さらなる進化を遂げたOpenOffice.org 3.0
今月13日にリリースされたOpenOffice.org 3.0には、バージョン2.0からのルック&フィール(外観と操作性)の大きな変化は見られないが、メジャーリリースにふさわしく、大小合わせて何十もの変更が加えられており、その内容をひとことで説明するのは難しい。
OpenDocument Formatバージョン1.2の読み込みに対応した新しいスタートセンター、Microsoft VBAマクロの限定的サポート、言語サポートの拡大、複数言語を対象とした簡便なスペルチェック、Mac OS Xのネイティブサポート、OOXMLのサポートなどが挙げられるが、これらはバージョン3.0の広範な変更点の一部にすぎない。しかし、目立った変更点はやはりOpenOffice.orgの各アプリケーションに対するものだろう。ここでは、そのうち特に重要なものを紹介しよう。
Writerの新機能
Writerには、いくつかの大きな改良が施されている。そのうち最も基本的な2つが表示の拡大縮小に関するものだ。編集ウィンドウの一番下にあるステータスバーにスライドバーが付き、あらかじめ用意された設定値に頼らずズーム率を自由に設定できるだけでなく、「表示」→「ズーム」→「列」の選択によって同時に表示するページ数の設定も可能になっている。これまで、複数ページを表示するには別ウィンドウで開く印刷プレビューを使うしかなかったが、この単純な変更は、たいていのページデザインを見開き2ページで行うDTP用途でWriterのツールを利用する人にとっては、大きな前進といえるだろう。
ノート(コメント)機能の全面的な見直しにより、コラボレーション(共同作業)関連の機能も向上している。色を変えて残しておいたノートは、ドキュメントを隅々まで探さなくても、ノートの場所を示す線と共に編集ウィンドウ右側のサイドパネルにその内容が表示されるようになった。ノート内では、太字や斜体による強調といった基本的な書式設定も行える。マウス操作による注意深い選択が必要だった以前のバージョンとは違い、用済みのノートは簡単に削除できるし、すべてのメモの削除、あるいは特定ユーザによるすべてのメモの削除も可能になっている。入力の最後にノートを挿入すると、以降の入力によってノートの位置が変更されてしまうのは困りものだが、全体的に見ればこの新しいノート機能は、以前に比べて大きく進歩している。
最も進化したのは、おそらく相互参照の機能だろう。以前のWriterでは、相互参照の設定が面倒で、参照元を指定してから参照自体を追加する必要があった。また、相互参照は見出しに対するものがほとんどなのに、大半のワープロでは可能な、見出しの直接参照もできなかった。OpenOffice.org 3.0では、見出しのリストから参照先を選択できるようになり、かなり使いやすくなった。これでさらに、本文に相互参照を簡単に追加できて、面倒なマクロや定型句、オートコレクトを使わなくても「詳細については~を参照」といったフレーズを繰り返し入力せずに済むようにさえなれば、OpenOffice.org 3.0の相互参照は間違いなく最先端の機能といえるだろう。いずれにせよ、今後に期待の持てる変更内容だ。
Calcの新機能
OpenOffice.orgのアプリケーションのうち、最新バージョンにおける改良の効果がとりわけ大きいのがCalcだろう。デフォルトの動作から各種機能まで、数えきれないほどの修正が行われている。また、グラフに対してカスタムの誤差表示、回帰式、相関係数を追加できる機能の恩恵を最も受けているのもCalcだ。
些細な変更だが効果の大きいものとして、選択範囲の背景が不透明な黒ではなく、透過色になった点が挙げられる。基本的な機能に変わりはないが、選択の操作を中断することなく選択中のセルを確認できるため、この変更は作業効率の向上につながる。
また、印刷設定にオプションボタンが1つ追加されている。これにより、印刷時に空白ページをスキップしたり、選択中のシートだけを印刷したりできる。なるべく見やすい形でシートを印刷したいという人なら、このボタンの追加をありがたく思うはずだ。
Calcにおける大きな変更は、数式の最適解を求めるソルバー機能が改良されていることだ。改良された今回のツールでは、整数または2進数への値の制限や、特定の値に対する大小関係の制約、また各種変数の解を求める所要時間の制限も設定できる。また、使用するソルバーを選択するオプションも用意されているが、ほとんどの人はこのバージョン3.0に付属しているものしか使わないだろう。
