システム管理者向け軽量ディストリビューションの比較

 トラブルは世の常だ。ハードディスクが壊れたり、サーバが丸ごとクラッシュしたり。幸い、軽めの惨事に対処するためにシステム管理者が利用できるLinuxベース・ディストリビューションがたくさんある。この記事では、最軽量の4つ(どれも210MBの8cm CDに収まる)─ SliTaz、Parted Magic、GParted、RIPLinuX ─ を取り上げ、それぞれの特徴を解説する。

 どのディストリビューションも使い方は簡単だ。CDを挿入するか、USBドライブを差し込んで起動すればよい。ディスク、パーティション、ファイルを管理したり、診断やネットワークのトラブルシューティングを実行したりできる各種のオープンソース・ツールが揃っている。緊急時に必要なツールの大半がどのディストリビューションにも収録されている。

 最適なシステム管理者向けディストリビューションを選び出すには、いくつかのポイントに着目する必要がある。1つは、起動デバイスのサポートだ。ほとんどのディストリビューションはライブCDから起動、実行できるが、USBデバイスやネットワークPXE(Preboot eXecution Environment)から起動したい場合もあるだろう。また、サイズも考慮すべきポイントとなる。128MBのUSBドライブや8cm CDに収まるか、それともDVDが必要か。サイズの小さいディストリビューションを探しているなら、必要なツールやユーティリティに不足がないか確認しよう。最後のチェックポイントは使いやすさだ。GUIを備えたツールはあるか。コマンドラインでしか操作できないツールばかりではないか。システム管理者ならCLIの扱いを苦にしないだろうが、GUIがあれば問題の早期解決に有利だ。それに、GUIの存在はディストリビューションのユーザベースを大きくするので、結果的にサポートの充実やこまめなアップデートも期待できる。

SliTaz

  SliTaz は、本来はデスクトップ管理用ディストリビューションだが、便利なパーティション操作ツールとリカバリ・ツールも備えている。この記事で紹介する4つのディストリビューションで一番小さいのがSliTaz 1.0だ。サイズはわずか25MB、動作に必要なRAMは128MBに過ぎない。SyslinuxベースのライブCD/ライブUSBディストリビューションであり、Joe’s Window Manager(JWM)と多数のデスクトップアプリケーション用ツールを基盤とする軽量級デスクトップ環境を備える。最近の記事翻訳)でも紹介したが、SliTazはパワフルな超小型ディストリビューションである。Partition MagicのクローンであるGPartedも含まれているので、パーティションの作成と調節も可能だ。パーティションのリカバリ・ツールTestDiskとファイルのリカバリ・ツールPhotoRecは、デフォルト・パッケージに含まれないが、ダウンロードして使用できる。デフォルト・パッケージに含まれるGrsyncは、TestDiskやPhotoRecでリカバリしたデータをバックアップする際に便利だ。

 システム管理者の他の仕事に関して、SliTazに多くは期待できない。pingやnetstatのような、基本的なネットワーク関連ツールがあるだけだ。

 SliTazのほとんどのツールは、画像処理、ドキュメント表示、マルチメディア、ゲームなどのデスクトップ用ツールである。ブートからデスクトップまで、特に動作に問題はなかった。全体として、ディスクやデータのリカバリ・ツールを備えたコンパクトなデスクトップOSを探しているならお勧めだ。

Parted Magic

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Parted Magic

  Parted Magic は、サイズわずか45MBのLinux From Scratch(LFS)ディストリビューションだ。最新バージョン3.0は2.6.26カーネルで動作する。ブートと実行にはライブCD版、USB版、またはPXE版を使用できる。XfceをベースとするGUIはとても美しい。ただし、メモリの要件には注意が必要だ。最新バージョンでライブブート機能が省かれたため、ディストリビューション全体がメモリにロードされる。最低でも300MBのRAMが必須だ。この要件を満たさないコンピュータで使うと、ロードに問題が起きる。一部のプログラムをロードできないか、できたとしてもグラフィカル・デスクトップにアクセスできない可能性がある。

 ディストリビューションの中心にあるのはGPartedツールだが、データリカバリ用ツールのTestDiskとPhotoRec、ディスクイメージ作成プログラムのPartition Imageも含まれている。そのほか、Xarchiver(アーカイブ表示/展開)、Xfburn(CD書き込み)、ISO Master(ISOイメージ作成)などもある。テキスト編集にグラフィカルなLeafpad、インターネットのブラウズにFirefoxの最新バージョン(3.0.1)、データのバックアップにGrsyncを使用できる。

 Parted Magicにはコマンドラインツールもあるが、そのほとんどはディスク関連のdd、ddrescue(ディスクリカバリ用)、cfdisk、fdiskなどである。ディスク関連ツールの充実により、ext2、ext3、ext4、FAT16、FAT32、HFS、HFS+、JFS、Linux swap、NTFS、ReiserFS、Reiser4、XFSなど、多数のファイルシステムがサポートされる。また、tcpdumpのような高機能のネットワークツールも用意されている。

 Parted Magicは、想定された用途、つまりファイルシステム/パーティションの管理・操作・リカバリに使うには素晴らしいディストリビューションだ。GUIのおかげで、平均的ユーザはもちろんシステム管理者にとってもディスク関連タスクは容易である。

GParted Live

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GParted Live

  GParted Live は、GPartedチームの手によるDebianベース・ディストリビューションである。最新バージョンの0.3.7-7は2.6.24カーネルで動作し、サイズはわずか90MB。ブートと実行にはライブCD版、USB版、またはPXE版を使用できるが、ハードディスクへのインストールも可能だ。Pentium II以上、最低64MB以上(推奨128MB)のRAMを搭載したコンピュータが必要とされる。

