LinuxWorld Korea、アジアにおけるLinuxの普及の拡大を反映

韓国ソウル発 ── 年に一度開催されるLinuxWorld Koreaの第2回が6月20日から23日までソウルのCoex Convention and Exhibition Centerで開催された。

 今回のLinuxWorld Koreaは、やはり年に一度の開催の「韓国を代表するIT展示会」であるSEKショーとの同時開催だった。LinuxWorld Koreaでは、北米/ヨーロッパのLinux関連のイベントでも常連の各企業の参加も見られたが、その他にも中国/日本/韓国在住かそれら各国のITニュースを追っている人でなければおそらく聞いたこともないような企業も多く参加していた。

 例えば、GNU/Linuxの韓国最大の企業ユーザはほぼ間違いなくNHN社なのだが、おそらく北米/ヨーロッパではほとんど耳にしない企業だ。NHN社によると、同社のNaver検索ポータルには一日に7億近いページビューがあるとのことだ。NHN社のエンジニアリングマネージャ(CTOに相当)のPaul Kijoon Sung氏に聞いたところ、NHN社の売り上げは年間10億ドルに届くところだという。売り上げは現在も急速に成長中であり、それにともなって同社のLinuxベースのサーバファームも同様に急成長しているとのことだ。

 NHNは現在Hadoopベースの分散ファイルシステムをテスト中であり(Paul氏によるときわめて順調な経過だという)、まもなくかなり大規模に導入することを検討しているという。まずは韓国国内、次に日本、そしてその後はどこであれNaverスタイルのインターネットポータルの市場が見込める場所で投入されることになるとのことだ。

 NHN社は(今のところは)Googleほどの規模の企業ではないが、南北朝鮮の約7000万人(そのほとんどが、米国の消費者が受けることのできるサービスがどれも見劣りしてしまうような高速インターネット接続へのアクセスを有している)に対するインターネット検索の分野で圧倒的なシェアを誇っている。なお日本はさらに大きな市場だが、Paul氏によるとNHN社にとっては日本でも強敵となるのはGoogleではなく、現在日本で最大手のYahoo!なのだという。

 また、ソウルを拠点にしているSK C&C社の製品であるGinux(Grid Linux)の展示もあった。Ginuxは今回のLinuxWorld Koreaで大きなブースを構えていたが、英語のIT系メディアで私はGinuxについての情報をこれまでに一度も見たことがなかった。

なおGinuxのウェブサイトはすべて韓国語で書かれていて、英語版へのリンクは見当たらない。SK C&C社のブースにいたKim Jung Guk氏という親切な青年がしばらく探した後、英語のパンフレットを見つけて持ってきてくれた。そのパンフレットによるとGinuxは、韓国政府がスポンサーとなっている、韓国のLinuxの「リファレンス標準」であるBooyoをベースとしているとのことだ。オンラインでも少し調べてみたところ(ちなみに韓国のギガバイト/秒のインターネットアクセスは素晴らしい使い心地だ!)、SK C&C社は、繊維、石油、ガスの各産業にグループ企業を抱える韓国の巨大な財閥であるSK社の一部であるようだ。

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 Ginuxの展示から展示場フロアの通路を挟んだ向かいには、Haansoft社がさらに一層大きな展示を行なっていた。Haansoft社は、カリフォルニアにあるオンライン・オフィススィート企業のThinkFree社の大株主でもあるが、同社自身も韓国ではMicrosoft Officeに対してなかなかの成功を収めてきたHaansoft Office(元Hancom Office)を提供している。実はHaansoft Officeは「なかなかの成功を収めてきた」どころか、韓国のオフィススィート市場のなんと「70%」を掌握しているのだという。言い換えると韓国においてMicrosoftと渡り合って「なかなかの成功を収めてきた」どころか、韓国でのMicrosoftの金脈に打撃を与えているのだ。とは言えHaansoft社はあまりそのことを声高に宣伝していないので、この大偉業は韓国外ではほとんど知られていない。

 Haansoft社はまた、Asianuxにおける韓国の代表でもある。Asianuxとは、東アジアの三大IT強国のためのLinuxの独自バージョンを生み出そうとする試みだ。日本の代表はMiracle Linuxであり、中国の代表はRed Flag Linuxで、Asianuxの「旗振り役」となっている。