Calcで最大の変化といえるのは、列の数が以前の256から1024に増えたことだ。これほど多くの列を利用するならBaseなどのデータベースへの移行を考えてもよさそうだが、なるべく表計算ソフトで済ませたいと思う人は少なくない。そうした人々にとって、Calcはこの列数の増加によってMicrosoft Excelと同等になったといえる。
Impressの新機能
これまでのプレリリース版では、最初のウィザードが削除されていたのでOpenOffice.org 3はMicrosoft PowerPointに追随するかに見えた。ユーザがスライドショーに慣れてきたことを考えると、こうした変更も妥当と思えなくもなかったのだが、結局OpenOffice.orgはこのウィザードを復活させている。
バージョン3.0で特に重要な変更が、ようやくImpressで表を追加できるようになったことだ。これにより、テキストフレームを寄せ集めてそれらしく見せる必要もなくなった。ただし、表をネストさせた複雑なレイアウトの作成はまだできない。それに、表を挿入したときにはデフォルトの背景色が与えられる。そのため、多くの場合は表を作成したらすぐに色を変更することになるだろうが、表のために1、2枚のマスタースライドを用意してそれらをテンプレートとしてファイルに保存しておけば、この問題は克服できる。さらに重要なのは、最近のバージョンになってスライドの「画面切り替え」ペインですべてのスライドに対するサウンドの追加が可能になり、ようやく完全にPowerPointと同等のレベルに到達したことだ。あとは付属のテンプレート集さえ充実してくれれば、フリーソフトウェアユーザとしてはこれ以上望むことはほとんどない。
さらに、コードの多くをImpressと共有しているDrawでも、表が使えるようになった。表の追加によってアプリケーションとしての機能が強化されたDrawは、初歩的なDTPツールとしても利用できる。
オプションのパッケージ群
バージョン2.0のリリース以来、OpenOffice.orgではエクステンション(拡張機能)コミュニティも賑わいを見せている。標準のコードでは物足りないという人は、エクステンションのリポジトリを調べてみるとよいだろう。Sun Report BuilderやSun Presentation Minimizerなど、すでに多くのユーザからの信頼を勝ち得たツール群が存在する。
さらに3.0のリリースに伴い、この最新バージョン用にビルドされたエクステンションが少なくとも2つ提供されている。Linux.comで取り上げたことのあるPDF Import Extension(翻訳記事)では、DrawでPDFファイルを開いてPDFファイルの編集や修復が行える。スライドショーを頻繁に利用する人には、Presenter Console Extensionが重宝がられるだろう。これを利用すれば、プレゼンテーションの実施中でも密かにノートの内容や次のスライドを確認することができる。
また、エクステンションをインストールすると、OpenOffice.org 3.0にもFirefoxと同じようなエクステンションの自動アップデータが用意されていることに気付くはずだ。
まとめ
バージョン3.0で1つ残念なのは、インタフェースの一貫性向上や、90年代風の古風で雑然としたダイアログウィンドウの改良、といった包括的な取り組みが見られないことだ。こうした問題への配慮が欠けているのは、SunによるOpenOffice.orgの商用版であるStarOfficeと同じコードが使われているためだろうか。StarOfficeが対象とする市場では、主要機能の根本的な見直しよりも、機能強化のほうが売り上げの拡大につながる。その理由はともかく、インタフェースの整理を求める人々は、次のメジャーリリースまであと2、3年は待つ必要があるだろう。
OpenOffice.orgのインタフェースは、時代遅れではあるが、なじみ深いものであることも確かだ。また、バージョン3.0のあらゆる変更により、ほとんどのユーザは、オフィス生産性スイートとしての使いやすさがにわかに向上した部分がいくつもあることに気付くだろう。
OpenOffice.orgは、英語など何種類かの言語のものが同プロジェクトのダウンロードページから入手できる。ほかの言語のバージョンも今後数週間にわたってリリースが行われるはずだ。
Bruce Byfieldは、Linux.comに定期的に寄稿しているコンピュータ分野のジャーナリスト。