LinuxにInternet Explorerをインストールするツール IEs4Linux

 インターネットに接続されている一般利用者のパソコンの多くはWindowsマシンだ。したがって、Webアプリケーションを開発する際は、たとえMicrosoftの技術を使っていなかったとしても、MicrosoftのブラウザーであるInternet Explorerを基準にせざるを得ない。だから、通常、Webの開発者には自分の自由になるWindowsが必要だ。自宅でLinuxを使っている人も、サイトのInternet Explorerとの互換性を確認したりIEの独自機能を使っているサイトを利用したりするのに苦労する。そんなときに重宝するのが、スクリプトIEs4Linuxだ。Wineが動作しているシステムにIEの3つの旧版をインストールすることができる。ただし、残念なことに、作りに粗雑な点がある。

 IEs4Linuxを利用する際の必要条件は少なく、Wineの最新版とcabextract、そしてインターネット接続(できれば高速なもの)だけだ。まず、Wineとcabextractをインストールし、次にIEs4Linuxのtarファイルをダウンロードして展開し、スクリプトのあるディレクトリーに移動してスクリプトを実行する。

 この時点でもう、IEs4Linuxの粗雑さが明らかになる。Wineのリリースが1.xでも、コマンドラインからIEs4Linuxを実行すると、Wineが古い(0.9.xではないという意味)のでWineを更新しないと正常に動作しないという主旨のメッセージが表示されるのだ。ここで終了してしまうわけではないので、無視する。

 IEs4Linuxのメイン・スクリーンは単純だ。まず、インストールするバージョンをIE5、5.5、6の中から選ぶ。IEの最新バージョンは7で、2年近く前にリリースされたというのに選択肢にはない。次に、Flash 9をインストールするかどうかを選択する。そして、インストールしたプログラムのアイコンをどこに置くかを指定し、最後にOKをクリックする。オプションは、ほとんどの場合、デフォルトのままで十分だ。IEのインストール・ファイルとIEが必要とするファイルがダウンロードされ、エラーがなければ、指定したバージョンのInternet Explorerが使えるようになる。試用では、上記のごく短い手順でInternet Explorer 6.0が使えるようになった。

 IE6は、筆者がDellの旧型ノートパソコンで試用した限りでは、快適に動いた。ただし、Flashを使っているWebサイトを開くと、Flashを認識することができなかった。FlashのインストールでIEs4Linuxはエラーを報告してこなかったのでインストールされているものと思い込んでいたのだが、実はIEs4LinuxはFlashをadobe.comではなくmacromedia.comからダウンロードしようとしていたのだ。Flashは2005年にMacromedia FlashからAdobe Flashに変わったし、IEs4Linux自体もメイン・ページでAdobe Flashと表記しているのにだ。やむを得ず、IEからFlashをインストールしようとしたのだが、ここでまた問題に遭遇してしまった。

 ダウンロードが遅いのだ。思えば、IEs4LinuxがIEをダウンロードしたときも遅かった。しかも、インターネット接続に問題があると止まってしまう。再開を試みることもなく、ただ止まってしまうのだ。こうなると、IEs4Linuxを終了させるしか手はない。だが、よい点も一つあった。IEs4Linuxを再起動し前回と同じ設定にすると、ダウンロード済みのファイルはそのまま使われ、再度ダウンロードする必要がなかった。

詳細オプション

 IEs4Linuxのメイン・ページには詳細オプションを表示するボタンがあり、インストールのパス、binフォルダーの場所(ここにIEの関連ファイルが保存される)、wgetのフラグ、IE7のインストールを試みるためのオプションがある。IEのデフォルト・インストール先が.wineではなく隠しフォルダーの.ies4linuxになっているのは少々気になるところだが、これは設計上のミスではない。Wine Application Databaseにあるように、IEをWineにインストールすると、「大混乱」になるからだ。実際、Wineの開発者も、絶対にIEをインストールしないように、どうしても必要な場合はIEs4Linuxを使うようにと強く推奨しているほどだ。IEs4Linuxを使うにしろ使わないにしろ、別のディレクトリーにインストールするよう強く推奨されている。だからこそ、IEs4Linuxは前記のようなデフォルトを設定しているのだ。

 筆者はIE7にも挑戦してみたが、失敗した。起動するとウィンドウは開くが、何も表示されず、数分待っても変わらなかった。IEs4Linuxは単にIEをダウンロードしインストールするだけだから、問題はWineにあるのだろう。実際、この問題はWine Application Databaseにも記載されており、IE7の動作が確認されているのはUbuntu 8.04 Hardy x86_64だけだ。おまけに、動作が確認されているといっても、どこまで動くのかはわからない。Wine Application Databaseには「アプリケーションのインストールと実行」とあるだけで、この「実行」が何を意味するかは示されていないからだ。

 ともあれ、IE7がサポートできなければ仕事のないWeb開発者を除いて、開発者にとってIE7は必須のものではないだろう。実際、Googleで検索すると、IE7を必要とするWebサイトよりも、IE7で破壊されるWebサイトの方が多いのだ。また、IE専用のサイトを見たいだけの一般利用者にとってもIE6で十分だ。しかも、XP SP2向けのIE6は2010年までサポートされる。

まとめ

 IEs4Linuxは、詳細を知らなくてもIEを簡単にインストールできる便利なツールだ。ユーザー・インタフェースの問題で煩わしいこともあるが、安定して動作し、すべきことをしてくれる。しかし、IEをLinuxにインストールする方法を云々する前に、そもそもIEをLinuxにインストールする必要があるかないかを考えるべきだろう。Wineプロジェクトの開発者たちはLinuxへのIEのインストールに反対しているし、仮想化技術は使いやすくなり価格も低下している。コンピューターのメモリーを増設して、オープンソースの仮想化製品(KVMやXenなど)をインストールし、その上でWindows XPとIEを動かす方がよいのではないか。その方が、Wine上のIEよりも高速かつ安定して動作する。

David Pendell 20年以上にわたってコンピューター上のオーディオ・ビデオ処理を扱ってきた。ここ10年は組み込み向けから中規模サーバーまで、種々のプラットフォームでLinuxを扱っている。

Linux.com 原文(2008年9月18日)