ソフトウェア企業“買収攻勢”のねらいはこれだ!――IBMソフトウェア戦略担当ディレクターが語る、M&Aラッシュの背景と真実

 米国IBMにとって、2007年は企業買収に明け暮れた年だった――米国Watchfireを6月に買収したのを皮切りに、7月にはカナダのData-Mirrorを、翌8月には米国Princeton Softechを買収、さらに今月(11月)に入ってからはカナダのCognosの買収を発表して業界に衝撃を与えた。そこで、Computerworld米国版では、こうした一連の企業買収の陣頭指揮を執ったIBMのベンチャー・キャピタル部門ソフトウェア戦略担当ディレクター、デボラ・マジッド(Deborah Magid)氏にインタビューを行い、M&A攻勢のねらいについて聞いた。

Thomas Hoffman
Computerworld米国版

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――IBMは、どういった哲学でM&Aに臨んでいるのか。

Magid氏:当社では、M&Aをソフトウェア戦略の一環ととらえている。ソフトウェア事業を製品全体あるいは製品一式であると考えた場合、われわれはまず顧客のニーズを把握したうえで、現在のIBMにはどういった製品があり、どういった製品が欠けているのかの検証を行う。そして、欠けているものがわかった時点で、その製品/機能を自社開発したほうがいいのか、あるいはどこかを買収することによって手に入れたほうがいいのかを検討することになるわけだ。

 買収するのは、ほとんどがその時点で当社と提携している企業だが、それというのも、提携相手であれば、企業や製品の内容があらかじめよくわかっているからだ。

――提携から買収へと関係が発展していく背景を教えていただきたい。

Magid氏:大抵は(IBMの)パートナー・プログラムを通じて関係が生じる。だが、企業は常に進化するものだ。当社と相手企業とのパートナーシップが時間の経過とともに進化すれば、ある時点でパートナーシップを結んでいるよりもその企業を買収したほうが理にかなっていると思われるときがくることがあるのだ。

――ソフトウェア分野における買収戦略で、IBMと競合ベンダーとにはどこか異なるところがあるのか。

Magid氏:海外の小さな企業から当社自身の研究所に至るまで、イノベーションが生じているところであれば、世界中のありとあらゆる企業/場所に目をつけているという点が、当社が他社と異なっているところだろう。実際、これまで傘下に組み入れた小規模企業の買収総額は、すでに10億ドルを上回っている。

 当社は起業家や投資家とも密接な関係を築いており、彼らから市場に先んじて、有望な新興企業や技術革新に関する情報を入手することができる。そのため、有望な買収候補先企業について社内のビジネス・リーダーにアドバイスすることができるという点も、他社にはまねのできないところだろう。

――最近IBMが買収した企業の得意分野は、Webアプリケーション・セキュリティ、データ管理、データ・キャプチャ、Webコンファレンシングなど多岐にわたっているが、こうした技術/製品はIBMの製品戦略にどう取り込まれていくことになるのか。

Magid氏:そうした機能は、すべて当社が製品に取り入れようと考えていたものだ。

 例えば、データ管理事業を見てみよう。当社を含む業界全体にとって、これまで「情報管理」と言えば、データをどのように保管し、どのように取り出すかということ、つまり「データベース」の機能を指していた。ところが、今や情報管理と言えば、いかにデータ・マイニングし、分析し、それをビジネスに活用するかということを指すようになった。こうした流れの中で、2000年当時はストレージ・ベースのビジネスだけを展開していたPrinceton Softechのようなベンダーも、当社と同じデータ・ガバナンスの方向に移行してきた(ため、その機能をIBMの製品に取り入れることを考えるようになった)のだ。

――現在、IBMのソフトウェア部門にとって最もホットなのはどの分野か。

Magid氏:第1に挙げられるのは「セキュリティ」だが、これは、今に限らず以前から常に注目している分野だ。Watchfireを買収した理由の1つも、セキュリティ市場の変化にあった。数年前のセキュリティ市場では、アクセス制御とアクセス認証が課題になっていたが、現在はアプリケーションとデータ自体のセキュリティの確保にスポットが当たっている。いずれにしろ、セキュリティは間違いなくホットな市場だと言える。

 また、「情報管理」も、顧客にとっては引き続き重要な分野だ。特に、エンタープライズ・サーチと分析論の分野では、多くの興味深い動きが生じている。

――あなたが最近訪れた国の中で、有望な新興技術が多く育っているのはどこか。

Magid氏:最近はアイルランドでの仕事が増えている。アイルランド政府の産業開発庁は、海外からビジネスを誘致するだけでなく新興事業の開拓にも力を入れている。その一環として、例えば、首都ダブリン近辺の新興企業やソフトウェア企業、あるいはガルウェイ近辺のバイオテクノロジー企業などに事業資金が供与されているようだ。

 今年の8月にも、当社のソフトウェア部門の責任者を務めているスティーブ・ミルズ(Steve Mills)とアイルランドを訪れてきたところだ。

――そのほかで注目している地域は?

Magid氏:東欧には高い技術力があり、起業家精神も旺盛だ。なかでも、エストニア、スロベニア、ハンガリー、チェコ共和国に注目している。

 それと、南アフリカにも興味がある。過去18カ月間、未公開株投資とベンチャー・キャピタル市場が著しく伸びているし、インターネット・サービス企業が多いのも魅力だ。

――中国では、どういったタイプのIT企業が有望だと思うか。

Magid氏:私が注目しているのは、ブレード、サーバ、半導体など、当社のハードウェア事業に関連している分野だ。まだ手を組んだことはないが、この国にも多くのインターネット・サービス業者が存在している。そのほか、ゲーム・ディベロッパー、オンライン・コラボレーション、バーチャル・ワールドなどの動向も注視している。

――ラテン・アメリカの状況は?

Magid氏:ブラジルを中心に、非常に活発な動きを呈している。ちなみに、ブラジルは豊富なソフトウェア技術力を持ち、インターネット事業が盛んだ。

―― 一連の企業買収を振り返ると、IBMはデータ管理分野に力を入れようとしているように思えるが、ねらいとしては、既存製品/機能のギャップを埋めようとしているのか、それとも新しい市場にいち早く乗り出そうとしているのか。

Magid氏:この分野において重要なのは、分析論とBIの動向だ。企業経営に資するための情報活用は昔と比べて飛躍的に洗練され、企業のみならず政府機関などにも適用されるようになった。現在、そうしたさまざまな分野に向けて製品の拡充に努めているところだ。

 例えば、当社は2005年、FRDという企業を買収することにより、関係に基づいて情報分析を行う技術を獲得した。当時の技術は、不正行為を行おうとするユーザーを検知するために、ゲーム企業向けに開発されたものだったが、現在は米国国土安全保障省がこの技術を使ってテロリストの疑いのある人物の関係および情報を特定・収集できるまでになっている。

(Computerworld.jp)

米国IBM
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提供:Computerworld.jp