PowerPointで聴衆を苦しめるのはもうやめよう:印象的なプレゼンテーションを行うためのテクニック
私はPowerPointというアプリケーション自体について特に何か不満を持っているわけではない。PowerPointはプレゼンテーションを作成するためには素晴らしいツールであり、PowerPointの開発にはきっと多大な労力が費やされたことと思う。しかし劣悪なプレゼンテーションや非常識なまでにお粗末なトレーニングプログラムを最後まで聞くことは、誰にとっても実に試練だ。プレゼンテーションというのは、その目的が教育であれ説得(翻訳記事)であれ情報の交換であれ、つまりはコミュニケーションでありメッセージの伝達だ。そのため、中心となる「コアメッセージ」のテーマが何であったとしても、効果的で説得力のあるプレゼンテーションを時間をかけて念入りに作り上げることが大切だ。
スライドの内容を改善する
スライドには、テーマに対して関心がわくような画像を載せるようにして、文字の量は最低限に抑えるようにしよう。プレゼンテーションの場で口頭で伝えるものと同じ文面をスライドに載せる講演者は非常に多いが、それによって聴衆にとっての価値は増えるのだろうか? そうではないはずだ。聴衆に注目して欲しいのは、スライドではなく講演者であるあなた自身だ。したがってスライドでは、コアメッセージを繰り返すのではなく、補強するようなものにするべきだ。画像、中でも自然の風景画像は、聴衆の注意を引き付けるためにはもっとも良い方法だ。高品質の画像は、iStockPhotoやGetty Imagesのようなサイトを利用すればわずかな料金で簡単に入手することができる。それらから受けることのできる恩恵はコストを大きく凌ぐことだろう。
退屈なプレゼンテーションの真っ只中にいるとき、箇条書きの点が並んでいるのを見ると最悪な気分になるので、箇条書きの点を使うのは最低限にするか、まったく削ってしまうようにしよう。そしてその代わりとして、1行か2行の説明に、場合によっては画像を沿えることでメッセージを伝えるようにする。
使うつもりのグラフをもう一度よく見てみよう――そのグラフでメッセージは本当に伝わるだろうか? 場合によってはグラフをそのまま使うのではなく、グラフの一部分のみを取り出して表示したり、データの傾向を明るい色で強調したりすることも試してみよう。
プレゼンテーションの詳細は配布物として印刷して、プレゼンテーションの最後に聴衆に配るようにしよう。配布物の作成にはやや手間がかかるが、それをすることによって、家に帰った後も参照することのできる、何らかの価値あるものを聴衆に対して与えることができる。
聴衆は王様
プレゼンテーションは自分と自分が知っていることについて行なうものだと考えているかのように振る舞う講演者は多い。彼らはテーマについて非常に詳しく、テーマについての情報を事細かに聴衆に与えはするものの、聴衆が実際に必要としていることは何なのかということについてあまり配慮していない。聴衆の立場に立ち、人々が知りたいと望んでいることを伝えるということをどうも忘れてしまっているようだ。プレゼンテーションは本当は聴衆のためのものだ。講演者であるあなたは常にそのことに留意しておかなければならない。テーマについて聴衆が理解する手助けになればなるほど、あなたの知名度が上がって認められることになるだろう。
プレゼンテーションを作成する際には、聴衆が本当に関心を寄せていることは何なのかを自問して、その答えを中心としてコアメッセージを決めるようにしよう。そうすれば聴衆は最後まで積極的にあなたの話を聞いて、あなたの講演から実際に何かを学ぶことになるだろう。そうすればあなたの知名度が上がって認められることになる。
物語を作る
21世紀になって以来、左脳を使った分析的な思考に支配されている世界において右脳的な思考をすることがますます重要になってきていることが明らかになりつつある。右脳的な創造的な思考は今や当たり前のことであり、20年前に分析的思考が重要であったのとちょうど同じように重要になっている。それにともなって、プレゼンテーションの中で物語を話すということが不可欠になっている。しかし残念ながら、それを認識している人は少ない。
プレゼンテーションの作成を始める際にはPowerPointを閉じて、グリッドのことも忘れて、コアメッセージについて考えよう。このメッセージは「テイクアウェイ」(お持ち帰り)と呼ばれている――すなわち、聴衆が講演後持ち帰るべき、絶対的な、必須の、中心となるメッセージだ。テイクアウェイは物語の中心となる部分だが、その回りの部分は講演者であるあなたが自由に作り上げることになる。
