HPがFOSS社内管理ツール/フォーラム/サービスを発表
HPのオープンソース/Linux戦略ディレクタを務めるDoug Small氏によると、今回発表された上記3件のプロジェクト/サービスは、HPがこの7年間に渡ってFOSSに関わってきたことの直接的な成果なのだという。HPはプリンタとサーバの両分野においてFOSSのサポートをかなり以前から行なってきたが、この直近の2四半期について言えば、出荷台数の22%以上とサーバ関連収益の17%以上がGNU/Linux関連から生まれている。
Small氏は次のように説明した。「HPは自社内のITにおいて様々な用途のためにFOSSを使用している。また、FOSSが含まれているソフトウェアの購入はもちろん、FOSSが含まれているソフトウェア/ハードウェアの出荷も行なっている。オープンソース分野でのビジネスが増えるにともなってHPでは、社内のどこでどのようなライセンスのFOSSを使用しているのかを把握しやすくするための自動化ソフトウェアツールを開発した。また同時に、社内で行われていることを把握しやすくするためのプロセスも開発し、7年に渡って実践してきた。このようにHPが内部的に行なってきたことを顧客に紹介する度に、必ず興味が示されて、コンサルティングという形で提携したいという希望が寄せられた」。
このような内部的に開発されたツールや慣行が、「FOSSology」と「Open Source Health Check」の基盤となっている。
高まる関心
Small氏によるとビジネス界では現在、FOSSの社内管理に対する関心が非常に高まってきているのだという。「この2年ほどの傾向として、FOSSの社内管理についての顧客からの問い合わせ件数が増加している。顧客は、FOSSがプロプライエタリなソフトウェアとは根本的に異なることに気付き始めている。それらの相違点の多くは有利に働くものなのだが、単にこれまでとは違っているという理由から、どうすれば組織内で適切に管理することができるのかという疑問が生まれ始めている」。
主な問題点は、FOSSの場合インターネットから簡単にダウンロードできてしまうために、プロプライエタリなソフトウェアの場合であれば必ず行なわれる、発注業務やライセンスについての調査などが行なわれないということだ。
Small氏は次のように述べた。「HPにはオープンソースのコードを使用して開発を行なう技術者たちがいる。知的所有権の保護や法的な観点から言えば、オープンソースのコードをダウンロードするということはすなわち、おそらく彼らの上司もその存在やその意味を把握していないようなライセンスに準拠する法的な義務を企業に対して負わせているということだ。そして当然ながら、技術者たちがそのようなソフトウェアを入手する際に通常の法律関連のプロセスを経由していないということについて、法律担当者たちが危惧の念を抱いている。彼らは非常に心配になるのだ。しかし、われわれがいくつかのプロセスやツールを用いてそのような法律担当者たちに協力すれば、オープンソースが持つ独特な点や、どうすれば利点を享受しつつ起こり得るいくつかのリスクを回避することができるのかということを彼らも理解できるようになる」。
また、教育の問題だけではなく、ライセンス情報が埋もれてしまっていてすぐに正確に把握することが困難な場合もあるという問題もある。例えばOpenOffice.orgの場合、ライセンスはLGPL(GNU劣等一般公衆利用許諾契約書)となっている。しかしSmall氏によれば、企業にとっての法的な観点から言えば、メインのライセンスを確認するだけでは十分ではない可能性があるという――OpenOffice.orgには1,700以上もの部品があり、それらは様々なオープンソースライセンスの下にあるとのことだ。
Small氏は次のように述べた。「あるコードについて、そのコードに適用されているある一つのライセンスを確認するだけで良いとは限らない。使用されているライセンスのすべてを完全に把握するために、もう少し調査が必要になることもある」。
ツールとサービス
Small氏によるとHPはFOSSologyに関して「HPの開発したすべてのツールをコミュニティに寄与している」とのことだ。FOSSologyのバックエンドは、ウェブ用インターフェース、メタデータ用データベース/レポジトリ、スケジューラ、いくつかのオープンなAPI、全体を動かすためのエンジンなどから構成される拡張可能なソフトウェアフレームワークになっているのだという。現時点ではFOSSologyには、ソースコード内のオープンソースソフトウェアを見つけるための発見用エージェントと、ソフトウェア内に埋め込まれたライセンスを見つけるためのライセンス用エージェントという2つのツールがある。そして、再使用コードを検出するための3つめのエージェントがこの春リリースされる予定となっている。HPはエージェントが使用するデータベースを定期的に更新することでプロジェクトに貢献することになる。一方で他のコントリビュータからも同じような貢献が得られることを期待しているとのことだ。
