軽量だが改善の余地もあるEquinoxデスクトップ環境

 Linuxで使われるデスクトップ環境といえばKDEやGNOMEなどが定番だが、これらが消費するリソース量を過大すぎると感じているユーザもいるだろう。こうしたものとは対照的に Equinox Desktop Environment (EDE)は私の知る限り最も軽量なデスクトップ環境であるのだが、実際に使用した場合ユーザは、このデスクトップ環境が広範に用いられている標準に準拠しておらず機能面でも不備を抱えている点に不満を憶えることになるかもしれない。

 実のところデスクトップ環境とウィンドウマネージャとの境界線は、かなり曖昧な存在でしかない。つまりウィンドウマネージャ単独では、各種のアイコンを配置する作業空間としてのデスクトップや、実行中のプログラムを一覧するタスクバーやシステムトレイに象徴されるポイント&クリック方式の操作は行えないのである。もちろん自分が好みとするウィンドウマネージャの不足分をIdeskやPerlPanelなどとの組み合わせで補うことも不可能ではないが、例えば後者のプログラムなどは既にメンテナンスが停止されてしまっているようであるし、それ以前にこうした寄せ木細工的なソリューションは統一性に欠けるものであり、これを魅力的な選択肢と思う人間はかなりの少数派だろう。

 ウィンドウマネージャを単体で実行するレベルの軽快さと、先に触れたデスクトップ環境としての機能を兼ね備えたソリューションの1つが、本稿で解説するEDEなのである。EDEにこうした軽快さをもたらしている最大の要因は、そこで用いられているFast Light ToolKit GUIライブラリの改良版にあると見ていいだろう。例えば私が500MHzマシンでの起動速度を比較した際に、その他のデスクトップ環境は最低でも数秒を要したのに対して、EDEはほぼ瞬間的に立ち上がってしまった。またEDEの操作は簡単なインタフェースで統一されており、その習得に特別な負担はかからないのである。

インストレーション

 EDEを使用するには、EDE本体のパッケージだけでなくEFLTKライブラリもインストールしておかなくてはならない。Ubuntu用のEDEパッケージとして用意されているのは1.x以前のブランチのものだけなので、通常は最新のバージョン1.2をソースコードからインストールすることになるだろう。もっともEDEのメンテナ陣からはEFLTKおよびEDEの双方をインストールするためのnetinstallというスクリプトが提供されている。例えば「sudo sh -c 'wget -qO- http://equinox-project.org/netinstall | sh'」というコマンドを実行すれば、最新版ソースのダウンロードと展開およびソフトウェアのビルドとインストールが/usr/localにて自動処理されるのである。

Equinox_thumb.png
Equinox Desktop Environment

 インストールの終了後、GDMを使用しているユーザの場合はログイン画面にてセッションタイプとして“EDE”を選択するだけでいいはずだが、コマンドラインからstartxを介してXを起動している場合は$HOME/.xinitrcファイルを、KDMやXDMなどのログインマネージャを使用している場合は$HOME/.xsessionを編集しなければならない。具体的な変更内容は、startedeスクリプトを実行させるための「exec startede」という行をこれらのファイル末尾部に追加することだけだが、その位置は他のすべてのexec呼び出し行のにしておく必要がある。このstartedeスクリプトの役割はEquinoxにおける基本デスクトップ環境を構築するコンポーネントを起動させることであり、変更後のファイルを保存してからログインし直すと、新規のXセッションを実行するごとにEDEが自動で起動されるようになっているはずだ。

コンポーネント

 インストール後の初回起動時に表示されるデスクトップは、xtermを呼び出すためのサンプルアイコンと画面下端に横長のパネルが配置された構成になっており、後者のパネルに関しては、メニューボタン、クイックランチ、ワークスペース切り替え、タスクバー、システムトレイの各エリアが設けられている。

 このうちシステムトレイからはキーボードレイアウトの変更およびボリュームの調整用アプリケーションのクイックアクセスが行える他、これらの横には簡易的なCPU使用率モニタも配置されている。またデスクトップ環境の基本設定であるスクリーンセーバ、配色、フォントについては、コントロールパネルを介して変更すればいい。

