PostPath:ExchangeプロトコルをクラッキングしたPostfixメールサーバ

 PostPathはMicrosoft Exchangeの代替ソフトウェアとして気軽に使える企業向けメールサーバであり、そのベースになっているのはオープンソースのメール転送エージェント(MTA:Mail Transfer Agent)Postfixだ。PostPath社のプロダクト管理マネージャSina Miri氏によると、PostPathはExchangeを簡単に置き換えられる「唯一」の製品であり、オープンソースから生まれたソフトウェアであるにもかかわらず、同社がこの製品をプロプライエタリなライセンスでしか提供していないのはそのためだという。

 Miri氏がPostPath社の技術者たちに命じたのは、Exchangeに匹敵するメールサーバ、しかもExchangeより低コストで柔軟性が高く、Linuxサーバ上で実行できるものを開発することだった。そのうえ、PostPathにはMicrosoft Exchangeとの互換性が求められた。これは、一切のプラグインやアドオンを使わず、またプロトコルの書き直しをせずに、PostPathがExchangeネットワークで動作しなければならないことを意味していた。こうした目標はPostfixをベースにしてPostPathを構築することで達成された、とMiri氏は話す。Postfixは、Wietse Venema氏によって開発された定評のあるMTAであり、IBM Public License(IPL)の下で配布されている。だが、目標の達成には追加の開発も不可欠だったという。

 PostPathの開発で最大の目玉となったのが互換性コンポーネントだ。これについて、Miri氏は次のように語る。「PostPathを利用するのにプラグインやミドルウェアは一切必要ない。PostPathを導入するだけで、ネットワーク側はこれをExchangeサーバと見なしてやりとりをしてくれる。そのおかげで、評価するのも購入して移行するのもきわめて簡単だ。Exchange 2003からの移行はPostPathのほうがExchange 2007よりもずっと容易だし、まったくの新規インストールと同じように明快に行える」。確かに、Exchange 2003から2007への移行は「複数のフェーズに分けて」行う、とMicrosoftのサイトには記されている。一方、PostPathが優れているのは、Exchange自身のプロトコルを使って同じネットワーク上にあるほかのExchangeサーバとの間でも完全な互換性を実現する点だ。そのため、Microsoftのサポートに不満を感じているExchange 5.5または2003ユーザは、代わりのメールサーバ・インフラストラクチャに気兼ねなく乗り換えることができる。

 Gartner社のアナリスト、Matt Cain氏によると、PostPathは間違いなくExchangeネットワークに浸透しているという。「PostPathはActive Directoryとの相性も悪くない。これは真っ先に気になる点の1つだ。PostPathへの移行(の容易さ)についてはよくわからないが、Exchange 2003から2007への移行がかなり難しいことは確かなようだ。だから(PostPathによって)移行を簡単にするのはそれほど難しいことではないだろう」

 しかし、PostPathがどのようにしてMicrosoftのプロトコルのロック解除を果たせたのかは謎のままである。というのも、PostPathはプロプライエタリ製品だからだ。「それを明かせば、PostPathの価値の多くが失われてしまう」(Miri氏)

 Postfixの作者であるVenoma氏は、オープンソースの成果物がプロプライエタリな製品で自由に利用されることについて何の懸念も示していない。「彼らはオープンソースのコードを自分たちのソースコードで好きなように利用できる」。なお、Postfixをはじめとするオープンソースのコードに対するPostPathの修正コードは、きちんと同社のWebサイトから無償でダウンロードできるようになっている。

 自社のプロトコルがPostPathによってリバースエンジニアリングされたことを問題視するMicrosoft側の意思表示は受けていない、とMiri氏は話している。Microsoftの関係者は、この点についてコメントを避けている。PostPath側は、以前Microsoftで働いていた者を決して採用しないように特に注意を払っている。「だから、Microsoftのプロトコルに関する情報を我々が不正に手に入れたと思われる危険性はない」

 PostPathのベースをオープンソースにしたことは当社にとって正解だった、とMiri氏は語る。「オープンソースのツールを利用すれば、商用製品よりも良好なサポートが得られる。何らかの問題や疑問が生じた場合、商用製品よりもオープンソースを使っているほうがずっと短時間でより多くの情報が手に入るからだ。Microsoftほどの大企業でも、こうした(オープンソース製品の)サービスやサポートに対抗するのは難しいのではないだろうか」

Tina Gaspersonは権威ある業界誌のいくつかで記事を執筆している。1998年からフリーランスのライターとして活躍中。

Linux.com 原文