USBフラッシュメモリ用Linuxディストリビューションの比較

 最近のASUS Eee PCの人気を見れば分かるとおり、フラッシュメモリ上でLinuxを利用することは今や消費者市場でのビジネス的にも現実的なことになっている。ところでEee PCを持っていなくても、ごく普通のUSBフラッシュメモリからLinuxだけではなくデータも含めて利用することは可能で、しかもフラッシュメモリから利用可能なLinuxディストリビューションは複数存在するということはご存じだろうか。本稿ではそのようなディストリビューションのいくつかを比較してみた。

 Linuxディストリビューションの中には、Mandriva Flashなどのようにはじめから特にUSBフラッシュメモリでの使用に向くように作成されたものもある。また、USBフラッシュメモリにインストールするためのインストーラが用意されているものもあれば、いくらか簡単な変更を加えることで強制的にUSBフラッシュメモリにインストールすることができるというものもある。今回は、DSL(Damn Small Linux)、Puppy Linux、Pendrivelinux、Ubuntu、Mandriva Flashの5つのディストリビューションをUSBフラッシュメモリへのインストール/利用という観点から評価してみた。

 今回試した5つのディストリビューションの中ではUbuntuのみ、USBフラッシュメモリから利用するための標準的な方法が特に用意されていなかった。一方PendrivelinuxとMandriva FlashはUSBフラッシュメモリ専用のディストリビューションだ。これら5つのLinuxディストリビューションは、容量が100MB以下の小型ディストリビューション(DSLとPuppy Linux)と、フル装備のディストリビューション(Mandriva、Pendrivelinux、Ubuntu)の2種類に大別することができる。

スモール・イズ・ビューティフル

 DSLとPuppy Linuxはどちらも小型のディストリビューションで、大掛かりなシステム要求はない。DSLは、RAMがたった16MBの486DXマシンでも利用することができる。ただしUSBデバイスからブートすることが可能な486DXマシンを見つけること自体が難しいように思われるので、この利点にどれほどの価値があるのかはよく分からない。DSLとPuppy Linuxはどちらも、小型だが柔軟なブート/インストール・オプションを提供する多目的なディストリビューションになることを目指している。なおどちらもOSとアプリケーションをすべてRAMに読み込むため高速だ。

 DSLは50MBのディストリビューションで、最初のブートはライブCDから行なう。一度ブートすれば、インストール用アプリケーションのPendrive(Apps→Tools→USB-HDD Pendrive)を使用してUSBフラッシュメモリにインストールすることができる。Pendriveはテキストベースのインストーラで、コマンド用ウィンドウで実行される。試したところ、USBフラッシュメモリの検知もインストールもまったく問題なく行うことができた。

 DSLは復旧用ツールとしても便利で、壊れたマシンをブートして貴重なデータをコピーしたりするためにも利用することができる。軽量なJWMウィンドウマネージャを使用していて、「スタート」ボタン(DSLでは「DSL」ボタン)に慣れているユーザも簡単に使い始めることができるはずだ。豊富な機能の装備を目指しているため、音楽プレイヤ、複数のウェブブラウザ、ワードプロセッサ、スプレッドシートなど、標準的なタイプのアプリケーションが数多く揃っている。Firefox以外はどれも(特定の目的のためだけの)小型のアプリケーションなのだが、myDSL Extension Browserを使用してDSLを拡張することもできる。またコミュニティレポジトリにあるパッケージを利用すれば、OpenOffice.orgなど、より多くの定番ソフトウェアを追加することもできる。DSLはこのように試してみる分には驚異的と言った感じであり、また拡張することも可能なのだが、日常的に使用する本格的なポータブルデスクトップとしては他と比べて最高の選択肢というわけではないと感じた。

 DSLと同様にPuppy Linuxも100MBを切る小型のディストリビューションで、やはり一番最初はライブCDからブートする。CDをブートした後は、OSとファイルシステムがすべてRAM内に読み込まれる。つまりPuppyでもファイルは毎回CDから読み込まれるわけではない。USBフラッシュメモリにインストールするには、Puppy Universal Installerを利用する。Puppy Universal Installerは、パーティションに分割されていなかったり、ブートフラグが誤っていたりするものも含めて、ほぼあらゆるUSBフラッシュメモリを扱うことができる。ただしインストール手順がかなり複雑になることがあるという難点がある。Puppy Universal Installerでは作業内容がかなり分かりやすくなっているのだが、それでもディスクやパーティションを調整する必要がある際には、それらについてあらかじめ知識を持っている必要があるだろう。例えばパーティションのフラグが間違っている場合、問題が自動的に修正されるわけではなくGPartedが起動されるので、ユーザが自分で修正する必要がある。

