ITプロジェクトを失敗させないための7つのガイドライン

 現在ないし過去に行われたITプロジェクトにまつわる経験談は、ITインフラの構築や改善を目論んだものの、巨額の資金やエネルギーを浪費したあげく、何らの実りなく終わった事例の宝庫である。そのように組織のリソースを無駄にすることなく、ITプロジェクトによって組織の価値を高める責任は、ITマネージャに課されていると言っていいだろう。

 多くの場合そうした責任は、数ある選択肢の中から最も有益に寄与するであろうプロジェクトを選び出し、その実施と管理に必要な手はずを入念に整えておくことで達成できるものである。そこで本稿では、これから新たに進めるプロジェクトを破局に導かせないためのヒントをいくつか紹介することにしよう。

ITプロジェクトに対する影響力を強化し組織内のサポートを確保しておくべし:往々にしてプロジェクトに関する決定とは、純粋に技術的な知識だけで下されるものではなく、同等の比率で政治的な洞察力も寄与してくるものである。よってITマネージャを務める人間であれば、自らの影響力を強化するよう努める必要があり、意思決定の行われる席にはより頻繁に出席を求められるよう配慮しておかなければならない。とはいうものの実際に充分な影響力やサポートを確保しているITマネージャは稀な存在であり、多くの場合与えられるのは実質的に決定済みの事項に対する追認権だけでしかなく、そうして決められたプロジェクトが企業価値を高められるはずもなく(精々が我田引水的な自慢話の吹聴に使われる程度)、組織のリソースを浪費させてIT能力を歪ませる結果となるのが関の山である。

対策:

  • 組織内で強い影響力を有しているとおぼしき人材に目を付けて、その人物に接触する機会をうかがう。例えば非公式な席上で(1)現在どのような仕事をしており、そうした努力が組織にどのような形で貢献しているのかを尋ねる、あるいは(2)各自の業務において情報処理やシステムのサポートにどのような要望を抱いているかを質問してみるのも1つの手段である
  • ITマネージメントに関するより高い地位に就くごとに、技術屋としてのこだわりを薄めていく。上に立つ者ほど、IT以外の分野にも視野と知識を広げる必要があり、組織全体の活動や使命を踏まえた思考をする必要がある
  • 優れたマネージャとして振る舞うためのスキルを自ら身に付ける。特に重要となるのはコミュニケーション能力であり、相手の話に積極的に耳を傾けるといった技術も取得する必要がある

巨視的な視点で全体像をつかむべし:ITインフラストラクチャは、組織としての意思決定を始めとして、その他各種の重要な機能に関係するものである。単なる技術的な側面に限定されることなく、組織全体としての最適な決定が行えるよう他の人々をサポートするのもITマネージャの責任であり、そのためには広範な知識が必要となる。

対策:

  • 組織で利用可能なサポートのプロセス、ハードウェア、ソフトウェアを自ら把握しておく。外部の業者に依頼するという手もあるが、相手にとってはそれがビジネスである以上、不要な商品を売り付けられる危険性を伴う
  • 同様に、意思決定上の頼れるカウンセラとなれるべく、組織の活動実態に則したITの活用法を把握しておく。そうした努力は、自身のアドバイザとしての価値を高め、また意味の無いITプロジェクトを押し付けられる危険性を局限化することができる
  • 多くの場合ITに関する意思決定は、ごく限られた人数のグループにより下されるものである。そうした集団力学に関するグループダイナミックスやリーダーシップの発揮法を学ぶことは、組織としてもITインフラとしても貢献し得ない決定を押し付けられる事態を回避するのに役立つ

ITプロジェクトとは、いずれも社会技術システム(STS:Socio-Technical System)プロジェクトの1種であると捉えるべし:技術的裏付けのある合理的な決定を下すだけでは、プロジェクトの成功方程式の半分を埋めることにしかならない。どのようなITプロジェクトであれ、それが様々な人間が関与するものである以上、人間集団としての組織環境を理解しておかないと他の人々からの反発を招く危険性が高くなる。

対策:

  • 多くのマネージメント履修プログラムにて現在、IT活動をテーマとしたSTS分析に関する講習が行われているので、それを活用する。STSについては有用な行動原理が多く述べられているが、その基本原則を簡単に要約すると、新たなITプロジェクトを立ち上げる際には、誰の既得権益を犯すことになるか、誰の業務プロセスに変更を強いることになるかを事前に把握しておけ、ということになる
  • 自分が手がけるITプロジェクトによって影響を受けるであろう組織内のグループについては、プロジェクトの立案および実施の段階を通じて、それらの代表者をあますことなくプロジェクトに関係させるようにし、そうした人物からの情報収集を欠かさないようにする必要がある
  • 自分が属する組織の特性を把握しておく。集積基板に組み込まれた電子回路と同様、人間の組織もその構成要素が複雑に絡み合ったシステムである。そうしたシステムではたとえごく一部といえども、業務に関係するテクノロジやプロセスの変更を強制すると、目に見えない場所で想定外の結果を色々と呼び込む危険性がある(例えば、影響力の大きい人物の領分にプロジェクトが足を踏み入れてしまうなど)

ソリューションの固定化は忌避するべし:組織におけるITニーズとは往々にして非常に込み入った内容となるものであり、現実に即した慎重な分析を必要とする(現実こそが、かえって把握しにくいことがある)。その際には、複数の選択肢を用意した上で、理にかなった検討を加えなければならない。たいていの場合、唯一絶対の正しいソリューションなど存在しないにもかかわらず、組織の上層部、エンドユーザ、外部の業者など、それぞれの立場ごとに、彼らにとっての正しいソリューションを提示してくるものである。そのため最初から1つのソリューションに固執することは、組織のリソースを無駄に費やす危険性が高く、本来解決すべきIT的な問題をかえって悪化させかねない。

