イベントリポート:Interop Tokyo 2007──OSS製品は目立たず

 Interop Tokyo 2007のリポート第2弾。今回は、オープンソース関連の展示品を紹介したい。もっとも、昨年はオープンソース・パビリオンが設置されてオープンソース製品にもそれなりに注目が集まっていたが、今年は特にそのようなパビリオンもなく、オープンソースを前面に出している出展社が少ないせいもあって、あまり“オープンソース”というキーワードが注目されているようには感じなかった。

 もちろん、オープンソースがらみの出展がまったくなかったわけではないので、本稿ではその中から3つほど紹介したい。

利便性で差別化を図る

 まず最初に紹介するのは、ベンチャー企業が集まるベンチャーパビリオンに出展していたM2X。同社は、オープンソースのIP-PBXソフトウェア、Asteriskをベースとする「BIZTEL PRO」を展示していた(写真1)。このBIZTEL PROは、Asteriskに独自開発のWeb管理インタフェースや高音質なソフトフォンを追加した製品だ。

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BIZTEL PRO(クリックで拡大)

 IP-PBXの場合、設置場所に関係なく電話番号を割り当てられるので、特に海外にコールセンターを設置するようなケースでの導入が進んでいるそうだ。また、M2Xでは、ホスティング・サービス・プロバイダーのAT+LINKと提携してBIZTEL PROのASPサービスも提供しており、こちらは月額料金で利用できるため、キャンペーンの実施に合わせて一定期間だけコールセンターを増強したい、といったケースで利用されているとのことだ。

 最近はAsteriskを活用したIP電話事業に参入する企業が相次いでいるため、M2Xのようなベンチャー企業が勝ち残るのは容易ではないと思うが、この点についてM2Xでは、利便性の向上で差別化を図っていくという。

 その例として挙げてくれたのが、今年3月に販売を開始した「BIZTEL ウェブ電話 PRO」。顧客企業のWebページにアクセスしたユーザーが、企業への電話での問い合わせを簡単にできるようにする製品だ。通話方式は、ダイレクトコールとコールバックの2タイプが利用でき、ダイレクトコール方式では、ユーザーがWebページ上の通話ボタンをクリックするとActiveXもしくはJava版のソフトフォンがダウンロードされて、直接ユーザーと企業をIP電話で結ぶ。通話はBIZTELサーバを介した内線環境下で行われるため、ユーザーと企業のどちらにも通話料は発生しない。ただし、ユーザーがヘッドセットを持っていないとこの方法は使えない。一方、コールバック方式では、ユーザーがWebページのフォームに自分の電話番号(固定・携帯)を入力すると、BIZTELサーバからユーザーにコールバックして、着信した時点で企業の端末に回線をつなぐかたちになる。こちらではBIZTELサーバからユーザーまでの通話料が発生するが、発信者側がIP電話なので通常の電話料金よりも安価なIP電話料金で済む。

 従来のヘルプデスクへの問い合わせは、自動音声のガイダンスを経由しないと担当部署につながらなかったり、つながるまでに長い時間待たされたりとユーザー側の負担が大きいが、Webページを介して直接IP電話回線をつなぐことでユーザーの負担を減らし、満足度を向上させることができるという。

Namazuベースの検索アプライアンス

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Kabayaki BOX for DELL PowerEdge(クリックで拡大)

 次に紹介するのは、タイムインターメディアが今月5日に発売したばかりの新製品「Kabayaki BOX for DELL PowerEdge」(写真2)。オープンソースのNamazuをベースとする全文検索エンジン「Kabayaki Enterprise」をDellのPowerEdgeサーバにプレインストールした検索アプライアンスだ。ファイルサーバ機能とWebスパイダー機能を備えており、社内文書や社内Webサイトの検索システムを簡単に導入できるという。シソーラス(同義語)辞書を標準搭載することで、キーワードのゆらぎを許容する“あいまい検索”に対応し、ログ分析機能で使用されたキーワードのランキングや割合を調べることも可能だ。このログ分析機能の情報は、社内Webサイトやファイルサーバのディレクトリのレイアウトを最適化して、アクセシビリティを向上させるような場合に大いに役立つだろう。サーバは、タワータイプのPowerEdge 1900とラックタイプのPowerEdge 1950から選べ、OSにはRed Hat Enterprise Linux ES 4(3年間のサブスクリプション付き)が採用されている。

