SliTaz:超小型Linuxディストリビューション
SliTazは「Simple Light Incredible Temporary Autonomous Zone」の略で、Tが大文字なのはTazwokツールを使用して構築していることとTazベースのアプリケーションをその他にもいくつか利用していることを表わしているのだという。SliTazの本拠地はスイスだが、英語圏とフランス語圏のユーザも獲得している。付属文書の一部とブート画面がフランス語(ただしウェブページで英語版も提供されている)である以外は英語が使用されている。ウェブサイトによれば「SliTazは、英語が分かってLinuxをいくらか知っていれば誰にでも使える」とのことだ。ウェブページやオンラインのユーザフォーラムは、英語とフランス語で利用可能になっている。
SYSLINUXベースのSliTazライブCDを手元のDell製ノートPCで起動したところ、約2分でログイン用プロンプトが表示された。その過程で、言語(フランス語/スイスフランス語/英語)、キーボード配列(フランス/スイス/ベルギー/カナダ/ドイツ/イギリス/スペイン/イタリア/日本/米国)、サウンド関連、グラフィックス関連についての質問が行われた。サウンドとグラフィックスについては、手元のシステムではどちらも適切に自動検出された。デフォルトのユーザ名である「hacker」(パスワードなし)を使ってデスクトップにログインして、本当にRAMから実行しているのかどうかを試すためにマシンからCDを取り出してみたところ、本当にRAMから実行していることが確認できた。なお、起動時のオプションで、サウンド、画面、永続的なhomeディレクトリ、言語とキーボード配列、カーネルモジュール、ノートPC用のオプションなどを指定することもできる。
デスクトップはJWM(Joe's Window Manager)をベースとしていて、すっきりとまとめ上げられている。中央のトップパネルには、メニューのスタート(クモのマーク)、ファイルマネージャ、端末、ウェブブラウザ、アイコン化ツール、音量調整、ネットワーク状況、CPU利用状況グラフ、時計が含まれている。一方ウィンドウの全幅を使った下部のパネルには、ワークスペースを切り替えるための表示と、ウィンドウのリストが含まれている。この構成は使うのには便利だが、最近のデスクトップ環境のいくつかで見られるような派手さはない。とは言え望むなら代わりのデスクトップ環境としてEnlightenmentやOpenboxをインストールすることも可能だ。
ネットワークについて言えば、ワイヤレスではないEthernet接続は、ケーブルをつなげばすぐにインターネットの利用を開始することができた。残念ながら手元のワイヤレス3Com 3c556 Hurricane CardBusアダプタが起動時には検出されなかったのだが、rootユーザとして(パスワードはroot)手動で「modprobe 3c59x」を実行したところ、DHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)を使用してインターネットを問題なく利用することができるようになった。ただしNFS(Network File System)経由でもSamba経由でも、 ファイルサーバ上の共有ディレクトリに接続することはできなかった。一方、後ほどCompaq Athlon 64ビットコンピュータ上でライブCDを使ってみたときには、ネットワークカードは適切に自動設定されて問題なく利用することができた。なおメニュー内を探し回ってみたが、ワイヤレス接続のサポートは見つけることができなかった。
インターネットを使えるようになったのでFlashビデオの再生を試してみたところ、Flashプラグインをダウンロードするように指示された。しかし残念ながらFlashプラグインは自動でも手動でも適切にインストールすることができなかった。SliTazライブCDにはビデオプレイヤが含まれていないこともあって、SliTazのビデオ再生については本稿では報告できない。Flash以外にはFirefoxの利用には問題はなかったのだが、他のディストリビューションでのように前後に訪問したウェブページの表示にAlt-矢印キーを使うことはできなかった。
サウンドについてはまったく問題なく、MP3ファイルもOggファイルもAlsaPlayerを使って再生することができた。ただしそれらのファイルをemelFM2ファイルマネージャ上でクリックしても再生できなかった。この問題を調べてみたところ、デフォルトのオーディオアプリケーションがMuineオーディオプレイヤになっているのに対して、SliTaz 1.0にはMuineが含まれていないことが原因だということが分かった。このデフォルト設定を変更するには、emelFM2の中でオーディオファイルを右クリックしてEdit Filetype(ファイルの種類の編集)を選択して、「muine」を「alsaplayer -e」に変更すれば良い。しかしこれを行っても完全に解決することはできず、AlsaPlayerはファイルを読み込んだ状態で起動したものの再生は開始しなかった。とは言え全体的に見ればサウンドの自動設定はうまく行われているようだった。