プレゼンテーション作成のこの段階では、紙とペンを使うことを考えてみよう。そうすることにより、PowerPointに付きものの邪魔な事柄から解放される。PowerPointはプレゼンテーションを保持しておくためには素晴らしい道具だが、アイデアを生み出す手助けをするツールでは「ない」。この段階には、色やフォントや画像や、その他の様々な機能はかかわりのないことなのだ。
メッセージを印象的にする
情報を伝えることと、印象的なメッセージを伝えることとは、同じではない。印象的というのはすなわち、人を引き付けるということであり、聴衆が忘れないということだ。以下に例を示そう。
つまらないメッセージ:「中国にはアメリカよりも多くの優等生がいる。」
印象的なメッセージ:「中国にはアメリカの全学生数よりも多くの優等生がいる。」
どうだろう。違いに気付いただろうか?最初のメッセージはすでに聞いたことのあるような単なる事実だ。関心がわくようなことは何もなく、簡単に忘れてしまうだろう。2つめのメッセージは予想外であり、ややショックを受ける感じもあって、関心がわく。これらは印象的なメッセージの特徴だ――聴衆はそのようなメッセージをずっと覚えている。ちなみに、中国の優等生については本当の話だ。
優れた講演者は、独創的で予想外な形でデータを提示する方法を探す。直接関連はないが興味深い何かと比較することを考えてみると良いだろう。例えば手持ちのデータを世界各国の人口と比較してみよう。データは何位の国に相当するだろうか? 驚くべき結果になっているかもしれない。
各スライドについて自問する
スライド一式を作成し終わったら、採用するものと除外するものとを決めよう。コアメッセージを強く意識して、各スライドがプレゼンテーションの目的に沿っているかどうか、またメッセージを伝えることに十分に役立っているかどうかを自問する。その際には可能な限り厳しく自問して、各スライドがどうしてもプレゼンテーションに必要かどうかをよく考えよう。
- このスライドは、口頭で述べる予定の内容にさらなる価値を追加しているだろうか?
- このスライドにはいくつの箇条書きがあるだろうか?
- このスライドは関心を呼び起こすだろうか?
- このスライドのフォントは、視力が衰えてきた団塊の世代がほとんどを占める部屋の中で、6メートル先からも読むことができるだろうか?
自問は冷酷に厳しくしよう――それによりメッセージを印象的にすることができる。
習うより慣れよ
俳優も、歌手も、映画スターも、ロックバンドも皆、やっている。そう、つまりリハーサルだ――ガレージで、あるいは誰もいない観客席を前にして行なう大切な取り組みだ。プレゼンテーションを本気で向上させたいなら、初回のプレゼンテーションの前に練習をしよう。
私自身、駆け出しの頃はプレゼンテーションを準備して一度見直せば翌日すぐに発表していた。そのようなプレゼンテーションの中には、うまくいったものもあれば、それほど印象付けることができなかったものもあった。さらに言えば、まったくまずい意味で印象付けることになったこともあった。しかしある時、クライアント用プレゼンテーションに取り組んでいた時に、プレゼンテーションのリハーサルを行わなければならないことがあって、その時初めてリハーサルを行うことの利点に気付かされた。そのリハーサル中は、映画監督のような調子で叫ぶチームリーダーから「カット!そこでもっと感情を入れろ!」などといった指導を受けた。リハーサルは2日間に及び、多数の改訂を行った後、ようやく準備が整った。プレゼンテーションは非常にうまく行き、いつもよりも多く時間をかけた見返りは十分にあった。リハーサルを行うと、頭の中だけでスライドを反復するのとは異なって、問題点に対処したり、話し方の練習をしたりすることができる。今ではリハーサルは、プレゼンテーションを成功させるための私の秘訣の中でも定番の項目となっている。
まとめ
劣悪なプレゼンテーションという社会悪に対して、反乱を起こすべき時が来ている。劣悪なプレゼンテーションのために失われた生産性が、経済に実際的なダメージを与えているのではないだろうか? まあそれはどうか分からないにしても、コアメッセージを決めて、物語を作り、メッセージを印象的にして、リハーサルを行うことにより、プレゼンテーションを劇的に向上させることができることは確かだ。是非試して欲しい――そうすれば聴衆はあなたのことを敬愛するようになるだろう。
Victor StachuraはITサービスの大手企業で業界コンサルタントを25年間務めている。
ITManagersJournal.com 原文