティングの時間を取ってもらうようにお願いしよう。なお文書を手渡す前に、その文書をまだ読んだことのない人に頼んでチェックしてもらうようにすると良いだろう。というのも、文書による要請の場合、説明や論理やスペルなどについての間違いがあると、評価が即座に落ちてしまうためだ。

希望する結果を説明する:あなたが希望する決定や、他の人に取って欲しい行動は、非常に明瞭にしておこう。聞き手の技術的な理解度を把握しておき、聞き手が理解することのできる用語や言葉を使うようにする。というのも「説得する」ということは、あなたの莫大な技術的知識を誇示したり、あなたの知る限りのIT用語でもったいぶって話すということではないためだ。また、詳細な入門的説明を適宜行なうことを忘れないようにしよう。ただしそのような説明は、筋が通って理解できるようなものにしておこう。なお、あなたが希望していることについてだけではなく、あなたの要求を実現することのできる聞き手の能力についても考慮するようにしよう。その人の権限外のことをしてもらおうとして、いくら説得したところで意味はない。

自分の説得スタイルを把握する:特に対面で誰かを説得しようとしている場合には、あなた自身がもっとも重要な「説得ツール」だ。たいていの人には、自分の好みの、あるいは少なくとも癖になっている、説得するためのスタイルがある。そのように癖になっているスタイルは、火に油を注ぎ続けるものであることも少なくないが、賢く押し進めるのではなく強く押し通そうとしても、希望通りにITスタッフが増えることは稀だろう。したがって以下のような点を把握しておくのが重要だ。

  • 議論にふさわしい説得スタイルとはどのようなものか
  • 自分の説得スタイルがどのようなものであり、その強みと弱みは何か
  • 自分自身と説得力のあるメッセージとを表現する方法を、継続的かつ意識的に観察する手段

 以上のうちのどの要素が欠けていても、議論の説得力が失われる恐れがある。

場面を選ぶ:大荒れの日の最後に上司をつかまえて、プロジェクトの締切をあと3週間延ばして欲しいと頼むのは得策だろうか? おそらく違うだろう。タイミングを見計らうということはすなわち、説得力のあるメッセージが功を奏す確率を最大限に高めるため、相手のために場面を選ぶということだ。したがって、邪魔が入らない(あるいは最小限に抑える)ようにするために有効な物理的な状況を、前もって見極めておくようにしよう。あなたの要請を聞いたら聞き手が驚きそうだと感じる場合には、あらかじめ下地を作っておく必要があるかもしれない。新しい技術については、聞き手が理解するのに役立つ資料を用意しておくことを検討しよう。あるいは、近々要請したいことがあるということを丁寧にほのめかしておくだけでも効果があるかもしれない。新しい問題、異例の状況、高額なものの購入などは非日常的なことであり、そのため、日常的に行なわれる要請と比べると、より多くの場面設定の努力が必要になることを忘れないようにしよう。

説得力を左右する要素を把握する:説得の際の戦略の有効性の判断材料としては、主に4つの要素がある。すなわち、メッセージの出典、メッセージの信憑性、環境、メッセージがどの程度理解されて覚えておいてもらえるかだ。メッセージの出典は、メッセージの受け取られ方を左右することが多い。したがって、PowerPointの派手なグラフを見せて大言壮語する口先のうまいコンサルタントよりも、実体験を持つ同僚の方が、上司が説得される可能性は高い。信憑性のある実話を語ることのできる、信頼できる内部関係者は、説得するのに大いに役立つ。したがって、あなたの要請が通りやすくなるよう、そのように説得を左右することのできる要素には特に注意を払う必要がある。

利点に焦点を当てる:人々を説得するということは、あなたではなくあなた以外の人々を説得するということなので、説得する際には、あなた以外の人々や、ことによると組織全体などの立場で話をした方が、説得力は必ず大きくなる。メッセージは、聞き手の立場から問題を見て、聞き手の言葉を使って伝えるべきだ。したがって上司に要請を提案する際には、あなたの提案が持つ、上司や組織にとっての利点や長所をはっきりとさせるようにしよう。また相手にとって説得力のある言葉、すなわち「あなた」「利点」「注目を浴びる」などを使うようにすると良いだろう。

決定を最終決定にしておくためにフォローアップする:説得力のあるプレゼンテーションを行なって、希望通りの決定を得ることができても、ガードをゆるめるのはまだ早い。意思決定者は「購入者の後悔」にとらわれたり、より自分好みの別案を思いついたり、ことによると単に決定を取り消したりしてしまうことがある。したがって、意思決定者が決定は正しいものだったと納得し続けるようにすることで、このようなことが起こるのを防止するようにしよう。そのためには、決定を強調して、組織にとっての決定の価値を再び述べる文書を送ると良いだろう。そうすれば決定が補強されるうえ、便利な記録にもなる。また決定の翌日に、口頭で感謝の意を伝えたり、感謝を表わすカードを送れば、説得のために行なった努力が確実に実を結ぶのに役立つかもしれない。

 ITに関するあなたの要求をより頻繁に実現させるために、「説得する」というゲームをうまく行ない、あなた個人の強みの1つにしよう。説得の技術は、スムーズかつ確実に成功させるためには経験を積む必要のある技能ではあるが、うまく用いることができれば、仕事場での非常に大きな強みになることだろう。

Ken Myers博士は米海軍を退役後、ノースウェスト航空常勤副社長を務め、応用組織科学を長年研究する科学者/コンサルタント。現在はオンライン大学Touro University Internationalでビジネス運営/IT管理のCore Professorを務める。

ITManagersJournal.com 原文