デスクトップの原点回帰を目指したLightweight X11 Desktop Environment

 既存プログラムを流用した上で軽快さを最優先で作られたLightweight X11 Desktop Environment(LXDE)は、特にテキストエディタを使った手間と時間のかかる設定を行うという点において、古典的なUnixプロジェクトを大いに彷彿とさせる存在である。実際デスクトップに表示されるフォントの品質が若干低めである点も、ビンテージプログラムらしき雰囲気を醸し出すのに貢献している。実用的な観点からすると、デスクトップ環境としての目新しい点は皆無に近いものの、その代わりにローエンドマシンでの使用にも充分耐え、最新のマシンであれば驚くほどの機敏さで動作する点を評価すべきだろう。

 LXDEでは、既存コンポーネントを流用してデスクトップを構築するという基本方針の下、デフォルトでウィンドウマネージャはIceWM、ファイルマネージャはPCManFM、イメージビュワーはGPicViewを使用するという仕様になっている。これらはローエンドシステムで多用されていることからも分かるように、いずれも非常に軽快な動作をすることで知られているプログラムばかりである。こうした特徴はIceWMで特に顕著に現れているが、必要であれば他のウィンドウマネージャを使用させることもできる。

 LXDE独自のコンポーネントとして上げられるのは、LXPanel、LXSession、LXMusicの3つしかなく、しかもこれらが唯一のデスクトップ用ユーティリティなのである。同プロジェクトのWebページにある説明によると、これらのプログラムはFreeDesktop.orgの定める標準に準拠させておらず、あらゆるグラフィカル環境での使用が可能であり、LXPanelおよびLXMusicについては他のLXDEコンポーネントをインストールしなくても動作する可能性が非常に高いということだ。

 なおIceWM関連のオプション機能としては、LXIceテーマがbzip圧縮形式のファイルで提供されている。

 LXDEのコンポーネントはすべて、ソースコードおよびDebian/Ubuntu用の.DEBパッケージの形態で同プロジェクトのサイトからダウンロードできる。ただし現在主流のスタイルとは異なり、LXDEにおけるパッケージのインストールは、その後に必要とされる各種設定作業の単なるスタート地点に過ぎない。そのこと自体はIceWMの使用経験者なら驚くにあたる話ではないだろうが、LXDEの場合は更に独自の設定要件が追加されているのである。

LXDEの設定手順

 GNOME環境の場合、LXDEは自動的にそのデスクトップを使用するようにされているが、クリーンな環境を構築したいのであればDesktopフォルダから自分のhomeディレクトリを移動しておかなければならない。その後の初回ログイン時において、デフォルトのアイコンテーマを設定するにはhomeディレクトリに.gtkrc-2.0という名称のファイルを作成して「gtkicon-theme="theme name"」という指定をしておく必要がある旨のメッセージが表示されるはずだ。

 LXDEのグラフィカルインタフェースに関しては、各種の設定ファイル群が重要な意味を有している。LXDEを使用するには事前に、/usr/local/share/icewmあるいは/etc/X11/icewm(ディストリビューションのインストールディレクトリによって異なる)にあるIceWMのグローバル設定を編集しておいた方がいい場合もある。またグローバル設定フォルダの構成をコピーしたフォルダを自分のhomeディレクトリに作成して、そこにメニュー、プログラム、ツールバー用の設定ファイルを格納しておくこともできる。いずれにせよ現行のユーザアカウントに対するプレファレンスファイル群を作成する場合は、事前にある程度時間をかけて各種設定の詳細を把握しておく必要があるだろう。

 その他にもLXIceテーマを使用するには、ダウンロードしたアーカイブにあるディレクトリを/usr/share/icewm/themesに移動しておかなければならない。その次に行うのはIceWMに対するテーマ設定で、これはhomeディレクトリに/.icewm/themeというファイルを作成して「theme=LXDE/default.theme」という指定を記述すればいいが、あるいはGNOMEのNautilusに相当するPCManFMを用いて、LXDEデスクトップのプレファレンスとして指定しておくこともできる。なおPCManFMでターミナルを最初に起動する場合は、システムにインストール済みターミナルのうちデフォルトで使用するものの指定を要求されるはずである。

