新たな長期サポート版となる「Qt 5.6」リリース
Qt開発チームは3月16日、オープンソースのアプリケーション開発フレームワーク「Qt 5.6」リリースを発表した。今後3年間のバグ修正とセキュリティアップデートが提供される長期サポート版(LTS)となる。Qtは同時に、サポート付きの商用ライセンスにスタートアップと小規模企業向けも加えた。
QtはさまざまなGUIを提供するアプリケーション開発フレームワークで、C++で実装されている。マルチプラットフォームに対応しており、WindowsやMac OS X、Linux、Android、iOSなどさまざまなOS向けアプリケーション開発に利用できる。ライセンスはLGPLv3またはLGPLv2.1で、非オープンソースソフトウェア向けの商用版も提供されている。
Qt 5.6は2015年7月に公開されたQt 5.5に続く最新版。長期サポートを適用していたQt 4.8のサポートが2015年12月に終了したことに伴うもので、5.6はLTSとして今後3年の間、定期的なパッチレベルのリリースとバグ修正を行う。また、C++11準拠のコンパイラなしで利用できる最後のリリースとなり、5.7以降は古いプラットフォームのサポートがなくなる可能性もあるという。
Qt 5.5でサポートされたWindows 10のサポートがフル対応となり、win32とWinRT APIの両方を利用できる。開発したQtアプリケーションはデスクトップPC、タブレット、スマートフォンで動き、「Windows Store」で公開できる。組み込みでは、「Windows Embedded Compact 2013」のサポートが加わった。Qt開発チームは合わせて、「Visual Studio 2015」コンパイラ向けのバイナリパッケージも提供する。なお、Microsoftがプラグインインフラを変更したことからVisual Studio 2015ではVisual Studioアドインは動かないため、旧バージョンのVisual Studio向けに新しいプラグインを用意するという。
それまでMac OS Xのみだった高DPI画面サポートをすべてのプラットフォームに拡大した。標準解像度向けに作成したアプリケーションを自動的に高解像度向けに拡張できるという。
組み込み機器向けの「Qt for Device Creation」(旧名称「Qt Enterprise Embedded」)も強化され、Windowsホストコンピューターから直接組み込みLinux向け開発が可能になった。また開発ボード上でQtを利用できる「Boot to Qt software stack」では、Yocto Projectを使ったカスタマイズをさらに強化した。
Chromiumベースのブラウザエンジン「Qt WebEngine」はChromium 45ベースとなり、FlashなどのPepper plugins(PPAPI)もサポートする。「Qt WebKit」のWebActions APIやQtプロキシ設定などの機能もQt WebEngineに導入した。Qt WebEngineにはまた、ローレベルAPI向けにQt WebEngineCoreモジュールが加わっており、カスタムURLスキーム、ネットワークリクエストの傍受や遮断などの機能が利用できる。
モジュールではこのほか、Qt Location、Qt Multimedia、QNetworkAccessManagerなどを強化した。C++11との互換性、OpenGL ES 3のサポートなども強化した。
インフラ側では、継続的インテグレーション(CI)システムでこれまでのJenkinsベースのCIに代わって、「COIN」を導入した。変更の統合とテストが高速になり、異なるQtブランチ向けの設定とプラットフォームを効率よくサポートできるとメリットを説明している。
開発チームはQt 5.6リリースに合わせて統合開発環境(IDE)「Qt Creator 3.6.1」も公開した。12月にリリースされた3.6系の最新版となる。
Qt 5.6では以前計画を発表していたスタートアップや小規模企業向けの商用ライセンス「Qt Start-up Plan」を初めて導入する。Qt for Application Developmentの商用ライセンスを安価で提供するもので、月額49ドルからのプロモーション価格も用意している。