イベントリポート:Interop Tokyo 2007──NGNの始動

 アジア最大のネットワーク技術の総合イベント、Interop Tokyo 2007の展示会が6月13日に幕張メッセで開幕した(コンファレンスは11日から)。第14回目となる今回のテーマは「“THE Internet”~ビジネスを加速させる為の課題の解決策がここにある~」。

 すべての出展企業がこのテーマに沿った展示を行っているわけではないが、会場内を見て回ると確かに「通信ビジネスの加速」を感じる。なぜそのように感じているのかというと、NGN(Next Generation Network)という大きな波が通信業界に押し寄せてきているからだ。

 ここでNGNについて簡単に説明しておくと、「電話会社が通話回線と通信回線をそれぞれ個別に敷設・管理するのはコストがかかるし無駄が多いので、IPネットワーク上に全部統合してしまいましょう。ただし、インターネットは品質やセキュリティ等の面でさまざまな問題を抱えているので、問題が起こらないような新しいネットワークを作りましょう」というのがNGNが考案され、推進されている背景である。

 このNGNは以下のようなが特徴を備えている。

  • データと音声通話、放送の統合
  • 固定・移動体通信の統合
  • 高速性とリアルタイム性を両立させるQoS制御
  • 高度なセキュリティを実現する管理機能

 NGNは世界中で個別に開発が進められてきた関係で各国間の相互接続性に不安があったが、2006年9月にITU-T(国際電気通信連合 電気通信標準化部門)でNGNの標準仕様「NGN リリース1」が勧告され、相互接続性の確保にも目処がついてきた。そして、ITU-T勧告を受けてNGN対応ネットワーク機器が各社からリリースされ、日本では一般利用者まで対象にしたフィールドトライアルが今年4月から始まっている。

 1年前はまだ絵に描いた餅のような状態だったNGNが、今はつきたての餅(まだ熱くて火傷しそうだけれど)として供されている。かくして、今回のInteropは、通信機器メーカーや総合ハードウェアベンダー、通信キャリアがNGN対応のネットワーク機器やNGNを使ったサービスの展示に大きなスペースを割き、NGNへの取り組みをアピールする場となっているわけだ。

NTTコミュニケーションズのNGNトライアル

 さて、前置きが長くなったが、NGN関連で目についたブースを2つほど紹介しよう。

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写真1:緊急地震速報配信サービス(クリックで拡大)


 まずは、NTTコミュニケーションズ。同社はオープンスペースでのNGN関連セッションで多数の来場者を引きつけ、NGN関連サービスの展示も充実していた。写真1は「緊急地震速報配信サービス(仮称)」の端末で、地震発生時に揺れの到達時間をカウントダウンし、予想震度を知らせるというもの。このサービスはフレッツ網のIPv6マルチキャストを使った試験サービスが提供中(商用サービスは今年中に開始)だが、NGN網を使うことでさらなる遅延の低減が図れるという。

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写真2:ハイビジョンVOD配信(クリックで拡大)


 写真2はNGN網を使った「ハイビジョンVOD配信」のデモ。現在ITU-Tで標準化が進められているIPTV仕様に準拠しており、圧縮率の高いH.264コーデックとNGNのQoS制御を用いることで、高品質で乱れのない映像の配信が可能となっている。

 このほか、NTTコミュニケーションズは、NGNの回線IDを用いた認証システム「ひかり認証サービス(仮称)」や「災害時安否情報共有サービス」など、NGNの特性を生かしたサービスを多数展示していた。

スイッチング動作2nsの光ルータ

 さて、NGNですべてのデータをIPネットワークに集約し、高速性とリアルタイム性を両立させるとなると、より高性能なネットワーク機器が必要となる。

 今回のInteropでは、さまざまなベンダーからNGN対応のネットワーク機器が出品されていたが、ここでは横河電機を取り上げてみたい。

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写真3:40G DQPSK トランスポンダ(クリックで拡大)


 写真3は、横河電機が富士通と共同開発した「40G DQPSK トランスポンダ(送受信モジュール)」だ(今年4月に発表)。DQPSK(Differential Quadrature Phase Shift Keying:差動4値位相)はデジタル信号の変調方式の1つで、搬送波の4つの位相に2ビット(4値)のデータを割り当てる方式。従来の2値変調方式で40Gbpsを実現しようとすると偏波モード分散という現象が発生して搬送波の波形に歪みが生じ、伝送可能距離が100Km程度に制限されてしまう。だが、DQPSK方式を採用したこの製品では800Km程度の伝送ができるという。これにより、従来よりも高速な回線を都市間に敷設することが可能になるとのことである。

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写真4:次世代光ルータコアサブシステム(クリックで拡大)


 また、横河電機は、超高速動作を実現した「次世代光ルータコアサブシステム」(写真4)も出品。従来の光クロスコネクト方式ではスイッチング動作にmsオーダーの時間がかかっていたが、独自開発したGMPLS(Generalized Multi-Protocol Label Switching)方式の光スイッチモジュールにより、2ns以下のスイッチング動作を実現しているという。なお、展示品は原型動作モデルで、スケジューリング回路や高速トリガ回路などは搭載していない。制御回路は、顧客のアプリケーションに合わせて開発し、付加するかたちになるそうだ。

 以上、本稿ではNGN関連の展示を紹介した。40Gのネットワーク機器は横河電機以外からもいろいろと出品されていたのだが、それらの製品で使われている高度な技術に驚くと同時に、NGNのインフラを支える機器がようやく製品化されているような状況で2008年の商用サービス開始に間に合うのだろうか、と素人目には感じられてしまう。もっともNGNに40Gが必須というわけではないだろうし、実際は商用サービスが開始されても一気にNGNに移行するわけではないから問題はないのだろう。一ユーザーとしては、NGNへの移行を促す、魅力的なサービスが充実することを期待したい。