外観よりも中身の変化が大きいGIMP 2.6

 GIMP(GNU Image Manipulation Program)は、代表的なフリーソフトウェアの1つだ。10月1日にリリースされたバージョン2.6では、多くの機能追加と改良が行われている。ただし、目に見える部分はそれほど変わっておらず、本当の変化はその裏側に隠れている。

 GIMP 2.6のインストール方法は、ディストリビューションによって異なる。まずはパッケージマネージャをチェックして、リポジトリに入っているかどうか確認すること。入っていない場合は、ダウンロードして、いつもの「./configure; make; make install」の手順でソースからビルドする。

 起動して最初に気付くのが、ツールボックスの隣に空白の画像ウィンドウが表示される点だろう。これはGIMPのユーザインタフェース(UI)が再構成された結果だが、UIの詳細については後述する。

 新バージョンで特に便利になった点として、自由選択ツールで多角形選択モードがサポートされたことだ。これで、背景からの前景オブジェクトの抽出が簡単になった。また、折れ線部分の角度を15°単位にすれば、きっちり45°の角度でカットが行える。新たに作成した選択領域の各ノードを移動させて、領域を微調整することも可能だ。

 ペンタブレットを利用する場合は、新しいブラシツール機能によって筆圧や筆速、それに不規則変化といった感度の調整ができる。こうしたパラメータはいずれも0から100までの値で調整でき、その設定に応じてストロークの不透明度、強度、大きさ、色が変化する。また、ブラシを使った選択範囲の境界線描画のストロークでも同様の効果が自動的に得られる。

 今回のGIMPでは、テキストツールも強化されており、テキストブロックは枠に合わせてサイズ変更や移動が自由に行える。テキストに多数のパラグラフが含まれる場合には便利な機能だが、わずかな分量のテキストしか扱わないのならあまり恩恵はない。ただし、テキストの編集はやはり別ウィンドウで行う必要があり、キャンバス上でのテキスト編集にはバージョン2.8で対応する予定だ。

新たなグラフィックライブラリ

 デフォルトでは従来の描画エンジンが使用されるが、このバージョンの内部には初めてGeneral Graphics Library(GEGL)が組み込まれている。GEGLは非循環グラフを利用した画像処理のフレームワークであり、GEGLとの統合は色深度(1チャンネルあたり16ビット)の増大やネイティブCMYKのサポートといった今後の機能強化の下地にもなる。GEGLを有効にするには、「色」→「GEGLを使用」にチェックを入れればよい。

 それほど重要でない変更として、これまでのツールボックスとドックがユーティリティウィンドウとしてまとめられている。GNOMEのものなど、気の利いたウィンドウマネージャは、この情報を利用してページャやタスクエリアでこれらを非表示にすることができる。

 また、ウィンドウ上の画像領域外に対しても塗りつぶし操作の指定が行えるようになっている。これは、拡大表示で作業をしていて、画像の端の部分にだけブラシによるストロークを効かせたい場合などに役立つ。

 UIには、見過ごしてしまいそうなちょっとした変更点が数多くある。たとえば、矩形および楕円選択の際に中心に小さな十字マークが表示されるようになっている。この中心はガイドラインなどへのスナップが効くため、整列の操作が容易になる。また、ステータスバーには、選択や切り抜きの矩形領域の縦横比など、以前より詳しい情報が表示される。さらに、「ウィンドウ」メニューでは開いているすべての画像の一覧から表示の切り替えが可能になり、表示倍率のフィールドには任意の整数値を入力できるようになった。

インタフェースの変更

 トップレベルのウィンドウをいくつも生成するというGIMPのアプローチは、常に批判の的になってきた。このやり方はとりわけその他の画像編集ツールのユーザからの受けが悪く、GIMP開発者の何名かがGIMPshopという、AdobeのPhotoshopのユーザインタフェースを模倣した派生プロジェクトを作ったほどだ。

 UIに関しては、GIMP 2.6は実験的リリースともいえ、開発者側はどうすべきなのかを決めかねているようだ。リリースノートには「ツールボックスメニューバーを削除」と記されており、確かに該当するメニューバーは姿を消しているのだが、その領域だけは意味もなく残されている。ツールボックス関連のドラッグ操作に使えるわけでもない。おそらく、レイアウト上の中途半端な決定のせいでそうなっているのだろう。

 メインのメニューバーは、画像ウィンドウ上に移されている。この形は、以前のバージョンでオプションとして選択できたものだ。その結果、画像ウィンドウが要否にかかわらず最低1つは必ず開いていることになる。なお、この空のウィンドウは、ドラッグアンドドロップ操作のドロップ先として使える。

 以前のGIMPでは、画像の操作にはコンテキストメニューを、ファイルのオープンやスキャンによる新しい画像の取得にはメインメニューを使うのが私のやり方だった。GIMP 2.6のコンテキストメニューは、画像操作のコマンドを利用する最も単純な方法だ。メニューバーを表示するだけの空のウィンドウを使わなくても、画像の取得/表示/生成といった操作が行える。

その他の修正と追加

 今回のリリースにおける新機能は、目立たない小さなものがほとんどだ。以下に、その一部を示す。

  • バージョン2.6では、ウィジェットにCairoライブラリを使用。これにより、ユーザインタフェースのにクオリティが細かいレベルで向上
  • プラグインのエラーメッセージおよび説明をユーザに提示。また、スクリプト言語Script-Fuにおいて、letlet*letrecコマンドを誤用したプラグインコードの実行を中断するように変更。そのため、利用しているプラグインに影響がないかのチェックが必要
  • 色ツールで設定の保存と読み込みに対応、カラーバランスの検討、保存、再利用を容易化
  • にじみツールでブラシの拡大縮小に対応
  • 脱色ツールがキャンバス上でのプレビューに対応
  • Flame(炎)プラグインに22のバリエーションを追加
  • PSD(Adobe Photoshop)インポート用プラグインを更新(ICCカラープロファイルをサポート)

 スクリーンショット付きのリリースノート全文は、GIMPプロジェクトのサイトで確認できる。

まとめ

 GIMP 2.6におけるユーザインタフェースの実験的な変更は、おそらくコミュニティからのフィードバックを期待してのことだろう。つまり、今回のリリースは「早期かつ頻繁なリリース」の伝統に従った暫定的な安定版といえる。2.4のリリースから1年が経過しているとはいえ、GIMPユーザの求めているのが非常に安定したリリースであることを考えると、それほど長い期間ではない。GIMP 2.6には画期的な新機能や目立った改善は見られず、外観上の変更もいまひとつだ。大きな進化といえるのはGEGLだが、外から見る限りはわからない。

 それでも、GIMPがあらゆる点でユーザが満足できるものへと一歩近づいたことは確かだ。次のGIMP 2.8では、キャンバス上でのテキスト編集機能の追加やユーザインタフェースの刷新が期待される。

Leslie P. Polzerは、動的Webサイトの開発を専門としてフリーランスで活動中。

Linux.com 原文(2008年10月21日)