オープンソースに再び関心を寄せるベンチャーキャピタリスト

 ベンチャーキャピタリスト(VC)たちが最初にオープンソースを見い出したのは、2000年のドットコムバブルの頃だった。そしてバブルが弾け、オープンソースについては、ごく一部を除いてほぼすべてのVCからそっぽを向かれるという全面的失敗の印象が色濃く残った。しかし、ここ数年、オープンソースソフトウェアの利用が増え、存続しているオープンソース企業が成功を収めていることから、投資家の関心は再び高まっている。現在、投資家をオープンソースに引き寄せているのは、革新的なアイデアが生まれる可能性の高さと製品化のすばやさ、そして従来であれば規模が小さすぎて利益が出せなかったようなニッチ市場を開拓できる力だという。成功する企業の基本的要件が揃っていることがわかれば、オープンソースに基づく企業は投資対象として十分検討に値する、と投資家たちは考えているのだ。

 Intel Capitalでソフトウェアソリューション向けの投資を受け持つ常務取締役Lisa Lambert氏には、オープンソースに対する関心が回復しつつあることが投資機会の獲得を狙うVCの増加としてはっきり見えている。ここ数年は「何かにつけてオープンソースが絡んでいます」と彼女は言う。資金提供先としてこの先利益を生みそうなプロジェクトの発掘を目的として、Intel CapitalがOpen Source Incubator Programを開始した理由の1つはそこにある。また、ベンチャー企業Benchmark Capitalの共同出資者であるKevin Harvey氏は、オープンソース企業への投資を考えるにあたって「最初は抵抗があったが、今は非常に有望な領域だと捉えている」と話す。

 Lambert氏は、オープンソースへの投資に関心を持つベンチャー投資会社として、Charles River VenturesMatrix PartnersSequoia CapitalKleiner, Perkins, Caufield, and Byersなどの名を即座に挙げてみせた。

 だが、オープンソース企業への関心はまだまだ普遍的なものとはいえない。Krugleの共同設立者で、技術主導型の会社を数多く立ち上げてきた経験を持つSteve Larsen氏は、次のように語る。「VCのなかには、強力な参入障壁になる特許を探し、オープンソースコードの利用には競争上の問題があるとする旧来の考え方にとらわれない一定数の人々がいる」。しかし、Larsen氏は、出資者を求めるオープンソースの起業家にとって、こうした投資家の存在は、対応すべき相手が容易にわかるので好都合だと述べる。オープンソースへの投資に積極的なVCの数はまだ比較的少ないため、起業家たちはすでにあるオープンソースの投資発表を調べるだけで潜在的な出資者を見つけ出すことができる。そのため、ベンチャー投資会社に手当たり次第にアプローチせずに済むわけだ。

 オープンソースに対する受容性が高まっている理由を見つけるのは、それほど難しくない。「VCは新しいものすべてを好むわけではない。新しいものは扱いが難しく、リスクが増す」と語るのはオープンソースVCのLarry Augustin氏だ。「これまで、うまく行った例はそう多くはなかった。ここ2年で、オープンソースでも会社を興せるという考え方にベンチャー投資会社がかなりの納得を示すようになってきた。実際、そうした例もいくつかある」。JBoss、MySQL、Red Hat、XenSource、Zimbraなどがそうだ。

 しかし、これらの例には制約があり、それをLambert氏はこう指摘する。「成熟したオープンソース製品の大多数はサーバベースのものです。また、オープンソースの成熟企業や新興企業の大半は活動の中心をサーバに置いています」。携帯デバイス向けやクロスプラットフォームのアプリケーションにはある程度の投資が期待できるが、デスクトップ用のオープンソースはまだ「機が熟していない」と彼女は見ている。

オープンソースが投資家にうける理由

 Lambert氏によると、VCがオープンソースに再び注目している主な理由の1つは、技術革新の余地が豊富にありそうだからだという。彼女はオープンソースを“破壊的”テクノロジと呼んでいる。「オープンソースの破壊的側面には、非常に興味をそそられます。私が投資の際に行うことの1つに、それが技術的な機能なのか従来のビジネスモデルを打ち崩すものなのかという破壊的特徴の調査があります。つまり、サービスとしてのソフトウェアなのか、それとも流通破壊なのかということです」。破壊的テクノロジはリスクが高いが、それはまさしく先行型の投資家が求めているものだと彼女は述べる。イノベーションの成功は、投資に対する見返りの増大を意味するからだ。

 この点については、Augustin氏も同じ意見だ。「ベンチャーキャピタルの世界にいる人間は、そうしたものを求めている。長い間、オープンソースは革新的ではないと評されていた。常々、私はそのことに怒りを覚えてきた。私に言わせれば、それはオープンソースを取り巻く熱気を完全に無視した意見だ」。データベースを主軸としたMySQLのような企業であっても「データベースについての我々の考え方を変え」、その利用の手軽さによってデータベースを基にしたソフトウェアの開発を広めたという理由で革新的といえるのだ、と彼は語る。