 最近リリースされたバージョン4.0はこれまでの版よりも大きく向上していて、ワードプロセッサのAbiWord 2.4.6、スプレッドシートのGnumeric 1.7.13、電子メールクライアントのSylpheed 2.4.7、ウェブブラウザを含む統合インターネットアプリケーションのMozilla SeaMonkey 1.1.8などをJWMウィンドウマネージャ上で使用することができる。またPETgetというパッケージマネージャがあって、Puppyの公式レポジトリに自動的に接続して追加のソフトウェアをインストールすることができる。OpenOffice.orgは現在のところは4.0のレポジトリでは提供されていないのだが、バージョン3.0のレポジトリからインストールすることができた。

 Puppy Linuxで問題になるかもしれないこととして、データが直ちにフラッシュメモリに保存されるとは限らないという点がある。作成/編集したファイルは作業中にはメモリに保存されていて、メモリの内容がフラッシュメモリに書き込まれるのは、定期的に行われる書き込みの際か、シャットダウン作業の際かのどちらかになる。ただしデスクトップ上にあるSave(保存)ボタンを利用すれば、フラッシュメモリへの書き込みを強制的に行うこともできる。しかしこのように保存が間隔を空けて行われるため、タイミングによってはファイルの内容が失われる恐れがある。

Pendrivelinux

 PendrivelinuxはUSBフラッシュメモリ用のディストリビューションだが、プロジェクトのウェブサイトは、フラッシュメモリ上でのLinuxの利用についての記事や情報を満載した総合的な情報源にもなっている。

 Pendrivelinuxのウェブサイトには、PendrivelinuxをLinuxからインストールする方法についてとWindowsからインストールする方法についての記事が用意されている。PendrivelinuxはライブCDとしてはリリースされていない。インストールするにはWindowsかLinuxが利用可能な状態である必要がある。インストールするには、.zipファイルをダウンロードして、(Windows用に提供されているバッチファイルを使用するか、Linux上でsyslinuxを使用して)USBフラッシュメモリをブート可能な状態にする必要がある。今回はまずLinuxからのインストールを試してみたのだが、ブートすることができなかったので、Windowsからのインストールに変更したところうまく行った。ただし小さな問題点が一つあって、Vistaを使っていたのだが、USBフラッシュメモリをブート可能にするためのバッチファイルをAdministratorアカウントで実行する必要があった。Administrator権限を持っていても普通のアカウントではバッチファイルを実行しても正常に機能しなかった。

 Pendrivelinuxには非常に多くのものが含まれている。.zipファイルはちょうど500MBを切る大きさで、フル装備のKDEデスクトップなど人気のあるLinuxプログラムが数多く含まれている。MCNLiveの開発者たちの協力によりMandriva 2007.1をベースとしていて、(256MBのループバックファイルを利用して)再起動後にも変更内容が保存されている。また、KDE 3.5.6、Firefox 2.0.0.3が含まれている。OpenOffice.orgは含まれていなかったが、その代わりとしてKOfficeが含まれていた。さらに3Dデスクトップ効果がサポートされていて、数回クリックするだけで、仮想デスクトップの3Dの立方体の表示や、はためくウィンドウや透過などを楽しむことができる。

 KOfficeではよく使われているMicrosoftとOpenOffice.orgのファイル形式のインポート/エクスポートに限界があるため、OpenOffice.orgが含まれていないという点がネックになることがあるかもしれないが、その点を除けば、Pendrivelinuxは日常的な使用にも適している優れたUSBフラッシュメモリ用Linuxディストリビューションだと言えるだろう。

Ubuntu

 UbuntuにはUSBフラッシュメモリ上にインストールするための手軽な方法は用意されていないが、Pendrivelinuxのウェブサイトで、UbuntuをUSBフラッシュメモリに詰め込む方法を説明した記事が提供されている。手順はかなり複雑で、21ステップを行う必要がある。作業ではsyslinux、mkfs.ext2、apt-getといったコマンドラインツールを使用しなければならないため、初心者向きではないだろう。とは言え、そのようなコマンドを使うことに不安を感じないユーザであれば試してみる価値はある。

