セキュリティ強化を最大の“ウリ”にしたVistaの大誤算――Vista担当幹部、「セキュリティ機能の強化は、新OSへの移行理由にならなかった」とコメント

 Windows Vistaが企業向けに発売されてから約1年が経過した。しかし多くの企業は、Vistaの導入に二の足を踏んでいる。米国MicrosoftはVistaの最大の“ウリ”として、セキュリティ機能の強化を訴えてきた。しかし、どうやらこのメッセージが、Vista導入の妨げになってしまったようだ。

 Microsoftは、Windows XPとその上で稼働するアプリケーションが「MS Blaster」「SQL Slammer」「MyDoom」などのワームに攻撃された教訓から、Vistaのセキュリティ機能の強化に莫大な時間と資金を投入してきた。

 同社のResponse and Product Centers担当ゼネラル・マネジャー、ジョージ・スタタクポーラス(George Stathakopoulos)氏は、「(Windows XPの苦い教訓から)Vistaではセキュリティ機能の強化が最優先課題だと判断した。これをVistaの“核”としたのは、世界中が(セキュリティ強化を)求めていたと判断したからだ」と語っている。

 しかし最近になって同社の幹部らは、「セキュリティ機能の強化は、企業にVista導入を促す“重要ポイント”ではなかった」という趣旨の発言をしている。

 Microsoftのセキュリティ・コンファレンス「BlueHat」で講演を行った、米国SecTheoryのCEO、ロバート・ハンセン(Robert Hansen)氏によると、MicrosoftはVistaのセキュリティ機能の強化だけに注力したことを後悔しているという。

 Hansen氏は「Microsoftはセキュリティ機能の強化と引き換えに、OS全体の使い勝手を犠牲にしてしまった」と指摘する。

 Hansen氏が「その代表格」として挙げるのが、「ユーザー・アカウント・コントロール(UAC)」である。UACはシステム関連の変更操作をユーザーごとに制御できる機能だ。しかし「標準ユーザー」でログオンしているユーザーの操作性を極端に制限する機能だとして、企業ユーザーからは不満の声が上がっていた。

 この問題を解決するには、「標準ユーザー・モード」ではなく「管理者モード」でログオンすればよい。しかし、それではVistaの“ウリ”であるセキュリティ機能を踏みにじることになる。Microsoftによると、UACは今後のアップデートで改良される予定だという。

 実際、Microsoftの社員もVistaのセキュリティ機能を「すばらしい」としつつも、「消費者の反応はいまひとつだった」と認めている。

 Windowsクライアント製品管理担当バイスプレジデントのマイク・ナッシュ(Mike Nash)氏はIDG News Serviceの取材に対し、「セキュリティ機能の強化は、新たにOSを購入する短期的な理由になっていない」と語った。Nash氏はエンドユーザーに新OSを訴求するポイントとして、マルチメディア管理機能の充実など、セキュリティ以外の機能を挙げている。

 しかし、専門家からはMicrosoftに同情的な意見も聞かれる。米国MarketingSherpaでリサーチ担当ディレクターを務めるティム・マカティー(Tim McAtee)氏は、「Microsoftが顧客ニーズを見誤ったのは事実だろう。しかし公平に見れば、Microsoftは新OSを発表するたびに自社の旧OSと競争しなければならない。その点を考慮すれば、Vistaが苦戦しているのは無理もないことだ」と指摘する。

 とはいえ、多くのユーザーが「OSに搭載されて当然」と考えているセキュリティ機能を、Vistaの“ウリ”とした戦略は大きな誤りだ。

 「旧OSの欠点を取り上げて新OSで改善されたとプロモーションするのは、Microsoftのミスを修正するため、ユーザーにアップ・グレードを強制するようなものだ。これではユーザーの信頼を損ねてしまう」(McAtee氏)

(Elizabeth Montalbano&Robert McMillan/IDG News Service ニューヨーク支局)

米国Microsoft
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提供:Computerworld.jp