Red Hat Summit 2007――第1日目:デスクトップとライセンス

 Red Hat Summitの第1日目は、非常に活気溢れる雰囲気で進行していた。開幕を告げる基調講演については先日のレポートで報告したが、その後私はEben Moglen氏によるGPLv3関連のセッションに参加してから、One Laptop Per Child(OLPC)プロジェクトのRed Hat Linux側開発責任者であるChris Blizzard氏に独占インタビューを受けてもらい、また2つの記者会見にも顔を出した。

 昨日Red Hatからは、今年の夏にIntelとの提携との下Global Desktopというプロジェクトを立ち上げるというビッグニュースが発表された。Global Desktopとは、ハードウェアとソフトウェアを統合して提供するための構想だが、その視野の中に開発途上国におけるLinuxマーケットの拡大が取り込まれているのは明らかである。

 この新規デスクトップ構想の立ち上げによりRed Hatは、愛好者および開発者向けのFedora、企業ユース向けのEnterprise Desktop、開発途上国向けのGlobal Desktopという都合3種類の路線を取りそろえることになる。もっともRed Hatの技術責任者を務めるBrian Stevens氏が昨日朝の基調講演で描いていた同社のデスクトップに関する将来構想と、この3つの路線との間に不整合さが感じられない訳でもない。

Moglen氏によるGPLv3セッション

 コロンビア大学ロースクール教授にて、Free Software FoundationおよびSoftware Freedom Law Centerに所属するEben Moglen氏は今回、GPLv3に関するプレゼンテーションを2回行う予定となっており、昨日はその第1回目が開催された。昨年度のサミットにおいて基調講演が任されていたことからも分かるように、同氏は非常な話し上手として知られており、今年も「In the News」トラックの演者の1人として再び招かれている。そして今回のプレゼンテーションについても、より多くの聴衆に聞いてもらえるよう、金曜日の朝に再演される予定だ。

 Moglen氏はまず30分ほどをかけてGPLv3の成り立ちと現在の進捗状況を説明してから、本論へと話を進めた。なお本セッション冒頭でMoglen氏を紹介したのはRed Hatの相談役を務めるMark Webbink氏であったが、今回はあまりに多くの質問が殺到したため、スケジュールを守る関係上、予定時刻になった段階で質疑応答を打ち切る役目も同氏が担うこととなった。

 セッション中にMoglen氏は、MicrosoftがNovellから購入したSUSE Linux用クーポンを早急に始末しようとしている問題について触れていた。このクーポンに関しては、やがて訪れるGPLv3のリリースに起因して、使用期限に関する問題が生じているとのことだ。それはつまり、MicrosoftはLinuxコミュニティに対する攻撃手段として特許ポートフォリオの利用を目論んでいるものの、12月に予定されている同ライセンスの適用開始によって、そうした戦略が逆にMicrosoftの首を絞める存在と成りかねないということである。

 第1稿段階のGPLv3ドラフトでは、何らかのDRM機構を付けることをソフトウェア開発者に要求するのはGPLライセンス下のコードのユーザによる検証ないし改変を禁じさせる可能性のある行為だとして、ユーザの権利を阻害する形でのパテント(特許)の使用を阻止することが意図されていた。同ドラフトの最新版を見ると、GPLライセンスが適用されている製品のカスタマに与えられるパテント保護についてのあらゆる権利は、ダウンストリームの全ユーザに自動適用される旨が記されているのである。そしてNovellとMicrosoftとで結ばれた合意事項についてだが、この場合SUSE Linuxカスタマに対しては、Microsoftによる特許侵害訴訟の免責権が与えられている。つまりGPLv3ライセンスが適用された場合、この合意事項で免責される範囲は延々と広がり続けることになり、結果としてMicrosoftによる特許訴訟戦略を無効化することになるのだ。先にMicrosoftが早々にSUSEクーポンをWal-MartやDellなどに引き取ってもらったのは、こうした背景があったということである。

OLPCプロジェクトに関するChris Blizzard氏への独占インタビュー

 Moglen氏のセッション終了後、私が行ったのはChris Blizzard氏への独占インタビューである。OLPCプロジェクト用ソフトウェアのエンジニアリングチームを率いる同氏は、9月の完成期限を控えて非常な多忙な身であるが、今回は特別に時間を割いて頂くことができた。Blizzard氏の説明するところによると、同プロジェクト用のハードウェアとソフトウェアの開発では、現状で前者の方の完成度が格段に高いとのことである。ソフトウェアについては開発すべきコードが多量に残されているという訳ではなさそうだが、限られた期間内に多量のクリーンアップ作業をしなければならないのがネックのようだ。

 Blizzard氏はこれまでワーキングユニットの1つを率いてきたが、ハードウェアとソフトウェアの双方に関与できたのは楽しい経験だと語っていた。私自身、問題のラップトップマシンを自分の目で見ることで、その意味するところが実感できた気がする。それは、私が過去に触れたいかなるラップトップとも重ならない異質なマシンだったのである。Blizzard氏との会談に使った部屋で見せられたマシンのバックライト付モニタは、何か非常に小ざっぱりした感じがしていた。サイズとしては小さかったが、非常にクリアな画面が印象に残るのだ。その後私たち2人は、太陽光線が直接降り注ぐ昼下がりの中庭へと移動した。ディスプレイの表示は白黒モードに切り換えられたが、表示の鮮明さが失われることはなかった。室内であるか室外であるかを問うことなく、画面の視認性を非常に高く維持されるよう作られているのである。

 キーボードの作りは、ボタンの凹凸に覆い被さる形で1枚のプラスチックシートが掛けられており、これはおそらく長期の使用に耐えられるようホコリやゴミの侵入を防ぐことを配慮してのことであろう。Sugarと名付けられた操作用インタフェースも、他に類を見ない作りに仕上がっている。キーおよびアイコンの配列は、ドキュメントを主体とした従来型の構成ではなく、具体的な操作を中心に設計されているのだ。例えば自分の周囲に誰がいるのかは、ボタンの1つを押せば分かるようになっている。自分の友人を確認する方法も同様である。その他の操作についてもそれぞれ専用のボタンが割り当てられており、このインタフェースを使うことで従来の方式とは異なったコンピューティング経験を味わえることに間違いはないはずだ。

 色々と物議を呼んだ手回し式発電ハンドルは廃されて久しいが、電力供給の方式に関してはまったく異なる方式のデバイスが採用されている。現行のプロトタイプは、ブラジルその他での実働試験に付されている段階にある。初期のレポートを読む限りその評判は良好で、実際のユーザである子供達も気に入っているようだ。Blizzard氏が触れていた話によると、このデバイスについては女子生徒の方に受けがよいらしく、男子生徒達がグランドでサッカーに興じている間も女子生徒達は教室に止まり、音楽やビデオ作成を楽しんでいたとのことである。

 この日の午後遅く、先のStevens氏やMatthew Szulik氏(Red HatのCEO、社長、会長)その他のRed Hatの重役連の参加する非公式な記者会見が開かれた。レポータ側の多くはRed Hatのデスクトップ戦略を把握しかねていたため、この席で出された質問の大半はその点に関するものであった。サミット第1日目を締めくくったのは、ヨットその他の小型船が帆走する様子を楽しめるホテルの庭園を会場にIBM主催で開かれた野外ディナーパーティである。IBMはパーティの粗品として、点滅するLEDを配した赤いサングラスやフリスビーを用意していた。

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