SliTazは最小限のISOファイルの作成を目指しているので、SliTazに欠けているソフトウェアをあげつらうのはフェアではないだろう。そこで他の大きなディストリビューションとSliTazを比べるよりも、SliTazに何が入っているかに注目してみよう。もっとも興味深いアプリケーションを挙げると、alsamixer、AlsaPlayer、Asunder CDリッパー、ファイルマネージャのCLEXとemelFM2、ePDFView PDFビューア、テキストエディタのGeanyとLeafpad、gFTPファイル転送クライアント、GParted GNOMEパーティションエディタ、GPicView画像ビューア、ISO Master、Firefox(Bon Echoリリース2.0.0.12)、mhWaveEdit、mtPaint画像エディタ、Osmo PIMツール、SliTaz Burnbox CD/DVDライター、SliTaz Installer、SQLite SQLエンジン、Tazpkgパッケージマネージャ、Transmission BitTorrentクライアント、xterm端末、Xpadメモソフト、各種ユーティリティなどが含まれている。さらにはゲームもいくつか含まれている。上記は個人的に興味を持って使用しているものを挙げただけなので、実際にはさらにずっと多くのアプリケーションが含まれている。これらのアプリケーションについてはオンラインハンドブックも用意されている。一方オフィスアプリケーション、電子メールクライアント、ビデオ再生は意図的に省かれている――これはリリースノートでも説明されているように、ISOファイルのサイズを抑えるためと、「コアシステム」というSliTazが明示的に掲げている目標に徹するための決断だ。
さらにSliTazにはコマンドラインベースのTazpkgというパッケージツールも含まれている。Tazpkgはメニューから実行することもできるが、コマンドラインから実行する方がむしろ簡単のような気がした。Tazpkgを試してみるため、個人的にxtermよりも好みのコマンドシェルであるmrxvtをダウンロードしてみた。mrxvtにはスクロールバーがついていて履歴を表示することができるうえ、明るい背景色と暗い文字色の組合わせで読みやすいので気に入っている。rootユーザになって「tazpgk get-install mrvxt」を実行したところ、自動ダウンロード/インストールがほんの数秒で完了した。加えてメニューにアイコンの追加までしてくれたので、さらに大きなものを試してみたくなった。そこでAbiWordのダウンロード/インストールを試したところ、20秒ほどかかった。その後6つの依存関係をインストールするかどうかの質問が行われたのだが、その際、依存関係の内容も表示されたのが便利だった。しかし「y」を入力した(その後「yes」でも試した)にも関わらず、ダウンロードもインストールも行われなかった。ただ幸いなことにファイルの依存関係のリストがすぐそこに表示されていたので、それらを手動でインストールしてAbiWordを使用できるようにすることは難しくはなかった。
追加できるパッケージは多数あって、CVS(Concurrent Versions System)、GCC(GNU Compiler Collection)、GIMP(the GNU Image Manipulation Program)、GQview画像ビューア、Inkscapeベクタ画像エディタ、Make、Pidgin IMクライアント、Perl、Python、Ruby、Sylpheed電子メールクライアント、xineメディアプレイヤ、各種ライブラリ、SliTaz独自ユーティリティなどから選択することができる。どれもCDには含まれていないが、簡単にインストール可能だ。以上もやはり個人的に興味があって利用しているものを挙げただけなので、完全なリストではない(完全なリストは/var/lib/tazpkg/packages.txtで見ることができる)。なお現時点ではオフィスアプリケーションはほとんどなく、印刷関連のアプリケーションはまったくない。
SliTazにはまた、HTTPウェブサーバのlighttpdも組み込まれている。ウェブサーバにアクセスするには、Firefoxで手元のコンピュータのIPアドレスかループバックアドレスの127.0.0.1を入力するだけで良い。SliTazの文書によれば、lighttpdは「ローカルのxHTMLページ、ウェブサイト、CGIスクリプト/PHPスクリプト」をサポートしているという。またパッケージマネージャを使ってPerlとPythonをインストールする方法についての説明も用意されている。
確かにSliTazの目標は、ワイヤレスやビデオ再生/オフィス/電子メールアプリケーションがデフォルトでサポートされていることを望むであろう普通のデスクトップユーザやノートPCユーザの期待とは異なっているかもしれない。しかしSliTazの開発者たちは、超小型GNU/Linuxディストリビューションのあるべき姿や可能性を再定義しようとしている。SliTazではすべてが完璧だというわけではない――例えばすでに述べたようにTazpkgパッケージマネージャのファイル依存関係の処理や、Firefox用Flashプラグインには問題があった。しかしSlitaz 1.0は古いPC上でも十分に使える、高速で軽快で安定性も高く実用的なGNU/Linuxだ。またレスキューCDとしてや、追加パッケージを自分で選びたい場合のベースのGNU/Linuxシステムとして、素晴らしいディストリビューションだと感じた(Tazlitoという独自ディストリビューション作成用のツールも備えている)。今回Slitaz 1.0を試してみて非常に良い印象を受け非常に興味が沸いたので、今後のリリースについても是非試してみようと思った。
Dennis L. Ericsonはコネチカット州ウェストハートフォード在住のリアルタイム組み込みシステムソフトウェアエンジニア。