 今回のLinuxWorld Koreaでは「CJK」という言葉が多用されていた。そこである人にその意味を聞いたところ「中国、日本、韓国の頭文字をとったものであり、この三国の間には確かに様々な面で不和もあるが、それでもやはり共通の文化を受け継いでいることから、現在ソフトウェア分野で協力している」と答えてくれた。

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 CJKの意味を教えてくれたのは、韓国政府傘下組織KIPA(韓国ソフトウェア振興院)のオープンソースビジネス振興ディレクタのTae Yeol Kim氏だった。またTae氏によると、KIPAは現在、デスクトッププログラムではなくウェブベースのソフトウェアサービスにほとんどの力を注いでいるという。KIPAは、ウェブベースのソフトウェアサービスがコンピューティングの将来的な流れであり、デスクトップオペレーティングシステムやデスクトップソフトウェアが重要でなくなるのも時間の問題だと考えているとのことだ。しかし現在のところはKIPAはLinuxが気に入っていて、2004年にはKIPA自身のデスクトップコンピュータをLinuxに移行したという。LinuxWorld Koreaで出会った多くの人が韓国でのLinuxデスクトップの存在感は「ほとんどない」と言っていたものの、GNU/Linuxは韓国のデスクトップに少なくともいくらかは食い込んでいるようであり、また韓国のウェブサーバ用OSとしては疑いなく主流となっている。現在KIPAは、(当然ながらLinuxサーバ上で動作する)ウェブベースのソフトウェアサービスの世界的な提供者としての韓国のプレゼンスを拡大することに取り組んでいるとのことだ。

組み込みLinuxがアジアのITの中でも特に急成長中

 韓国、中国、日本では組み込みLinux市場が成長中だ。Ubuntu創始者のMark Shuttleworth氏は、今回のLinuxWorld Koreaの4人の基調講演者の一人だったのだが、Linux全般でもデスクトップLinuxでもサーバ用Linuxでもなく、「組み込み Ubuntu」について講演し、公演後は、やはり組み込みLinuxについてSamsung社副社長とプライベートな会話を短時間だが交した後、中国の広州で開催中のOpen Source Chinaコンファレンスでさらに組み込みLinuxについて議論を行なうために飛び立っていった。なお今回のLinuxWorld Koreaのもう一人の基調講演者だったLinux FoundationエクゼクティブディレクタのJim Zemlin氏も広州のコンファレンスに参加したいということで、Shuttleworth氏の自家用ジェット機に同乗して旅立った。

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 アジアで組み込みLinuxが成長するとShuttleworth氏が考えているのは明らかで、同氏はUbuntuをその波に乗せたいようだ。文字通り地球の裏側から、具体的にはスコットランドのエジンバラで開催されていたDebConf 7から中国へ向かう途中、18時間足らずを過ごすために韓国まで足を運んだということからも、相当本気である様子が伺える。

 組み込みLinuxが、世界の他の地域ではなく特に中国・日本・韓国の三ヶ国において持ち切りの話題である理由は明白だろう。それは、この三ヶ国が世界のハンドヘルド・コンピュータデバイスの大部分を生産している地域であるためだ。

 とは言え、今目にしているこの大きなシフトは、物理的なハードウェアの「生産」に関するものではない。というのも、すでに東アジアはこれまで数十年間に渡り、コンピューティングデバイスの生産でかなりの市場シェアを占めてきた。そうではなくここに来て変化したことは、ハードウェアが現在ではほぼすべてこの地域で「設計」されるようになったことであり、またハードウェアを動作させるための「ソフトウェア」もこの地域で作成されるようになりつつあるということだ。中国・日本・韓国はもはやLinux開発で単に後追いをしているだけではなくなっており、中国・日本・韓国で行なわれるLinux/オープンソースの開発の方が北米/ヨーロッパで行なわれる開発よりも多くなるということも十分に考えられる。私はこのようなシフトが起こるだろうということを2002年にいくらか予想していたが、その5年後の今、東アジア、特に中国・日本・韓国におけるLinux/オープンソースソフトウェア開発、とりわけ組み込みLinuxは急成長している。

