リポート:東京レッドハット會議――OSベンダーからプラットフォームベンダーへ

 レッドハットは4月18日、六本木アカデミーヒルズにおいて同社のプライベートイベント「東京レッドハット會議」を開催した。ここでは、同イベントの基調講演で米Red HatのTimothy Yeaton氏(Enterprise Solutions, Worldwide Marketing & General Manger, Senior Vice President)が明らかにしたRed Hatの戦略についてリポートする。

 このイベントの主役は、米国で3月14日に発表されたRed Hat Enterprise Linux 5(RHEL5)だ。すでに日本でもRHEL5の出荷は開始されているが、正式なお披露目は今回が初めてとなる。

 Yeaton氏による「Open Source Innovation:企業のためのオープンソースプラットフォーム」と題された基調講演では、市場の動向とそれに対応するためにRed Hatが取った戦略について説明がなされた。同氏によるとRed Hatの戦略は、大きく分けて以下の3つに集約されるという。

  • Open Souce Architecture(オープンソース・アーキテクチャ)
  • Customer Experience(顧客体験の向上)
  • Partner Federation(パートナーとの連携強化)

 以下、それぞれの内容を紹介する。

Open Souce Architecture

 Open Souce ArchitectureはRed Hatが4年前から掲げている戦略で、より稼働率が高く、より低コストで、より柔軟性のあるシステムをオープンソース・ソフトウェアで実現可能にするという戦略だ。ただし、コンセプト的には変化が生じていて、最初は1つのOSの環境を想定した戦略だったが、現在では仮想化されたプラットフォーム全体を想定したものになっているという。それを支える基盤となるのが、最新のRHEL5だ。

Yeaton_small.jpg
米Red HatのTimothy Yeaton氏

 ハイパーバイザのXenに注目が集まりがちなRHEL5だが、ここで言う仮想化にはOpenAISを基盤とするRed Hat Cluster Suiteによるクラスタ化やクラスタファイルシステムのGFS(Global File System)によるストレージの仮想化といった広範囲な技術が含まれる。Cluster SuiteやGFSを使ってクラスタを構成することで、多数のサーバを1つのアプリケーション・プラットフォームとして利用することが可能になる。これにより、可用性も向上するし、管理も容易になるという。そして、クラスタで集約したリソースをXenで仮想サーバに配分することで、過剰な投資を抑え、稼働率を向上させることができる。なお、XenはスタンダードなRHEL5で利用できるが、Cluster SuiteやGFSを利用するには、上位版の「RHEL5 Advanced Platform」が必要になる。

 このOpen Souce Architectureの普及を促進するために、Red HatはRHEL5を核とするソリューション製品「Red Hat Solution」も提供する。これは、RHEL5のサブスクリプション・ライセンスとサービス、サポート、トレーニングをセットにした特定分野向けのパック製品で、これを利用することで、顧客はOpen Souce Architectureのベストプラクティスを短期間かつ低コストで導入することができるという。なお、Yeaton氏はデータセンター向けの「Datacenter Solution」、高可用性データベース・システム向けの「Database Availability Solution」、グリッド技術を使ったハイパフォーマンス・コンピューティング分野向けの「HPC Solution」の3つソリューションを紹介したが、日本のレッドハットのプレスリリースに「Database Availability Solution」の記載はなく、当面は「Datacenter Solution」と「HPC Solution」のみが提供されるようだ。

Customer Experience

 顧客体験を向上するための取り組みとしては、まず、SLA(Service Level Agreement)の簡略化が紹介された。「ソフトウェア業界では、複雑で何ページにも渡るSLAを顧客に押し付けておき、やっかいなトラブルが発生したらSLAを盾にして対応しないということがある。これはこの業界の問題だ。そこで、RHEL5では従来9ページあったSLAを1ページに短縮した。法的な難しい用語も使っていない。誰でも理解できるはずだ」(Yeaton氏)。

 もう1つの取り組みとして紹介された「Red Hat Cooperative Resolution Center」は、RHEL上で動作するサードパーティ製ソフトウェアの相互接続性を改善するための検証センターだ。顧客が相互接続性の問題に悩まされることがなくなるよう、パートナー企業と協力して問題の解決に当たっていくという。

Partner Federation

 パートナーの連携強化の取り組みとしては、「Red Hat Exchange」が紹介された。これは、オープンソースのエンタープライズ・アプリケーションの市場拡大を促進するためのサービスで、パートナー企業のオープンソース・アプリケーションをRed Hatが動作検証を行い、販売するというもの。サポートもRed Hatが窓口となって提供する。パートナー企業はRed Hatのブランド力とチャネルを使って自社製品の市場を拡大し、セールスおよびサポートのコストを低減することができる。すでに、MySQLやSugarCRM、JasperSoftなど、13社がRed Hat Exchangeへの参加を表明しており、参加企業は今後も増やしていくという。

 以上、基調講演で説明されたRed Hatの戦略を紹介したが、そこからはRed Hatがプロプライエタリ・ソフトウェアと一定の距離を置き、オープンソース・ベンダーとしてその原点に戻りつつあるという印象を受けた。例えば、Open Source Architechtureの説明には「Veritas Storage SuiteをGFSで、WebSphereやWebLogicをJBossで置き換えることで高い費用対効果が得られる」という特定のプロプライエタリ製品をターゲットにした図が添えられているし、Red Hat Exchangeは、パートナー企業の中でオープンソース・ベンダーだけを優遇する措置だ。こうした変化は、Xen、Cluster Suite、GFSとRHELとの統合、JBossの買収などによって、プロプライエタリ・ソフトウェアに頼らずとも十分なアプリケーション基盤を提供できるというRed Hatの自信の現れとも言えそうだ。