ブレード・サーバ導入の落とし穴――データセンター側の受け入れ態勢に抜かりはないか?!
その代表とも言える存在が、米国ミズーリ州カンザス・シティに本拠を置くサーナーのデータセンター・マネジャー、ブライアン・スミス氏だ。
「ブレード・サーバが初めて登場したとき、それがデータセンター施設に与える影響についてはまったく考慮されていなかった。今も状況はさほど変わっていない。そのため、導入企業は、あらかじめ徹底したキャパシティ・プラニングとアーキテクチャ開発を行う必要がある」(スミス氏)
ご存じのとおり、ブレード・サーバとは、高密度コンピューティングをサポートする自己完結型のサーバである。従来のサーバとは異なり、モニタなどのコンポーネントを他のブレードと共有する。これにより、管理作業が簡素化されるとともに配線が整理され、データセンターにおける省スペース化が実現すると言われる。
医療機関向けアプリケーションのホスティング・サービスを提供しているサーナーでは、3年前から自社の7カ所のデータセンターでブレード・サーバの採用を開始し、現在では、合計1,200基ほどのブレードを導入している。
スミス氏は、実際に使ってみてはじめて、この技術のメリットとデメリットを実感できたという。そうして知りえたデメリットの中でも特に彼にとって衝撃的だったのは、その消費電力の大きさであった。ブレード・サーバが消費する電力のせいで、データセンターの電力資源に多大な負担がかかるばかりか、冷却資源のパワーが不足するほどだったのである。「データセンターが高密度に対応していない場合には、火事になってしまったとしても不思議ではない」と、スミス氏はこれからブレード・サーバを導入しようとしている企業に注意を促す。
電力の確保を急ぐべし
カリフォルニア州アーバインにあるインテレネット・コミュニケーションズでプロフェッショナル・サービス担当ディレクターを務めるジェフ・スタイン氏も、サーナーのスミス氏に同調する。「標準的なサーバの必要電力が120ボルトであるのに対し、ブレードは1基で208ボルトもの電力を必要とする。これを何基も導入しようとすると、当然、現状のままでは供給しきれないデータセンターも出てくる」(同氏)
マネジド・サービス・プロバイダーを業とするインテレネットは現在、500基のブレード・サーバをアーバインのメインセンターとフェニックスにある別の施設で稼働させている。その同社では、最近、ブレード・サーバに対応するための「電力供給増強プロジェクト」を完了させたばかりだ。
スタイン氏は、同プロジェクトの目的を、「以前のメインセンターの構造と電力設計でも、1平方フィート当たりのワット数は当時の水準(必要とされる電力量)を満たしていた。だが、ブレード・サーバなど新しい(消費電力の大きな)ハードウェアが出回ってきたため、増え続ける電力需要と冷却需要に対応できるインフラ構築に着手せざるをえなくなった」からだと説明する。
「データセンターを稼働させるにあたっては、供給電力の問題にも配慮したはずだったが、当初はいろいろと過ちを犯してしまった」とスタイン氏が語るように、約2年前にブレード・サーバを導入した際、スタイン氏率いるチームはさまざまな挫折を味わった。
例えば、配電ユニットと配線設備を購入したときには、いずれも予期したものよりサイズが大きくなってしまったという。「本来、こうした機器は、ブレードと同じサイズのキャビネットに効率的に収まるはずのものだ。われわれはこのようなミスを繰り返さないため、必ず寸法を控えるようにした」と、スタイン氏は頭をかきながら当時を振り返る。
設置場所は期待するほどには小さくならない
データセンターの責任者が陥りやすい思い込みとして、スタイン氏はそのほか「ブレード・サーバの設置場所」の問題を挙げる。「ブレードは小さく、ラックに縦置きで何枚も差し込むことができるので、狭いスペースにたくさんのブレードを収めることができるのではないかと考えがちだが、必ずしもそうではない」(同氏)というのである。
従来型のサーバ・シャーシの場合、1ユニット・ラック当たり1台のサーバを横置きで収容する。一方、ブレードのシャーシの場合には、通常7~9ラック・ユニットで14基のブレードを縦置きに差し込んで収容することが可能だ。ただし、サーバの密度が高くなれば、そのぶん消費電力が増えるし、冷却対策も必要になる。それが、スタイン氏の「必ずしもそうではない」発言の真意なのである。
エンタープライズ・マネジメント・アソシエイツのアナリスト、アンディ・マン氏も、設置場所の節約に関してブレード・サーバに過大な期待を寄せるのは禁物であるとの見方を示し、データセンターの担当者に対して、それよりも、まずは機器の整理に努めるべきだと説く。省スペースを実現するためには、そっちのほうが早道だというわけだ。
そのために必要となるのは、「いま抱えている問題点と電力を供給すべき場所を把握できるツール」であり、それを利用するにあたっては、「従来よりもはるかに大量の電力が単一回路に注ぎ込まれることを頭に入れ、システムに過負荷をかけないよう配慮しなければならない」というのが、同氏のアドバイスである。
プラニング・ツールを使ってコストを削減する
マン氏は、電力やスペースに関する問題の発生を予測し、その回避策を講じるために、ビジュアル・ネットワーク・デザインの「Rackwise」やアパーチャー・テクノロジーズの「Vista」といった電力/スペース・プラニング専用プログラムを利用することを勧める。また、消費電力を追跡管理するツールとしては、ヒューレット・パッカード(HP)の「Insight Power Manager」を推奨する。
