ITマネージャに贈るガイド:上司との間の良好な人間関係の育み方

 上司と上手く仕事を進めていくのは職務における最優先事項の1つであり、良好な人間関係の形成に失敗することは、ITマネージャの側にしろ上司の側にしろ針のムシロに座って仕事をし続けることに等しい。逆に言えば、上司との間に良好な人間関係を築くことこそが信頼関係を得る土台であり、またそれは業務の遂行に必要なサポート、情報、支援、リソース、指導をスムースに確保することにつながり、最終的には昇進その他の各種メリットとなるものなのである。そこで本稿では、自分はどんな最低の上司との付き合いも甘受するという覚悟ができている方にとっては不要な話ではあろうが、あなたの職場において最も重要な人間関係を良好なものとするためのヒントをいくつか紹介することにしよう。

人間関係の形成は当事者間の共同責任だと心得る :これは職場以外の重要な付き合いでも当てはまることだが、上司との関係も一方通行で成立するものではない。ところが上司と部下という関係において、その責任の大半は上司の側にあると見なされがちであり、実際に部下の側も現在の関係だけを見て“第三者的”な判断をして終わってしまうものである。だが上司との間に良好な人間関係を築きたければ、当事者の1人である自分の側から率先して働きかけねばならない、というのがここでの基本ルールとなる。

相手に分からすには自らの態度で示す :良好な人間関係の形成には自ら育もうとする意思が必要であり、自分の側にその気があることを示すのは自分自身で制御できる行為である。この種の自己管理には、IT分野における技術的問題と同様にある程度の知的な応用力を必要とするが、自分になら出来ると信じればいい。例え相手が“最低の上司”であっても、自分は前向きな姿勢を維持することに長けた人間であると実証してみせれば、相手の側に非があることを自覚させるのも不可能ではない。

上司の求めるものが何かを見極める :上司の立場にある人間も達成すべき目標や課題を抱えているのであり、上司自身の上役からの要求に応えなければならない。そして、こうしたノルマの詳細を上司の側から部下に対して積極的に説明するというケースはあまり無く、むしろ部下との打ち合わせの席上では、各自に割り振った業務と最終的な目標との関連を意識させるような口調で説明したがるものである。部下の側としては、こうした機会をうまく生かすことができれば上司からの信頼を得ることにつながり、また自分に与えられた役割を“より大局的な視点”から再確認することもできる。

上司をサポートし引き立てる :上司を積極的にサポートすることで、業務の遂行に必要なりソースを優先的に割り当ててもらえることがある。逆に、上司をサポートしようとしない人間は、周囲から疑惑の目で見られても仕方ないとも言えるだろう。古くから言われている格言「口は災いの元」を忘れてはいけない。上司の悪口を実際の言葉にするのは、その後にいくらフォローを入れたとしても、たいがいは悪い結果として跳ね返ってくるものである。不用意な発言は、それが例え一言口にしただけであっても、容易に上司との関係を悪化させるものであり、最悪の場合は完全な破綻をもたらす危険性も備えている。

上司が自分に何を期待しているかを把握する :あなた自身が何人かのITスタッフを同僚ないし配下に有しているとして、そうした人々の働きに対して自分が期待しているのと同じ事が、あなたも上司から期待されているものである。それは、スケジュールを遵守して成果を出す能力であり、仕事の質を高める意思疎通や情報交換の能力であり、問題を適切に解決する能力であり、組織で働く上での人間関係的な常識力であり、業務および同僚やカスタマに対するバランスの取れた判断力であり、様々な業務を代行させる能力である。このことを踏まえた上で上司と話し合いをし、具体的に何が自分に期待されているかを確認しておけばいい。こうした活動は、最終的な業績評価を良好なものとする礎ともなるはずである。

上司のワークスタイルを把握してそれに合わせる :こなすべき仕事の種類や個人的な性格が何であれ、あなたの上司も好みのワークスタイルを持っているはずである。例えば、謹厳な態度で仕事に挑むタイプの上司か、職場でもカジュアルな姿勢を貫こうとするタイプの上司かの違いは、今後の人間関係形成をどのように進めるべきかの大きな指標になる。その他にも、突発的な意見交換を歓迎するタイプか、予めすべてをスケジュール表に書き込まないと気が済まないタイプか、杓子定規に締め切りを厳守するタイプかなどを見極めておき、部下である自分のワークスタイルを上司に合わせることで、良好な人間関係を形成するのである。