 もっとも、「アプライアンスだから導入しやすい」という点には疑問を感じないわけではない。ファイアウォールや侵入防止システムなどのセキュリティアプライアンスには設置するだけで機能するものが少なくないが、社内文書などを扱う検索アプライアンスの場合は事情が異なるからだ。例えば、既存のファイルサーバ内の社内文書を検索できるようにするには、ファイルサーバからKabayaki BOXにファイルを移すか、ファイルサーバをWeb経由でアクセスできるようにする必要がある。安価なPCサーバで適当にセットアップしたファイルサーバを使っているようなところは全面的にKabayaki BOXに乗り換えてしまうというのもアリだが、NAS製品にすでに投資しているようなところは導入しにくいかもしれない。また、グループウェアを導入している場合も、何らかのコネクタが必要になるだろう。

 タイムインターメディアでは、カスタマイズやコンサルティングといったサービスも提供しているので、既存環境との統合についてはそれらのサービスを利用することで対処できるが、セキュリティアプライアンスのような手軽さは期待しないほうがいいだろう(実際はセキュリティアプライアンスでも導入前に既存環境との整合性について十分に考慮する必要はあるが)。

PCIデバイスをネットワーク経由で利用

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写真3:ExpEtherのデモ。左のサーバと右の透明ケース内のグラフィックカードが10G Etherで接続されている(クリックで拡大)

 最後はNECが参考出品していたマルチレイヤ仮想化技術を紹介しよう。PCI-Expressの信号をEthernet経由で伝達するExpEther(エクスプレスイーサ)技術を使った提案で、これを使うとPCIデバイスをコンピュータの筐体外に設置することが可能になる。これにより、電力と発熱の集中を防止することができるほか、Etherスイッチを介して複数台のサーバと複数のPCIデバイスを接続できるため、システムのデバイス構成を柔軟に変更できるようになるという。写真3は、ExpEtherで接続したグラフィックカードでも、遅延なく画面の描画ができるというデモの様子である。

 ここまではオープンソースとは関係ないのだが、ExpEtherを使った展示はもう1つあり、こちらがオープンソースに関係している。その内容は、ExpEtherをオープンソースの仮想マシンモニタのXenと組み合わせて、サービスを稼働させたままシステム構成をアップグレード可能にするというもの。もともとXenは仮想マシンを稼働させたまま物理サーバ間で移動させるライブマイグレーション機能を備えているため、Xenだけでもサーバのアップグレードは可能である。だが、サーバにI/Oボードやアクセラレータなどを直接追加している場合、移行先のサーバにもそれらの拡張カードを追加し、セットアップしておかなければならない。そこで、ExpEtherで拡張カードをあらかじめ筐体外に設置しておき、XenによるライブマイグレーションとExpEtherによるサーバ/PCIデバイス間の切り替えを同時に行うことで、必要なI/Oを保ったままでの仮想マシンの移動が可能になるという。

 ちなみにXenに詳しい方はご存じかもしれないが、XenのI/O仮想化はまだ性能や機能面で成熟しているとは言い難い状況にある(XenのI/O仮想化の改善は、Intel VT-dなどの第2世代のハードウェア仮想化技術を活用するかたちで行われる予定)。そこでNECでは、ExpEtherとの連携を可能にするために、I/O処理を細かく制御できるようにXenに独自の改良を加えているそうだ。

 以上、本稿ではInterop Tokyo 2007で見かけたオープンソース関連の展示を紹介した。オープンソースがあまり目立ってなかったと書いたが、その背景には、SaaS/ASP型のサービスの台頭や、製品とサービスを一体化したソリューションビジネスの一般化もあるのだろう。また、オープンソースが目新しいキーワードでなくなったということもあると思う。なにしろMicrosoftがソフトウェアをオープンソース化する時代である。よほどのことがないかぎり、単にオープンソースというだけでトップニュースにはならない。OTP的にはあまり面白くない展開だが、それだけオープンソースが市場に浸透し、抵抗なく受け入れられるようになったことの現れとして納得することにしたい。