 ここまで設定作業を進めていくと、LXDEのグラフィカル環境設定が過剰なまでに多数のファイルに分散していることに多くのユーザが気づくことだろう。これは推測になるが、確かにLXDEのコンポーネントはいずれも.1または.2リリースのものではあるにしろ、IceWMを敢えて採用していることから示唆されるように、こうした手作業での編集が必要とされているのは、開発初期段階にあるが故の暫定措置というよりもLXDEの設計理念にそった正式な仕様という色合いが強いのではないだろうか。そしてKDEやGNOMEなどの近代的デスクトップに慣れたユーザにとって真っ先に思い浮かぶのは“そこまでしてLXDEを使用する価値はあるのか”という疑問のはずだ。

ユーザの価値観が問われる選択

 先の疑問に対する答えは、ユーザ各自がデスクトップ環境に何を期待しているかによって異なってくる。他のデスクトップ環境と同様にLXDEでも、パネル、メニュー、マルチワークスペースなどはサポートしているが、カスタマイズの範囲はかなり限定されている。例えばパネルはデフォルトで設定変更できるようにはなっておらず、configファイルを直接編集するにしてもサンプルや解説書なしで実行できるユーザはほとんどいないはずだ。そうした状況は壁紙についても同様で、LXDEでは指定の画像をデスクトップ全域に表示させるだけで、タイル配置やセンタ配置といったオプションは何も用意されていない。

 カスタマイズ可能な項目でめぼしいものはこの程度である。またマルチメディア関係にしてもLXMusicの場合は音楽ファイルを単に再生できる程度のものであり、Amarokなどの多機能プログラムに比べると非常に見劣りすると評さざるを得ない。こうした状況はPCManFMとGPicViewについても同様で、これらは“特徴がないのが特徴”という意味において各分野の代表的アプリケーションという位置付けになるだろう。デフォルトのLXPanelに独自な機能を挙げるにしても、デスクトップ上で開かれている全ウィンドウを最小化またはシェードさせるアイコンくらいしか見あたらない。こうした方向性においてLXDEは初期バージョンのXfceに似ていると言えなくもないが、それも軽量性とカスタマイズ性とのバランスを取る前に限ればという制限付きの話である。

 つまり、インストールするだけで使用可能な環境ないしは各種の新機能が満載されているデスクトップが理想的というユーザに対して、LXDEはお勧めできないことになる。そうではなく、動作の軽快さこそが最優先というユーザであれば、この結論はまったく逆になる。例えば同プロジェクトのWebページにある説明によると、266MHz Pentium IIマシンで192MBのRAMしか利用できない環境でもLXDEは“中程度の速度”で動作し、1.6GHz AMD Athlonマシンで128MBのRAMという状況下のQEMUエミュレーションにおいては“高速”な動作をしたというレポートが掲載されている。実際、私の手元にある3カ月前に購入したばかりのコンピュータでの動作状況を見ると、こうした主張は事実を述べていると判断していいだろう。これも私の試した範囲内の話だが、GNOMEおよびKDEプログラムの動作速度で比べても、これらのデスクトップを使用するよりLXDEを使用した方が速いように感じられた。

 様々な意味において、LXDEを原点回帰型のデスクトップと呼ぶのは理にかなった表現だろう。これは今日の趨勢に真っ向から反するアプローチと言えるが、同プロジェクトが今後どのようなリリースを行うのかに興味が深まるところだ。

Bruce Byfieldは、コンピュータジャーナリストとして活躍しており、Linux.com、IT Manager’s Journalに定期的に寄稿している。

Linux.com 原文