 インストールが完了すれば、通常のUbuntuシステムをフルに使用することができるようになる。フラッシュメモリのうちの750MBをOSが使用するので、その残りをユーザのファイルや文書のために使用することになる。Ubuntuであることに変わりはないので、GNOME、OpenOffice.Org、Firefoxなどの最新版を含む多様なソフトウェアを使用することができる。

 Ubuntuをフラッシュメモリ上で使うことには難点が一つある。それは特に技術的な問題というわけではなくて、(Ubuntuはフラッシュメモリ上で使用するためのディストリビューションではないということから)使用している際に常に不安を感じるという点だ。しかもしばらく使用した後、その不安は現実のものとなってしまった。あるとき、特に明らかな理由はないのにも関わらずフラッシュメモリからブートすることができなくなったので、OSを再インストールせざるを得なくなってしまった。再インストール後はまったく問題はなくなったように思えたのだが、その後GNOMEの起動に問題が出るようになり、いくつかのファイルに書き込みを行うことができないというエラーメッセージが表示され続けた。私の場合はその時点でUbuntuをフラッシュメモリ上で使うことはあきらめてしまった。

 このことはUbuntuに対する非難ではなくて、複雑なソフトウェアを当初の目的以外の場所に押し込めようとする試みが危険なことになり得るという警告として受け取ってもらえればと思う。

Mandriva Flash

 Mandriva Flashは、USBフラッシュメモリから実行することのできる優れたLinuxディストリビューションで、Mandriva Linux Oneの特化型バージョンとしてMandrivaから販売されている。ただし有料だという難点がある。69ドル(59ユーロ)を支払わなくてはならないが、それと引き換えに、4GBのUSBフラッシュメモリ、Mandrivaによるサポート1ヶ月分、送料無料、フラッシュメモリを事故などで破損した万一の場合のレスキューCDも手に入れることができる。

 Mandriva Flashは、USBフラッシュメモリ上にインストールすることのできるフル装備のLinuxデスクトップで、KDE 3.5.7、OpenOffice.org 2.2.1、Firefox 2.0.0.8、Skype、Java 6などが含まれている。Pendrivelinuxと同様に迫力ある3Dデスクトップを利用することもできる。またWindowsの文書や設定をインポートするのに役立つツールもある。パッケージ管理には通常のMandrivaと同じRPM形式を使用しているので、追加可能な数多くのパッケージをインターネット上で見つけることができる。

 Mandriva Flashは、特にLinuxに慣れたユーザであれば簡単に使うことができるだろう。試してみたところ、Google PicasaのLinux版のダウンロードもインストールもまったく問題なく行うことができた。その後デジタルカメラを接続して、写真をすべてインポートすることもできた。

 Mandriva Flashには独特な点があって、便利なことにUSBフラッシュメモリをWindowsマシンに挿入した場合、すべての文書をWindowsからも利用することができるようになる。Mandrivaではフラッシュメモリはこのように使われるので、Windowsの利用時にフラッシュメモリにコピーしたものも同様に、次回Linuxをブートしたときにすべて利用することができる。なお初回のブートの際に、システムファイル用とユーザファイル用にそれぞれ割り当てる容量を選択することができる。

 OpenOffice.orgなど欠かすことのできないソフトウェアが含まれていることもあって、Mandriva FlashはLinuxをUSBフラッシュメモリから利用する場合の最有力候補だと言って良いだろう。Mandriva Flashがあれば、OSとデータをどこにでも持ち歩くことができる。

まとめ

 2つの小型ディストリビューションのうちでは、整然としたユーザインターフェースと簡単なインストール手順という点において、DSLの方が便利だと感じた。一方、USBフラッシュメモリ上でもフル装備のLinuxデスクトップを使用したいという場合には、Mandriva Flashが圧倒的な勝者だ。しかし有料であるという点が障害になる場合には、Pendrivelinuxを試してみると良いだろう。

Gary Simsはイギリスの大学でビジネス情報システムの学位を取得し、ソフトウェアエンジニアとしての経験が10年ある。現在はフリーランスのLinuxライター/コンサルタント。

Linux.com 原文