こうしたツールを使った事前プラニングをしないまま導入を進めてしまうと「将来的にコストの増大を招く」と指摘するのは、SaaS(Software as a Service)プロバイダーであるオプソースのCTO(最高技術責任者)、ジョン・ロウェル氏だ。「大規模なサーバ導入を行う場合は、IT管理者が“消費電力の専門家”にならないと、コストに押しつぶされてしまうことになる」(同氏)というわけである。
ロウェル氏がこうした警告を発するのも、オプソースが、実際に“消費電力”に関して苦い経験をしたことがあるからだ。同社では、2005年から2006年にかけてデータセンターの拡張を行い、ブレード・サーバを850基以上に増強、電力は天井から供給するようにした。
その結果、(当時電気料金が値上がりしたという不可抗力もあったものの)データセンターの電気料金が従来の2.5倍以上にも膨れ上がったのである。しかも、データセンター拡張前に顧客と交わした合意があったため、拡張によって増大したコストを顧客(の利用料金)に転嫁することができなかった。「追加コストのほとんどを自社で吸収しなければならなかった」(同氏)のである。
オプソースはサービス・プロバイダーでありユーザー企業とは状況が違うが、企業のIT管理者も、ブレード・サーバを導入するにあたっては、電気料金などに関して事前に十分考慮しておくべきであろう。特に、チャージバック制度や各部門のユーザーが消費するITリソースのコストをそれぞれの部門に負担させる予算システムを導入している企業にとっては、オプソースのケースは格好の教訓になるはずだ。
ロウェル氏はまた、“ブレード・サーバ時代”には、もちろんサーバ(ブレード)の数も増えるが、それに含まれるCPUとメモリも増加することを忘れてはならないと説く。それが、データセンターの電力事情を悪化させる元凶になっているというのである。
「ブレード・サーバに搭載される高速プロセッサと大型メモリ・チップを動かすためには、多くの電力が必要となる。それが、ブレード・サーバの台数増とともに、データセンターにおける電力需要を幾何級数的に増大させる要因となっている」(同氏)
そこで、ロウェル氏のチームは、CPU/メモリの消費電力分析を行うためのソフトウェア・ツールを導入して、購入するブレード・サーバが自社に適しているかどうかの検証を行っている。ちなみに、同氏によれば、今日のアプリケーションを走らせるには、2001年当時の3倍ものCPU性能/メモリ容量が必要になるという。
一方、サーナーのスミス氏は、ブレードの導入にあたってはラック・サイズなどにも注意する必要があると指摘する。「ラックに収めるシャーシの台数しだいだが、計画的に進めなければ、ラックが部屋を仕切るドアよりも高くなってしまうことだってありうる。実は、当社でも、そのためにいくつかのドアを改修することになった」(同氏)。
また、ラックがあまり高くなりすぎると、配線にも支障を来すおそれがある。サーナーでは、この問題に対処するために、「配線システムを天井に配備し、十分なスペースを確保できるようにした」(同氏)という。
ブレード・サーバの電力問題と冷却問題に対応するためには、こうした恒久的な措置だけでなく応急処置をとることもできる。「例えば、ラック周りの床タイルの上に何も置かずに冷たい空気を入れる、バックドアを設置して熱を逃がす、といった手法もある。そのほかにも、水を用いてデータセンターを冷却するといった方法など、回避策はたくさんある」(スミス氏)のだ。
ただし、「これらの対策にはすべて追加コストが発生することになる」(スミス氏)し、その結果、「ブレード・サーバを導入するメリットを電力対策と冷却対策にかかるコストが上回ってしまう可能性もある」(同氏)のである。
それでもブレード・サーバは魅力的な選択肢
このように、ブレード・サーバを他に先駆けて導入・運用してきたITマネジャーたちは、一様にブレード・サーバには特有の問題が存在することを口にする。だが、彼らはまた、「だからといってスタンドアローン・サーバには決して戻ろうとは思わない」という点でも、意見を同じくしているのである。
「ブレードに移行した大きな理由は、仮想化ツールの存在(仮想化のメリットを享受できるところ)にあった」と語るロウェル氏は、オプソースが採用しているLinuxとマイクロソフト環境に対応した強力な管理ツールを「もはや手放すことはない」と言い切る。
一方、コンサルタントのマン氏は、吸収合併の渦中にあるような企業にとって、ブレード・サーバによってもたらされる仮想化のメリットは魅力的だと指摘する。というのも、「自分が勤務する会社が突然別の会社を買収したとしても、新しいブレードを大量に追加すれば、新たな従業員向けに仮想化環境を構築するという作業を比較的簡単に行うことができる」(同氏)からである。
また、同氏は、ブレードによってデータセンターの管理作業も簡便化されると主張する。
「何十基ものブレードを容易に管理することができるので、回転いすを滑らせて忙しく動き回る必要がなくなる。遠隔サイトを含むすべてのマシンを、単一コンソールから一括管理できるというのは管理者にとって、まさに天国だ」(マン氏)
それと似た表現で、「ブレード・サーバは神からの授かりものだ」とにこやかな笑顔を見せるのは、インテレネットのスタイン氏だ。その真意を、同氏は次のように説明する。
「われわれにとって、ブレード・サーバの調整・変更は、十分やるだけの価値があるものとなった。なぜなら、従来型のサーバのように、サーバをラックから取り出して分解・再設定するといったような、余計な手間暇がかからないからだ。ブレード・サーバなら、ただブレードを引き抜いてアップグレードし、元の場所に差し込むだけでいい」
(サンドラ・ギットレン/Computerworld米国版)
提供:Computerworld.jp