KVMベースの商用仮想デスクトップ・プログラムが登場

 Linuxに組み込まれている仮想化ブログラムKVM(Kernel-based Virtual Machine)が広がりを見せている。KVMを推進する企業Qumranetが先だってリリースした仮想デスクトップSolid ICEも、この技術をベースとしている。

 Solid ICEの目的は、サーバのKVM上で複数の仮想デスクトップを走らせ、これによりシンクライアントや旧型PCを用いたクライアントでWindowsデスクトップまたはLinuxデスクトップを利用できるようにすること。ただし、サーバ側には、2.6.20またはそれ以降のLinuxが必要だ。

 サーバのプロセッサにも条件があり、x86系で、しかも仮想化拡張をサポートしていなければならない。対応している仮想化拡張は、IntelのVT(Virtualization Technology、別名Vanderpool)とAMDのAMD-V(別名Pacifica)技術。

 Qumranetの創設者の一人で同社CEOのBenny Schnaiderは、Solid ICEが利用者に提供するのは「本当のデスクトップ仮想化」だと言う。「妥協は一切なし。仮想デスクトップかどうか、利用者には判断できないだろう」。ネットワーク・カード、ディスク、グラフィック・アダプターなどのハードウェアについても、各VMには専用の仮想化ハードウェアが提供される。また、「既存のインフラストラクチャーを活用」することで、優れたデスクトップ・イメージ管理、プロビジョニング管理、ポリシーの適用、セキュリティが実現されている。

 しかし、すべてがオープンソースというわけではない。デスクトップのパフォーマンスを改善するため、同社のプロプライエタリなリモート・レンダリング技術SPICE(Simple Protocol for Independent Computing Environments)が使われているのだ。同氏は「KVMは完全なオープンソースだ。しかし、それ以外(SPICE)はクローズド・ソースであり、今後もこの状態が維持されるだろう」と述べている。

 SPICEは「利用者がローカル・システムのリソースを活用できるようにし、これにより使い勝手を改善することを目指して」作られた新しいプロトコルだ(同氏)。たとえば、仮想デスクトップ上でも「フルスクリーンやUSBドライブの利用」ができる。それを支える技術の一つが、クライアントにできる処理はサーバではなくPCに任せるという、Solid ICEの仕組みだ。

 たとえば、ビデオでは、MicrosoftのRemote Desktop Protocol(RDP)、CitrixのIndependent Computing Architecture(ICA)、Unix/LinuxのVirtual Network Computing(VNC)などの技術が使われてきたが、これらは要するに「画面をはぎ取って移植する仕組み」で、サーバが画面を組み立てそれをクライアントのフレーム・バッファーに書き込んで表示したり(RDP、ICA)、サーバにある仮想画面の「スナップショット」を取り込んだり(VNC)する。いずれにしても、グラフィックスはサーバ上で処理される。このため、「YouTubeのビデオなど、フレーム・レートの高いビデオを仮想デスクトップ上で再生するとサーバがクラッシュすることになる」

 これに対して、SPICEでは、クライアントのハードウェアで画像の組み立てができると判断されれば、その処理はデスクトップの内蔵グラフィックス・サブシステムに任される。したがって、画面を高速に表示することができる。実際、クライアント側にあるデスクトップ・グラフィックス・アダプタとネットワークが高精細ビデオに対応していれば、Solid ICEクライアントでも高精細ビデオの再生が可能だ(同氏)。

 Solid ICEのセールス・ポイントはクライアント・パフォーマンスの高さだけではない。総所有コスト(TCO)の低さもその一つだ。「デスクトップ当たりのTCOは年間3000~5000ドル。毎年、文字通り何十億ドルもの経費がデスクトップ環境の運用に当てられてきた。したがって、Solid ICEのように柔軟性が高く独立した安全なコンピューティング環境が必要になる。そうした環境があれば非効率なTCOを大幅に削減することができる」

 これはどのようなシン・クライアント・システムについても言えることだが、同氏によると、Solid ICEの場合、KVMの所要システム・リソースの少なさ、SPICE、クライアント・オペレーティング・システムでのリソース共有といった特長や機能により、同種製品よりも多くのデスクトップを実行することができるという。クライアント・リソース共有については、「Windows XPなど類似のオペレーティング・システムを動かしている」場合、「リソースのいくつかはクライアント間で共有できるためインスタンスは1つだけで済む。したがって、競合製品に比べ2~5倍のクライアントを運用できる」という。

 Solid ICEのカタログ表示価格は、同時実行する仮想デスクトップ当たり200ドル。

Steven J. Vaughan-Nichols 技術とそのビジネスの分野で活動しているライター。PC向けオペレーティング・システムならCP/M-80と言われ、自分のコンピューターで2BSD(Second Berkeley Software Distribution)を使うのが最先端だった時代からの古参。

Linux.com 原文