リリース間近の「Oracle Database 11g」、ベータ・ユーザーの評価は?――新機能の特徴とそのメリットを探る

 Web 2.0ブームに沸くIT業界は今、「SaaS(Software as a Service)ソフトウェア」や「オープンソース」ばかりがニュースの見出しを飾り、かつて花形だった「エンタープライズ・インフラストラクチャ・ソフトウェア」のリリースのことなどすっかり忘れ去られてしまっているかのようだ。もちろん、今世紀に入って、モノリシックなバックエンド・ソフトウェアへの関心が薄れつつあるのも確かである。

 しかし、仮想化技術に後押しされるかたちで、エンタープライズ・ソフトウェア製品の中にも勢いづいているものがある。IDCの調査によると、米国企業のシステム・インフラ・ソフトウェアへの支出額は今年11%増加する見通しであり、あらゆるソフトウェア・カテゴリの中で最も速いペースで伸びているという。

 企業ユーザーのIT環境が「縮小化」へ向かうなか、Oracleの次世代データベースである11gがまもなくリリースされると言っても、以前のように、企業のテクノクラート(技術系幹部)の心をかきたてることはないかもしれない。しかし実際には、特に大規模な企業ユーザーにとっては以前に増して重要な意味を持つニュースなのである。

 Gartnerの調査によると、2006年の世界データベース市場は14.2%拡大し、152億ドルの成長を遂げた。同市場においてOracleのシェアは50%近くを占め、2番手のIBMに2倍以上の大差を付けている。

 Oracleが4年前にリリースした10g以来のメジャー・アップグレード・バージョンとなる11gは、米国時間7月11日にニューヨークで開催される記念イベントで正式リリースされ、同社社長のチャールズ・フィリップス氏が出席する予定だ。

 11gに関してはこれまで、可用性、性能、拡張性、管理機能が向上するいった点以外には、あまり詳しい内容は明らかされてこなかった。

 すでに公表されている11gの機能としては、システム管理者がOracleデータベースと同時に非Oracleデータベースを管理できる無料のマイグレーション/管理ツール、顧客のストレージ容量を3分の2に削減できる新たな圧縮技術、従来のファイルシステムよりも非構造化データを高速に保管する技術、パーティショニングの強化などを挙げることができる。

 実際に11gを検証するベータ・テスターのブログやオンライン記事では、さまざまな新機能の詳細が明らかにされつつある。

 Oracleのテクノロジー担当バイスプレジデント、マーク・タウンセンド氏のプレゼンテーションを見る限り、11gの新機能は、企業が新たなハードウェアへ移行したり、構成を変更したりする際のコストや時間の節減を支援する「Change Assurance(変更保証)」にかかわるものが多いようだ。

 例えば、データベース・リプレイやSQLリプレイ機能を使えば、データベース管理者(DBA)は、データベースの変更内容やSQLコードがパフォーマンスに及ぼす影響などを容易に参照することができる。テスト環境を設定できるスナップショット・スタンドバイ機能や、データベース・アップグレードの自動進行を支援する機能も提供される。

 このほかにも、オンライン・テーブル/インデックスの再定義、オンライン・ホット・パッチング、アップグレード中のオンライン・アプリケーション稼働継続機能、迅速な問題解決を支援する自動診断ワークフロー機能などがある。

 11gのベータ・テストを行った富士通コンサルティングのOracleシニア・インストラクター、ジム・ツプリンスキ氏は、11gの新機能を紹介するオンライン記事の中で、(1)使用頻度が高く変更頻度の低いデータをメモリ上で効率的に管理するインメモリ・キャッシュ機能のサポート、(2)自己診断/修復機能の強化、(3)データを復元するフラッシュバック・ツールの強化、などが際立っていると記している。

 長年のOracleウォッチャー、ドナルド・バールソン氏は、自身が作成した11gの機能リストの中で、XML文書の内部構造を記述するスキーム・ベースの「Document Type Definitions(文書型定義)」のサポートや、性能速度を高めるスケーラブルなJava環境を実行する機能などを重要な機能として位置づける。

 セキュリティに関しては、最近その対策の甘さを批判されたOracleだが、バールソン氏は、11gについて、大文字、小文字を区別できるケース・センシティブ・パスワードを採用したり、監査情報を一元管理して内部関係者による不正を検出できる「Audit Vault」を組み入れるたりするなどの強化が図られたと評価している。

 ノーザン・カリフォルニア・オラクル・ユーザーグループのオフィシャル・ニューズレター「NoCOUG Journal」のエディターを務めるイギー・フェルナンデス氏は、「あまり知られていない機能だが」と前置きしたうえで、11gの「ラーニング・オプティマイザ(学習型のクエリ最適化)機能」を賞賛する。

 同氏は(当編集部に宛てた)電子メールの中で、「誤りから単純に学習するこのクエリ最適化機能は素晴らしい前進だ。これを使えば進行中のクエリが停止すると、別のアプローチが試される。パフォーマンス・チューニングは、今日のデータベース管理の最大の構成要素であり、これが(Oracleの)宣伝どおりに機能すれば、労力の削減に大いに貢献するだろう」と述べている。

11gへの移行は進むのか?

 果たして、Oracleはユーザーを短期間のうちに11gにアップグレードさせ、IBMに対するリードをさらに広げられることができるだろうか。ちなみに、Gartnerの調査結果を見る限り、IBMは昨夏リリースした「DB2 9(開発コード名:Viper)」で早期の段階にユーザーを一気に取り込むことに成功したとは言い難い。

 クラスタリング・ソフトウェアの開発・販売を手がける米国ポリサーブでCSA(チーフ・ソフトウェア・アーキテクト)を務めるケビン・クロッソン氏は、現時点で確認されている11gの安定性を考慮すれば、「アップグレードを推奨するのに十分だ」と評価する。

 「11gのあらゆる機能を見る限り、顧客にアッププグレードをためらう技術的根拠は見あたらない」と、同氏は自身のブログに書いている。

 一方、米国の旅行ツアー運営会社グローバスでDBAを務めるエイミー・ストゥームキー氏によると、同社では50のOracleデータベースをようやく10gに移行し始めた段階であるという。

 その理由について、同氏は、「Oracle製品全般に言えることだが、当社では『ファースト・リリースは未完成な部分が多く(すぐに導入するには)リスクが高すぎる』との方針を貫いている」と説明する。グローバスが現在、10gへの移行作業を行っているのも、Oracleが提供するプレミア・サポートの期限がまもなく打ち切られるからにほかならない。

 ストゥームキー氏は、「Oracleは旧バージョンのサポートを中止することでユーザーの(アップグレードを)半ば強制している」と指摘する。

 NoCOUG Journalのフェルナンデス氏も同様の意見だ。「基幹業務システムのテストとアップグレードには多大な労力が費やされるうえ、新しいリリースにはソフトウェア・バグが付き物だ。Oracleに言いたいのは、『新機能満載の新バージョンよりも、前バージョンにまだ存在するバグをフィックスするほうが先決だ』ということだ」(同氏)

 もっとも、Oracleがアップグレードを“急がない”11gのエディションもある。2005年に投入した学生およびデベロッパー向けの無償版「Express Edition(XE)」がそれだ。

 オーストリアのデベロッパー、スラボジャブ・クリシャン氏が最近催されたデベロッパー・コンファレンスでOracle幹部と交わした会話内容を掲載したブログによると、Oracleはより安定した「11g R2」の登場まで11gのXEバージョンのリリースを控えるもようだ。

(エリック・レイ/Computerworld オンライン米国版)

米国Oracle
http://www.oracle.com/

提供:Computerworld.jp