上司がコミュニケーションに求めている要件に合わせる :各自の好みが異なるのはコミュニケーションのスタイルについても当てはまる話である。業務に関する情報の収集や伝達についても、短くまとめたメモを使っているか、電子メール愛好者か、顔を合わせての意見交換を求めるかなど、自分の上司がどのような形態を好んでいるかも部下の側で把握しておかなければならない。また、あなたと同様に上司も多忙な人間のはずであり、それならば必要事項のみを簡潔にまとめた情報を歓迎するはずである。また上司が何らかの判断をする際においては、部下である人間の意見や提案を参考にしたがる傾向が多く見られる。ただし上司の中には、特に付き合いだして日が浅い段階において、部下に対しては単刀直入な対応を旨としている人間もいる。このような状況に遭遇した場合は、双方にとって益を成す対応法を導き出すことが肝要である。

自分の長所と短所を心得ておく :個性(パーソナリティ)とは、各自が他人に見せる行為について付けられた1つのレッテルに過ぎない。そして往々にして上司と部下との間の食い違いも“個性の違い”として片づけられがちである。いずれにせよ、こうした厄介な問題には関わらない方が賢明であり、その代わりに行うべきは、自分の職務遂行能力に関して何が長所で何が短所かを客観的に分析しておくことである。要は、自分には何が上手くできて、何が不得手なのかを整理すればいい。こうした分析は、上司が自分に期待するものと現実との齟齬を把握して、そうした期待に応える上で自分に何が出来るのかを検討するのに役立つはずである。実際、自己分析の結果を基にして上司との間で率直な自己啓発用のディスカッションの機会を持つことは、往々にして上司の側にも歓迎される建設的な行為であり、予想外によい印象を相手に与えて良好な人間関係の形成につながることがある。

自分の職務と責任を明確化する :自分の仕事が何であるかは職務内容説明書にでも文字として記述されているはずだが、実際に果たすべき責任は状況に応じて変わってくるものである。その事をわきまえず、自分に割り当てられた業務や責任の表層だけを眺めていたり、“周囲の流れに身を任せる”式の態度を決め込んでいると、取り返しの付かないレベルでの誤解を招いて人間関係を破綻させかねない。また上司といえども、部下の職務内容説明書の細部までは把握していないことも充分にあり得るので、この種の内容を互いに確認しておくことは双方にとって有益な結果につながることがある。その際には、十分な検討ができるよう事前に準備を整えておき、自分に適した職務と責任が与えられるよう率先的に活動する必要もあるが、確認できた事実については必要な内容を書き留めておき、将来的な目標を設定する機会の1つとして活用すればいい。

誠実性と信頼性を旨とする :一般に上司と部下との関係において要となるのが、誠実性と信頼性である。これらの属性に欠けていると判断されたり、上司との間の約束事をなおざりにしていると、業務の進行に支障を来すだけではなく、あなた自身が職を失うことになるかもしれない。

基本方針は確認しても、細部の指示までは求めない :この2つには非常に大きな違いがある。一般に業務上の内容に関しては、最終的な目的、総合的なガイダンス、プロジェクトのタイムラインについての説明を上司に求めても、特に問題はないはずである。だがこうした大枠的な内容ではなく、より細かな個別的な指示を頻繁に上司に求める場合、次の2点を覚悟しておかなければならない。1つ目は、自分の職分の及ぶ範囲が、上司が言及した内容に限定されてしまう危険性である。2つ目は、部下の側にまったく裁量権が与えられないマイクロマネージメントに陥る危険性である。確かに遂行すべき業務については、自分の大雑把な推測にすべて頼り切るのではなく、その詳細を適時確認することは好ましくかつ必要な要件であるのは間違いない。だが、部下であるあなた個人の職務遂行能力を上司に理解してもらうには、それなりの機会を設けて自ら実証してみせる必要があるのだ。

