開発者とユーザをつなぐKDEのCommunity Working Group
KDE 4が散々な評価を受けた(翻訳記事)ことでKDEプロジェクトが得た教訓の1つが、ユーザの声をもっとよく聞く必要があるということだった。その具体策の1つとして、先日終了したKDEの年次コンファレンスAkademyで発表されたのが、Community Working Group(CWG)の新設だ。発表によると、CWGの目的は、「ユーザのニーズを開発者に伝えたり、開発者の意向や計画をユーザに伝えたりなど、ユーザと開発者の意思疎通を集約する」ことだという。設立作業が進められているCWGの今後の見通しについて、CWGの初期メンバ5人の中から、Anne Wilson氏とJuan Carlos Torres氏に話を聞いた。
Wilson氏は、さまざまな電子会議室でKDEについての質問に回答を寄せていることでよく知られている。同氏によると、ユーザとの意志疎通を向上させる必要があることは、KDEではしばらく前から認識していたという。「現在のドキュメンテーションのシステムが十分と言えないことは、ユーザや開発者を含めて、皆が認めていました。現在のドキュメンテーションをけなしているわけではありませんが、一般ユーザがアプリケーションを広く利用し始める前に書かれ、ユーザが経験した問題点や懸念についてのフィードバックが反映されていないのは確かです」。
「今年の春に起きたKDE 4をめぐる騒ぎは、我慢の限界を超えるきっかけとなりました。ユーザ本位のリソースが足りないことを、我々はずっと前から認識していました。KDE 3の場合は、登場から長い年月が経っていたため、たとえ問題が生じても、その回答やヒントを誰かから提示してもらえるのが普通でした。しかしKDE 4の登場で、その状況が一変したのです」。
「KDE 4を初めて目にしたとき、私は完全に当惑し、これは多くのユーザの落胆や失望を招くと思いました。そのころメーリングリストに流れるメールの中には、批判的という域を超えて、辛辣でどぎつい意見も見受けられました」。
「KDE 4.0を実際に目にする前にユーザが得ていた情報は、メディアが新機能をレビューした記事や、熱心なアーリー・アダプターが寄せた感想でした。そこで、新バージョンへの期待が高まり、バラ色の想像があまりに大きく膨らんでしまったのです」。
一方、この状況は、開発者にとっても不本意だった。「開発者たちは動揺を受けました。4.0は開発版のリリースだということを明確に知らせたつもりだったのに、ユーザにはきちんと伝わっていなかったのです」。
「この状況でもう1つ浮き彫りになったのは、開発者とユーザの間のコミュニケーションがほとんど欠落していることです。その前の段階でも、うすうす感じ始めていたことでしたが」。そして、両者の隔たりを埋めることがCWGの目標だという。
CWGの今後の予定
CWGは立ち上がったばかりのため、まだホームページはない。だが、wikiを利用したUserbaseの構築は既に始まっている。Userbaseとは、KDEの開発者向けのTechbaseと同じようなものだ。Techbaseは、KDEプロジェクトへの参加を希望する開発者にさまざまな情報を一括して提供している。それと同じく、Userbaseは、デスクトップ環境としてKDEを利用するユーザにさまざまな情報を提供するサイトになる見通しだ。
#kdeチャネルでおなじみのTorres氏はこう話す。「基本的には、KDEユーザのリソースを集約して整理し、KDEに関する情報を包括的に取りまとめた拠点を作れればと思っています。この結果、ドキュメンテーション、ローカリゼーション、支援、広報宣伝など、複数の分野でコラボレーションや相乗効果が生まれれば、願ってもないことです」。
Wilson氏によると、Userbaseの目的は、詳細な情報が盛り込まれた既存の技術的なチュートリアルや記事を焼き直すことではなく、メーリングリストや電子会議室でたびたび目にする疑問や懸念を解決できるような素材を取り揃えることだという。「それともう1つ、広報宣伝の支援にもなればと期待しています。重要な情報がユーザのメーリングリストできちんと広まるようにして、先般のような誤解が生じないようにしたいということです」。
さらにCWGは、開発者向けの活動への展望も抱いている。「KDE 4プロジェクトでは、新しい開発者が大勢加わりました。一方で、定評ある古株の開発者の中には、燃え尽きが見られる人もいます。また、これだけの規模や多様さがあるコミュニティでは致し方ないことながら、コミュニケーションが決定的にこじれてしまい、仲裁が必要になることもあります。CWGは、当事者からの要求に応じて、そうした状況にも対応します」。
Wilson氏によると、CWGでの職務の進め方については、「あえて緩やかに規定している」とのことだ。「ユーザが問題を抱えている場合には積極的に関与しますが、多くの部分については、静観のうえで対応要求が上がって来るのを待つというスタンスを取ることになりそうです。ユーザが抱く問題や不安、懸念などを拾い上げ、特によく目にするものについて、やさしく解決できる方法を提示していくつもりです。肝心なのは、ユーザが簡単に情報を見つけられるようにしつつ、開発者の負担は増やさないという点です。同じ問題で開発者がたびたび苦労させられる必要がなくなります」。
Torres氏によると、CWGにとって最大の役割は、KDEの成長をうまく制御することかもしれないという。「KDEはさらなる拡大を続けており、携帯型ネット端末などの新分野を開拓する中で、利用者もいっそう増えています。そしてもちろん、コミュニティの規模も大きくなり、多様性も増しつつあります。KDEをこの流れにうまく乗せ、コミュニティのメンバが誰も取り残されないようにすることがCWGの願いです」。
Wilson氏は、CWGがKDEコミュニティの構成要素として受け入れられるまでには多少の時間がかかると覚悟している。CWGの活動内容には「画期的なものは特にない」からだ。だが、いずれはすべての人の役に立つ存在になれればと考えている。
「CWGは役立つリソースだと開発者に認めてもらえるようになれたらうれしいと思っています。ユーザは我々の存在をまったく意識しないでしょうが、我々が提供したものを有益だと思ってくれるはずです」とWilson氏は話す。
Torres氏も、CWGの今後についてはWilson氏と同じく控えめだ。「CWGがこれからどうなっていくのか予測はできませんし、KDEの一部として認めてもらえるのかどうかもわかりません。そして、それがいつになるのかはさほど重要ではありません。CWGは、本来の目的である活動、つまりコミュニティの支援を、粛々と続けていくつもりです」。
Bruce Byfield コンピューター・ジャーナリスト。Linux.comに多く寄稿している。