LinuxWorld Koreaのショー自体について

 LinuxWorld Koreaは基本的には商業ベースのトレードショーであり、西欧諸国で開催される多くのオープンソースのコンファレンスと比べると講演は少なかった。基調講演は4つあり、前述したShuttleworth氏とZemlin氏の他には、Sun Microsystems社のチーフ・オープンソース・オフィサーであるSimon Phipps氏と、(おそらく講演料予算が底をついたのであろう)私だった。基調講演やコンファレンスのセッションについて詳しくはLinuxWorld Koreaのウェブサイトで見ることができる。

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 私はほとんどの時間をショーのフロアで展示を見たり、情報交換や質問のために私を引き止める人たちと話をしたりすることに費やした。冒頭でも述べた通り、今回のLinuxWorld KoreaはSEKという、より大規模なITショーと同時開催だった。実のところLinuxWorldセクションは、巨大な展示場の比較的小さな一角に押し込められていた。Samsung社とLG社がどちらも、Linuxの展示をすべて合わせたよりも大規模な消費者向け製品の展示を行なっていて、その2社は会場を見下ろす少なくとも1,000平方フィートはある巨大ディスプレイのテレビを掲げていた。また、Microsoft社という(少なくとも韓国では)オフィスソフトウェアにおいて後塵を拝している企業も力強いプレゼンスを呈していた。その他にも、大企業から小企業まで何百という展示者が、ハードウェア、ソフトウェア、携帯電話、ルータ、ホーム・オートメーション・システム、MP3プレイヤー、デジタルカメラ、その他、近代的な人や企業が最新のITの流行を追うために必要なありとあらゆるものを展示していた。SEKには10万人以上が来場したという。またSEKのLinuxWorldセクション運営担当企業TSKG社のディレクタであるBo Young Kim氏によると、LinuxWorldコンファレンスの事前登録参加者は2,000名を越え(これは2006年開催の最初のKorean LinuxWorldよりもずっと大きな数字だ)、ショーの閉幕時には20,000枚の当日用の展示会無料パスを発行していたとのことだ。

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 今回のLinuxWorld Koreaでは、非常に多くの韓国人が初めてLinux/オープンソースに触れた。そしてそのうちの一部(私の見積もりでは少なくとも1,000人)は、韓国のFOSS促進グループ「KLDP」のメンバーやソウルにある2つのLinuxユーザグループのメンバーなどのGNU/Linuxファンがスタッフとなって働く、ボランティア運営の各ブースが立ち並ぶ一画にも立ち寄っていた。IBM社はまぶしい青に塗装されたHyundai社製のトラックにサーバを山積みにした展示を行なっていて、IBMの(Linux関連の)ソフトウェアに興味を引かれた黒いスーツに身を包んだ経営社風の来場者を絶え間なく惹き付けていた。Hewlett-Packard社にも人だかりが見られたが、その理由は部分的には、展示スペースに置かれたたくさんのHPのペンギンに子供達が惹き付けられたためだろう。Red Hat Korea社は活気溢れる展示をしていた。またHaansoft社にも大衆が殺到していたのだが、それは間違いなく同社の製品に興味があったためであり、決して同社がソフトドリンクを無料で配っていたためや、たくさんの若い女性たちがへそ出しスタイルで多くの群がる群衆に粗品を配ったり同社の(かなり派手な)製品デモのための人集めをしたりしていたためではあるまい。

 とは言え、ITのトレードショーやコンファレンスではお決まりのこととして、「活動」の多くはショーの途中や閉幕後のプライベートなミーティングという形で行なわれた。私もその夜、2つの集まりに参加した。そのうちの一つは、高級なプライベートカラオケルームで行なわれ、かなりの量のアルコールが入っていた。そこでの活動についてはこの記事には書くことができない(ただし性的なことや裸とかそういうことはなかった)が、カラオケルームで起ったことをカラオケルーム外に漏らすことはできないのだ。一方、近くの伝統的なキムチレストランでのもう一つのミーティングでは、韓国のソフトウェア開発者やオープンソースの熱心なファンや企業の重役たちの多くと個人的に会話することができ、私は東アジアのオープンソース開発とそれ以外の地域でのオープンソース開発との違いについて多くのことを考えさせられた。これについては、米国フロリダの自宅までの長い旅の疲れから回復した後に書きたいと思う。

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