 投資家の注目を再び集めている別の理由として、オープンソースソフトウェアの利用によって企業が低コストで製品を開発して早く上市できるようになれば、短期間で投資の回収が可能になることが挙げられる。Lambert氏は、既存コードの利用とコミュニティの協力によるコストの削減は開発だけでなく、販売およびマーケティングにも及ぶと見ている。これはもちろん、新興企業がコミュニティの信用を得て、それを持続できればの話である。「早く市場に出せば、それだけ収益も増えます」とLambert氏は簡潔に説明している。

 つまり、オープンソースソフトウェアを利用することで、新興企業は少ないコストで多くの収益を上げられるのだ。Harvey氏は、オープンソースソフトウェアを使うと「小さな会社はすばらしい製品をこれまでよりずっと短期間で開発できるため、かなり早いうちから自社製品を採用してもらえるようになる」と述べる。

 Krugleの成長と同社のソースコード検索エンジンに言及しつつ、仮に従来のビジネスモデルに従ってコードをプロプライエタリ化していたらどうなっていたかについてLarsen氏はこう語っている。「3年後に1,000万ドルなんて絶対に無理だった。あり得ない話だ。だが、現在Krugleのエンタープライズ向け製品は、フォーチューン100社に名を連ねるいくつかの企業で実際に採用されている。優れたオープンソースのコードが利用できなければ、そんなことは不可能だ。そして3年目を迎えた我々は、お金をかける段階から儲ける段階へと移行しつつある」。VCによる平均的な投資回収に5~7年かかっていることを考慮すると、これはかなり短い期間だとAugustin氏は述べている。

 投資家にとってのオープンソース企業のもう1つのメリットは、オープンソースでなければ利益の出ないようなニッチ市場を開拓できることだ。たとえば、プロプライエタリなやり方だと、Krugleのような特殊な検索エンジンは開発コストに見合うだけの大きな市場がないため、VCの関心を集めることはなかっただろう。それだけの開発コストを回収するには、GoogleやYahoo!のような汎用の検索エンジンと競争しなければならない。ほとんど成功の見込みがないそうした非現実的な取り組みを考えれば、どんなVCも投資をあきらめるはずだ。しかし、オープンソースでビジネスを行えばコストを下げられるので、もはや巨大企業と同じ土俵で張り合わなくてもよくなる。分野を特化することで、少なくとも可能性としてはそれなりの投資利益率が見込めるようになる。

 「市場には常に、これまでは手が届かないと考えてられてきた大きな領域が存在する」とAugustin氏は語る。オープンソースの利用によって、にわかにこうした領域が手の届くものになる。このように、オープンソースは収益の見込めなかった領域を突如として有望な領域に変えてしまう新たな手段なのだ。

結局すべては基本に帰る

 こうした利点はいずれも重要だが、どんな投資とも同様で、オープンソース企業の好ましさは、最終的には健全なビジネスのやり方の基本的要件を備えているかどうかという部分に行き着く。

 通常、オープンソースへの投資を検討するベンチャー投資会社は、デュアルライセンシングやソフトウェアによるサービスなど、実績のあるビジネスモデルに特に注目するものだ。また、Lambert氏のような経験豊かなオープンソース投資家は、大規模で活動的なコミュニティにソフトウェアの重要部分を支えてもらっている新興企業や、彼女がいう“協力し甲斐のある”企業、つまりそうしたコミュニティと良好な関係を維持している企業も探し求めている。

 一方、Augustin氏が探しているのは強力なブランド価値だという。単なる既存のオープンソースソフトウェアの焼き直しではなく、独自のアイデンティティとイノベーションを持つ企業のことだ。また、フリー版とプロプライエタリ版のデュアルライセンシングを行っている企業については、フリー版に機能制限を加えることに対して警告を発し、そうした動きはコミュニティから反発を招くだけだとしている。

 ほとんどの場合、投資家たちがオープンソース企業を探すときの基準は、ほかのどんな企業に対するものとも変わらない。Augustin氏は、そうした基準として、テクノロジに対する需要が存在すること、チームが情熱と適切な考え方を持ち、チーム各メンバーがVCとの契約によって生じる関係を理解していることなどを挙げている。

 こうした基本事項は、ビジネスモデルよりも優先される。「良心的なベンチャー投資会社であれば、ビジネスモデルの考案に協力してくれるものだ」とAugustin氏はいう。Krugleの目指すべき方向について投資家たちが意見を述べることにより、同社のモデルは資金調達の各段階で発展してきた、と語るLarsen氏のコメントも、こうした見方を反映している。

 どんな投資もそうだが、オープンソースへの資金提供は結局、賭けである。しかし、Lambert氏の経験から学べることがあるとすればそれは、オープンソースへの投資に関心が再び集まっている最大の理由は成功の確率が高く思えるからではないか、という点だ。

 オープンソースとプロプライエタリを区別してIntel Capitalによる投資成功例をきちんと比較したことはないとLambert氏は言う。しかし、オープンソースへの投資の成功率に関する彼女の“直観的な”回答は、次のようなものだった。「当社では90年代以降、オープンソースの領域で15社ほどに投資しています。そのほとんどは名前のよく知られた企業です。まだすべてが終了したわけではありませんが、どの案件もきわめて好調で、すばらしい結果が出そうです。ですから、全体的に見ても、成功率は非常に高いのではないかと思います」

Bruce Byfieldは、Linux.comとIT Manager’s Journalに定期的に寄稿しているコンピュータジャーナリスト。

Linux.com 原文