職務の重圧に上手く対処する :一般に上司は、複雑な業務の優先順位を取り違えることなく部下がそつなく処理することを歓迎するものである。それは、責任者である上司が行うべき雑務を減らして、その負担を軽減してくれるからに他ならない。だが職責を課された部下の側としてもそれに付随する重圧に対処しなければならず、そのための第一歩は、技術および管理業務の双方において、自分が果たすべき要件を最大限に把握しておくことである。そして自分の感じるプレッシャーの元凶が、現実性に乏しい達成目標やスケジュールの設定であったり、新規の要求が際限なく追加され続けていることにあると自覚できた場合は、直ちに2つの対応を行わなければならない。1つ目は、課せられた業務や要求を評価して、それを可能な限り現実的な内容に改めるための検討や交渉を進めることである。2つ目は、精神的なプレッシャーが過負荷に達していると感じた段階で、短めの“休憩”を取ることである。時には一歩引き下がることも有効で、周囲の意見を求めたり、自分でゆっくり一晩考えてみることで、重圧に屈することなく職務に対する最低限の意欲を維持し続けられるものである。

反対すべき点には「No」と言う :上司といえども無謬の存在ではなく、あなたの知っている明白な事実に反する決定を下すこともある。そうした場合における部下の役割は“イエスマン”であることではなく、正確な評価や代案を提示することなのである。上司の意見を冷静に分析して客観的な反論を提示するには、それ以前の段階で良好な人間関係を両者の間で構築しておかなければならない。また、事実のみに言及した形で冷静に論を展開するには、それなりのコミュニケーション技術も必要となる。

必要なトレーニングと指導を要求する :ITの専門家にとって継続的なトレーニングを受けることは、必要な要件でもあり、報酬の一種でもある。上司の側としても、専門能力の開発に対する適切なリクエストを部下の側から出されるのは当然と受け止めるはずであり、逆にそうした要求が出されなければ不信に感じても不思議はない。また上司は、単なるお飾りとして雇われているのではない以上、これから管理能力を磨こうとする人間にとって一番身近にある協力者となるはずであり、あるいは技術的な向上に関しても必要な援助をしてくれるかもしれない。例えば各自のプロジェクトに影響するであろう組織の政治力学などは、上司という立場にある者の方がよく心得ているものであり、そうした知識を学ぶことは、自分の将来的な利益につながることにもなる。また上司に対して率直に指導を請うことは、それ自体が親密な人間関係を築くきっかけとなる場合もある。多くの人間は他人からアドバイスを求められることに喜びを感じるものであり、おそらくはあなたの上司もその例外ではないはずだ。

必要な変化を予想し、それを受け入れるための準備を整える :ITマネージャであれば誰でも承知しているであろうが、この分野で課せられる職務は期限付きの仕事であり、そこで使われる技術的な要件も日進月歩で変化していくものである。つまりこの分野の仕事では、不確実性と無縁ではいられないのだ。所属する組織の競争力を高める上で必要な変化を予想し、それを受け入れるための準備を上司が整えるためのサポートをすることができれば、両者の関係はいっそう強化されると見ていいだろう。

部下とは従属する立場にあることを受け入れる :既に触れたように、上司と部下は相互依存の関係にあるものだが、上司はあくまで上司である。だからと言ってどちらかが一方的に不利益を被るという訳ではなく、例えば、職務に必要なリソース、情報、サポートなどは、こうした関係によって部下の側に提供されるメリットだと見なすことができる。自分に適さないと思われる職務や責任を上司が繰り返し割り振ってくることもあるかもしれないが、それに対処する際には“反抗心”を持っていると受け取られないよう最善の注意を払わなければならない。感情むき出しで異論を唱えたり、反発的な態度の伺えるコメントを返すことは、上司との人間関係を緊張させることになるが、それにより良い印象を受ける上司はまず存在しないはずである。

 結局、上司との間にどのような人間関係が形成されたとしても、その責任の一端は自分自身が負っているはずである。ITの専門家として課せられた職務を遂行するには不断の努力が不可欠だが、より高い視点に立脚して職務全体を成功に導くには、上司との間に良好な人間関係を育むことも必要だと心得ておかなければならない。

Ken Myers博士は、応用組織学を長年研究してきたコンサルタントであり、米海軍を退役後、ノースウェスト航空常勤副社長を務め、現在はオンライン大学Touro University Internationalで経営情報学のCore Professorを務めている。

ITManagersJournal.com 原文