 地味なブートメニューに並ぶ項目は、ほとんどがビデオ表示に関連するものだ。他のライブCD版システム管理者向けディストリビューションと同様に、Memtest86+がブートメニューの項目にある。Memtest86+を起動すると、使用するキーボードの種類を確認するメッセージが表示される。

 グラフィカル・デスクトップは簡素で、GPartedツールへのショートカットがある。他のディスク関連プログラムや編集ツールを実行するには、Fluxboxメニューを使う。Fluxboxメニューには、厳選されたツールだけが表示される。Vimとnano(テキスト編集)、GNU Midnight Commander(ファイル管理)、Partition Image(イメージ作成)、TestDisk(パーティション・リカバリ)、PhotoRec(ファイル・リカバリ)などだ。Parted Magicと同様に、他のディスク関連ツールにはCLIでアクセスできる。充実したツールを揃えたGParted LiveはParted Magicと同等のファイルシステムをサポートし、ライブUSB作成用のショートカットもデスクトップに置かれている。ただし、Parted Magicとは違って、ネットワーク関連機能はない。つまり、インターネット・ブラウザ、pingやnetstatなどのコマンド、rsyncやGrsyncなどの機能はない。これらはネットワーク接続がないと動作しないからである。同様に、CD書き込みソフトウェアも含まれていない。

 ネットワークがサポートされない、CDにデータを焼けないという点で、GPartedはローカル・マシンでパーティションを管理、操作するタスクに限定して設計されたものだ。データは復元できるが、そのデータを保存するにはローカル・マシンに装着された別のハードディスクか外部ドライブが必要となる。

 ディスクのパーティション操作や関連タスクだけを行うなら、GParted Liveはシステム管理者と平均的なユーザの両方にとって使いやすい。ただし、高いメモリ要件を満たせるなら、Parted Magicを使うほうがよいだろう。

RIPLinuX

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RIPLinuX

 SliTazのデスクトップ・ツールとParted Magicのディスク管理機能にさらに別のシステム管理者向けツールを足したものが欲しければ、RIPLinuXをお勧めする。”Recovery Is Possible Linux”を意味するRIPLinuXは、Slackwareベースのブート/バックアップ/レスキュー/保守用のディストリビューションだ。最新バージョン6.2は2.6.26カーネルで動作し、消費するディスク領域はわずかに85MB。ライブUSBへ手軽にインストールできるツールはないが、インターネットからガイドを入手できる。

 RIPLinuXを使うには、最低でも256MBのRAMが必要とされる。やや高い要件だが、Parted Magicほどではない。ブートメニューにはMemtest86+ユーティリティがあり、CLIまたはGUIのいずれかを選択してブートできる。Parted Magicなどのディストリビューションとは異なり、RIPLinuXには簡素なデスクトップ・インタフェースとFluxboxメニューがある。デスクトップを右クリックすると、使用できるすべてのオプションとプログラムのリストが表示される。

 RIPLinuXがシステム管理者向けディストリビューションとして際立つ点は、使用できるプログラムの多さだ。ディスク・ツールとリカバリ・ユーティリティはParted Magicよりも多く、グラフィカル・プログラムはSystemRescueCdよりも多く、デスクトップ・アプリケーションはSliTazとほぼ同数。XMMSオーディオ・プレーヤー、Xineビデオ・プレーヤー、QEMUエミレーション・プログラムもあり、ワイヤレスにも対応したネットワーク機能さえ備える。最新バージョンのFirefoxに加え、Linksなどの非グラフィカル・ブラウザも付属する。リモート・デスクトップ・ツールを使ってリモートのワークステーションにアクセスすることも可能だ。さまざまなテキスト・エディタ(Beaver、gVim、Leafpad)、ファイル管理ユーティリティ(PCManFM、EmelFM、GNU Midnight Commander)のほか、Parted Magicに含まれるすべてのユーティリティ(CD書き込みツールXfburn、アーカイブ表示/展開ツールXarchiver、ISOイメージ作成ツールISO Masterなど)も揃っている。Parted Magicと同じディスク/パーティション用ツールに加え、G4L(ディスク・イメージ・ツール)、Enterprise Volume Management System(EVMS)などのディスク・ツールも提供する。Parted MagicやGParted Liveと同じように、サポートされるファイルシステムも多い。また、各ツールの使い方を説明するオフライン・ヘルプ・ファイルもある。

さて、勝者は…

 RIPLinuXを発見してからというものは、それまでのシステム管理者向けディストリビューションからRIPLinuXへ乗り換えて、今に至るまでずっと愛用中だ。たくさんのツールがユーザフレンドリなグラフィカル環境に整理されたRIPLinuXは、8cm CDに収まるサイズのシステム管理者向けディストリビューションとして最高のものだろう。ヘルプシステムもよく整備されているので、技術に強くないユーザでも簡単にツールを使いこなせる。ほどほどのメモリ要件とブートの安定性から、RIPLinuXはすべてのシステム管理者のツールボックスに追加されて然るべきだろう。

 RIPLinuXが総合的には勝者と言えるが、他の3つのディストリビューションにもそれぞれの長所がある。Parted Magicと GParted Liveは、ディスクの管理/操作/リカバリに特化したディストリビューションだ。一方、SliTazはデスクトップ・アプリケーションに重点を置くが、ディスクの管理とリカバリの機能も備えている。覚えておいて欲しいのは、どのディストリビューションを選ぶにせよ、役に立つかどうかは、ツールの数にも左右されるがそれと同じぐらい、あなたの使い方しだいでもあるということだ。

Linux.com 原文(2008年9月17日)