そしてFOSSologyをサポートする位置づけにあるのがFOSSBazaarだ。FOSSBazaarはLinux Foundation――FOSSBazaarに関するワークショップを設立予定――ならびにGoogle、Novell、SourceForge(Linux.comの親会社)などの企業と協力して開発されるウェブサイトだ。FOSSBazaarは、オープンソースについての基本的な教育の場となることを目的としている。また知的所有権に関するリスク、ライセンス準拠、ライフサイクル管理、オープンソースソフトウェアの目録、セキュリティ、調達といった、FOSSの社内管理に関する具体的な問題も扱われる予定だ。またFOSSBazaarでは、企業の経営者や法律顧問向けの自己査定用チェックシートも用意される予定となっている。
HPのオープンソース/Linux国際マーケティング担当マネージャを務めるKarl Paetzel氏は次のように述べた。「オープンソース関連の特定のテーマに沿ったフォーラムをいくつか用意した。すでにいくつかのパートナー企業が、それらのフォーラムを管理するための各分野の専門家たちを割り当ててくれることになっている」。さらにそのようなモデレータたちは、白書などFOSSBazaarに常置されるコンテンツの審査員としての役割も果たすことになる可能性もあるという。常置コンテンツのライセンス方法については各コントリビュータに一任されることになる予定だが、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスなどのフリーなコンテンツ用ライセンスを利用することが推奨されるかもしれないとのことだ。
Paetzel氏によるとFOSSBazaarの主な目的は教育だという。さらに、「実現できそうなことの一つ」としてFOSS社内管理についての一日セミナーなどを挙げ、その他の教育事業に関しては、FOSSBazaarの参加者が増えるにつれ、すべきことが見えてくるのではないかと期待しているとのことだ。
今回のHPのFOSS社内管理関連の発表のうちの3つめの「Open Source Health Check」は顧客向けの一連の有料サービスで、FOSSBazaarに参加した後に必然的に取るべき次の段階として提供されているように見受けられる。サービスには、既存のコードの査定、FOSSへの移行検討、現在の使用状況の調査などが含まれていて、どれも企業の規模やシステムの複雑さの程度次第で1週間から3ヶ月ほどをかけてサービスを行なうという。
経験とオープンソース
HPが今回発表したプロジェクト/サービスは多くの面において、PalamidaやBlack Duck Softwareなどの企業が社内管理分野で提供しているものに似ているように思われる。Small氏はこの点について次のように述べた。「われわれのサービスは、われわれ自身がこのことに毎日取り組んでいるという点で他とは異なっている。われわれには、今回オープンソース化した各ツールを60人年以上をかけて開発してきた経験がある。つまり、FOSSの使用や貢献に関して顧客が今後行なう可能性のあるあらゆることを、われわれはすでに経験してきたということだ。HPは世界最大のITベンダの一つであり、豊富な経験を持っている。今回HPは、それを直接的に顧客に寄与するということになる」。
Small氏は顧客の名前を個別に挙げることは控えて、次のように説明した。「顧客の名前を公開することは非常に難しいことになってきている。われわれの顧客は、われわれのサービスを利用していることを競争上の利点だとみなしている。低コストのインフラストラクチャを獲得しているためだ。彼らは自分たちのライバルにはそのことを教えたくはないと考えている」。
とは言えSmall氏は、「詳しく話すことはできないが、HPは、Linuxの浸透という観点からおそらく驚かれるような大規模な導入を世界中で行なっている」と述べた。
顧客との会話に基づいた話として、Small氏は次のように述べた。「われわれのツールは非常に完成度が高くかつ革新的だと認識している。実際、われわれの最良の慣行とツールキットを組み合わせて利用しているコンサルティングの顧客からは、素晴らしい反応が得られている。このことは、われわれがこの分野で競争上の優位性を持っていることを示している」。
Bruce Byfieldは、Linux.comとIT Manager’s Journalに定期的に寄稿するコンピュータジャーナリスト。