対策:

  • 各部門におけるIT関連の問題や現場のニーズに精通している人物に対して、個別的に意見を聞くようにする。こうして収集した情報を叩き台として、プロジェクトで扱う問題やソリューションに関係するであろうすべてのグループから代表者を募り、グループミーティングを開催する。そして複数用意しておいた選択肢それぞれのメリットとデメリットを評価し、想定される結果はもとより、想定外に生じるであろう影響を可能な限り把握しておくように努める
  • IT関連の問題や特定のソリューションに(発生源ないし抑止力として)関係してくる、組織内部の政治力学を把握する。IT関連の問題を解決するプロセスをどのように展開するかの決定および、そうしたプロセスをITマネージャが制御して好ましい結果を導けるか否かには、こうした情報が大きなウェイトを占めてくる
  • 情報の収集、人間集団に対する問題分析、ソリューションの構築、優先順位の決定に長けた人材が組織内にいれば、その助力を請う

ITプロジェクトのデザインについては曖昧性を許容するべし:ITプロジェクトを進める場合、曖昧性は不可避の要素であり、また必要な要件でもある。プロジェクトを複雑にしているのは技術的な要素だけではなく、それと平行する形で組織的な要素も関与してくるものであり(要求に関する競合、従来の慣行への固執、政治的な力学など)、プロジェクト立案時にはそれらをすべて考慮しなければならない。こうした複雑な問題に対して単純で固定化されたソリューションを押し付けても、それはプロジェクトを成功させる上での最適な処方箋とは成りえない。

対策:

  • ITプロジェクトには、様々な反論や好ましいとされる結果が提示され、関係者の利害関係が入り交じるものであるが、これらは必ずしも相容れない要件ではない。そのためには、定期的に関係者との間で連絡を取り合い、プロジェクトのデザインや実施段階に発生する問題を解決していく必要がある
  • まずはプロジェクトデザインにとってコアとなる要素だけを把握しておく。そしてプロジェクトが進行するに従い、必要不可欠な要件のみを徐々に追加するようにしていく
  • 先に触れたソリューションの固定化を防止する観点から、プロジェクトを立ち上げた段階では、その他のデザイン的な選択肢も検討するようにする。その際には“理想的”ではあるが時期尚早のソリューションに手を出したり、現在の組織に内在する制約を不可避なものとして頭から妥協することは避けなければならない

利害関係者との緊密なコミュニケーションを図るべし:すべてのプロジェクト関係者に対して様々な側面から意志疎通を図るのは、最低限のノルマである。

対策:

  • コミュニケーションの手段は、直接の会見でもオンラインや手書きの文章でも構わない。利害関係者と定期的な連絡を保つことで、プロジェクト管理をポジティブに進めていることを理解してもらう
  • ITプロジェクトとは足で歩いて管理するものである。たとえ長期間不在にする要件が生じた場合でも、個人的なコミュニケーションレベルでいいので、主立ったプロジェクト関係者とはある程度の情報交換を維持する必要がある。信頼関係とはこうした個人的な付き合いによって形成されるものであって、そうした努力が有益なフィードバックを得たり、プロジェクトに対する継続的なサポートを得ることに帰結するようになる
  • プロジェクトの利害関係者からは下記に挙げる3種類のフィードバックを得る必要があり、そのための正規のプロセスを設けておく。1つ、プロジェクトの進捗に対する検討会を定期的に開催するようスケジュールを組むこと。1つ、見落としていた課題や新たに生起した問題が確認された場合は、直ちにプロジェクト関係者による“忌憚のない”批評を求めること。1つ、プロジェクトの全プロセスを見直して教訓を引き出せるよう、総括用の反省会をプロジェクト終了時に予定しておくこと

プロジェクトの支援者や擁護者となりえる人物を押さえておくべし:関係する部門をまとめる立場にある人物を特定し、プロジェクトの支援者となってもらうことが、ITプロジェクトの成功方程式を構成する重要な項目の1つとなる場合がある。

対策:

  • 自分のまとめるIS/ITグループの外部に、プロジェクトの擁護者となりうる人間との人脈を構築する。たいていのプロジェクトではITマネージャないしその上司が最大の発言力を持っているものだが、規模が大きかったり複数の部門が関係するプロジェクトの場合は、IS/IT部門の外部で要職にある人物がプロジェクトの成否に関わる影響力を握っていることがある
  • 擁護者となりうる人物は、慎重に検討した上で選び出す。組織での人物評が優れていることはもとより、プロジェクトの影響を受けるであろう各部門のトップと釣り合うだけの役職にあり、プロジェクト全体を見渡せる位置に置かれている人物が理想的である
  • 組織内における人間関係の育成には時間がかかることを心得ておく。ITマネージャとして職責をスムースにこなしたければ、その後ろ盾を得るべき組織内の主要人物について事前に目星を付けておき、予め人脈を形成しておくことである。そのためには机にしがみついていてはダメで、肝要なのは、有益な対人関係を築けるよう常々心がけておくことだと言える

 これから自分が率いるITプロジェクトの成功が、想定外の人的要因によって妨げられたくなければ、これらの7分野のガイドラインとその対策を心得ておかなければならない。

Ken Myersは組織行動論の博士号を所有し、米海軍およびノースウェスト航空にて組織運営のキャリアを積み重ねた後、Minnesota Technical College Systemの副学長を経て、現在はオンライン大学Touro University Internationalにて経営情報学のCore Professorを務める。Indira Guzmanは情報学技術の博士号を所有し、Touro University Internationalにて情報システムのResident Assistant Professorを務める。

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