 私が気に入っているのは、ここで用いられているアプレット群が簡潔であると同時に統一性の取れている点である。例えばスクリーンセーバ用の設定ダイアログは、スクリーンセーバとして表示させるグラフィックスのスタイルとこれをアクティブにするまでの待機時間という、誰もが予想するであろう基本機能でまとめられている。その他にも電源管理用の設定パートも設けられているが、これはオプション設定であることが分かりやすいよう、先の設定項目とは距離を開けて配置されているのである。またコントロールパネルには、RPM、DEB、TGZといったパッケージフォーマットからの簡易的なソフトウェアインストールを行うためのフロントエンドも用意されている。

現行のEquinoxデスクトップ環境に残された不備

 EDEを実際に使用すると、些末的なものではあるが、今日では標準的と見なしていいはずの機能のいくつかが未だ装備されていないことに気づかされることになる。例えば、デスクトップにある複数のアイコンをマウス操作で選択しようとしても、点線で囲まれた矩形領域を表示する形での一括選択は行えないし、テキストラベルに対するマウス操作にもアイコンは反応しないのだ。

 その他にもMetaキー(あるいはAltキー)と右マウスボタンの押し下げによるウィンドウのサイズ変更機能もここでは使用できない。この操作法によるサイズ変更はウィンドウの境界線上にあるスポットをマウスで選択する方式よりも実行しやすいため、今では多くのウィンドウマネージャにて採用されているものである。同様に、画面の端においてユーザによる操作が認識されにくくなる点も、改善の余地が残されている1つとしていいだろう。

 しかしながらEDEの抱える最大の問題は、freedesktopとして普及した標準に適合していない点としてよいのではなかろうか。例えばこの環境ではEDEが独自に用いてきた$HOME/.ede/desktopディレクトリが優先されて、私のDesktop/フォルダに格納されたアイコン群は表示されないのだ。またドラッグ&ドロップ操作についてもこのデスクトップコンポーネントでは互換性のないプロトコルが使われているようで、EDEではウィンドウ内にアイコンをドロップしても実際にはその下側にあるデスクトップ上に移動されてしまう。同様にEDEのメニューシステムも、パッケージ用インストーラ群にて広範に使用されているデスクトップメニューの仕様に則しておらず、このシステムの管理についてはユーザが自己の判断にて行うしかない。その他にもEDEの場合は、起動したアプリケーションに関するスタートアップ通知のフィードバックも行われないのである。

 この標準についてはEDE側自身がその準拠を宣言していないのであるが、これは今日広範に用いられているアプリケーション(例えばQtやGTK+2系アプリケーションの多く)およびデスクトップ環境の多くが採用している標準であるので、仮にEDEでも採用されていたならその操作性は大幅に向上していたはずである。

まとめ

 軽快に動作する小振りなデスクトップ環境の構築を目指したEDEプロジェクトは、現在その目標達成に向けて成長を遂げつつある段階である。とは言うものの、ウィンドウ群をタイル状に密着配置させるタイル型ウィンドウマネージャなどの斬新なユーザインタフェースが好みというユーザであれば、EDEを気に入ることはないだろう。このプロジェクトにて目標として掲げられているのは、軽量ではあるが保守的なデスクトップ環境なのである。本文中でも触れたドラッグ&ドロップの不備などに関するマイナーな修正さえ行われれば、実務の現場での使用に耐えうる完成度となってくれるはずなのだが、残念ながら同プロジェクトにおける開発作業はかなりのスローペースで進められているので、ごく近い将来にこうした要望がかなえられることはないであろう。

Leslie P. Polzerは、フリーソフトウェアのコンサルタント、ソフトウェア開発者、グラフィックスデザイナ兼、著述家であり、自分の仕事の大半はタイル型ウィンドウマネージャのターミナルウィンドウにてこなすようにしている。

Linux.com 原文