CrossOverを使ってWindowsアプリケーションをLinux上で利用する
最近ではLinuxでも数多くの優れたエンドユーザ向けアプリケーションが利用できるようになっているが、それでもやはり「定番」のWindowsアプリケーション――例えばGnuCashではなくてQuicken、GIMPではなくてPhotoshop――を手放せない人もいるだろう。そこでCrossOver Linux 7の登場だ。
最新版CrossOver Linux 7を使ってLinux上で実行することができるWindowsプログラムの数は、これまでで最多だ。Microsoft Office――97から2007まで――やInternet Explorer 6やQuickenなど、人気のWindowsプログラムは、Linux上でもWindows上とほぼ変わりなく利用可能だ。またAdobe Photoshop CS3などそれ以外のプログラムも完璧とはいかないまでも申し分なく利用できる。
CrossOverは、Unix/Linux系オペレーティングシステム上のWindows APIの実装である、オープンソースのWineプロジェクトをベースにしている。Wineは15年間の開発を経て1.0リリースを達成した(翻訳記事)、非常に完成度の高いプロジェクトだ。
WindowsアプリケーションをLinux上で利用するだけであれば、CrossOverを利用する必要はない。Wineだけで十分だ。しかしWineを適切に使うためには、より多くの技術的ノウハウが必要になる。それに対してCrossOverは、Windowsアプリケーションの自動インストールとテクニカルサポートを提供している。そのためWindowsプログラムを実行したいというだけでWineの仕組みを知りたいというわけではないというたいていのユーザとっては、40ドルを支払ってCrossOver Linuxを購入する価値は十分にあるだろう。なおCodeWeaversはIntelベースのMac用として同じ機能を持つCrossOver Macも提供している。
Wine 1.0をベースとしている最新版CrossOver Linuxの使い心地を知るために、2つのシステム上で試してみた。一つはメインマシンとして使用しているopenSUSE 11デスクトップで、1.86GHz Intel Core 2 Duo E6320デュアルコアプロセッサ、2GBのRAM(533MHz)、320GBのSATA(Serial ATA)ハードディスク(7200RPM)を搭載したHewlett-Packard Pavilion A6040N Desktop PCだ。2007年製のなかなか良いPCだ。
CrossOver 7を試してみたもう一つのシステムは、Ubuntu 8.04をインストールした古めのGateway 503GRだ。3GHzのPentium 4 CPU、2GBのRAM、ATI Radeon 250グラフィックスカード、300GBのSATAハードディスクを搭載している。どちらのシステムも、Linux、CrossOver Linux、複数のWindows用/Linux用アプリケーションを同時に実行するには十二分の性能を持つハードウェアを備えている。
CrossOverはシステム資源をほとんど必要としない。CodeWeaversによれば200MHzのCPUを搭載した32ビットシステムがあれば実行可能なのだという。 なお64ビットシステム上でも利用可能だが、その場合には32ビット互換ライブラリをインストールする必要がある。CrossOverを利用するには、使用するLinuxにバージョン2.3.xかそれ以降のGlibcとバージョン3.3かそれ以降のX11R6が含まれている必要がある。またXRenderとFreeTypeをサポートしたXFree86 4の利用が推奨されている。要は、最近のLinuxであればどれでもCrossOverを利用できるということだ。
CrossOverは複数の方法でインストールすることができるが、どのLinux上でも最も確実なインストール方法はシェルスクリプトを使用することだ。インストール後に表示されるGUIは、KDEでもGNOMEでも同様に問題なく動いた。このGUIではサポートされているアプリケーションのリストが表示されるので、インストールしたいWindowsアプリケーションをそのリストから選択すれば良い。
Windowsアプリケーションのインストールは実に簡単で、マウスで選んでいくだけの作業だった。またサポート外のアプリケーションをインストールすることも可能で、私のお気に入りのHTMLエディタNoteTabなどの正式にはサポートはされていないアプリケーションも、いくつかの問題はあったものの実行することができた。
また留意すべき点として、CodeWeaversは人気のあるWindowsアプリケーションのほとんどをLinux上でサポートしようと取り組んでいるものの、すべてのプログラムをサポートしているわけではないという点が挙げられる。CodeWeaversの互換性のページでは、自分のお気に入りのまさにそのプログラムをCrossOverを使ってすでに実行してみた人がいないかどうかや、どれほどうまく動いたかを知ることができる。
インストール後、サポートされているWindowsアプリケーションはまったく問題なく動いた。ほとんどの時間、Word 2003文書、Excel 2003スプレッドシート、IE 6、Quicken 2006のかなり複雑な財務諸表についての作業を行っていたのだが、どのプログラムも調子良く動いた。それどころか、Vista上でよりもLinux上での方が調子が良かったほどだ。特にQuickenは、VistaよりもCrossOverとの方が相性が良かった。少し調べてみたところ、この現象は私に限ったことではないようで、VistaにはQuickenの複数のバージョンについての不具合があることが知られているようだ。
Windowsソフトウェアの中には、最新版のWindows上でよりもLinux上での方が調子良く動くものがある――なんて誰が予想しただろうか?
とは言ってもCrossOverも完璧だというわけではない。Photoshop CS3について言えば、実行はできたもののCS3のインターフェースの表示に時折問題が起こった。この問題は通常は画面が再描画される際に直るが、不快に感じるユーザもおそらくいるだろう。
また、Windowsアプリケーションが別のWindowsアプリケーションのウィンドウに覆い被さっていた時に、画面の再描画を強制的に行う必要があった場合もあった。隠れてしまっているアプリケーションを前面に持ってこようとすると、別のWindowsアプリケーションが覆い被さっていた部分が正しく表示されなくなってしまった。前面に持ってきたアプリケーションで何か(コマンドの実行など)を行えば、正しく表示されなくなってしまっていた部分も正しく表示されるようになった。
CodeWeaversでは、複数ユーザで使用可能で、CrossOver Gamesがバンドルされている70ドルのCrossOver Linux Professionalも提供している。CrossOver Gamesには、Microsoftのゲーム用グラフィックスAPIであるDirectXの高度なサポートが含まれていて、これがあればLinux上でも数多くのWindowsゲームを実行可能だ。World of WarcraftやGuild Warsで敵や相手をやっつけるのはLinux上でもWindows上でとまったく同じように楽しいということを私は個人的に証言することができる。なおCrossOver Gamesは40ドルで別売りもされている。
自分の好みのWindowsアプリケーションが実際に動くのかどうか不明な場合には、CrossOver Linuxの30日間の無料試用版とCrossOver Gamesの7日間の無料試用版とをダウンロードしてみれば、CrossOverが手持ちのWindowsアプリケーションを本当に利用可能にしてくれるのかどうかを十分に見極めることができるだろう。
Steven J. Vaughan-Nicholsは、PCに最適なOSがCP/M-80で、自分のコンピュータで2BSD Unixを使うのがクールだった時代から技術と技術業界についての記事を執筆している。