学生向けのFOSS

 フリーソフトウェアコミュニティは、高校や大学の学生にとって便利なソリューションを幅広く提供している。私が使っているLinuxディストリビューションのパッケージリポジトリにも、遺伝子配列解明から素粒子物理学まで、ありとあらゆるアプリケーションが揃っている。本稿では、多くの学生にとって本当に価値があると思われる数学および化学関連のツールをいくつか紹介する。具体的には、TiLP、wxMaxima、Kalzium、Gnome Chemistry Utils、OpenOffice.org Mathである。

TiLP

 Texas Instruments社(TI)製の電卓はあちこちで見かけるし、私も何台か持っている。TI電卓のすばらしさの1つは、統計処理からゲームに至る多数のプログラムのダウンロードがPC接続を介して可能なことだ。残念ながら、そのための通信用ソフトウェアTI ConnectはLinux版がまだTI社からリリースされておらず、WindowsとMac OSのみがサポートされている。

 ただし、代替のフリーソフトウェアソリューションが使える。GTK+ベースのプログラムTiLPは、TI電卓および接続ケーブルのすべてのモデルをサポートしており、UbuntuやLinux MintをはじめとするディストリビューションのMathematics(Universe)リポジトリに収録されている。

 TiLPには、サポート対象デバイスへのアクセスを可能にするモジュール群や、そうしたアクセスに適切なパーミッションを設定するための命令との依存関係がある。そのため、起動の方法は、計算機と接続ケーブルのハードウェア構成によって異なる。私は、主にTI-89とシルバーリンクUSBケーブルを使っている。その場合は、コマンドラインオプションを使って「tilp --calc=ti89 --cable=SilverLink」のようにして TiLPを起動する。

 起動するとポップアップ画面が現れ、電卓内のコンテンツ管理、プログラムおよび変数のインストール/削除、OSのアップデートが行える。また、PC用のTIエミュレータであるTiEmuで使うためのROMダンプも実行できる。

 個人的な要望として、そのうちにプログラムエディタを入れてもらいたいと思っているが、現在使える機能については何の不満もない。

wxMaxima

 TI-89電卓は、数式処理システム(CAS:Computer Algebra System)を備えており、これを強みの1つとしている。とはいえ、この機能にも限界はある。幸いにして、LinuxではいくつかのCASソフトウェアパッケージが利用できる。比較的優秀なのがMaximaで、特に威力を発揮するのがグラフィカルフロントエンドのwxMaximaと組み合わせた場合だ。wxWidgetsツールキットの利用によってwxMaximaはクロスプラットフォームになっており、WindowsやMac OSでも使える。

 Maximaは機能が豊富なので、熟練ユーザの域に達するには時間がかかるかもしれない。しかし、MATLABやOctaveのようなもっと高度なシステムとは違って、Maximaの場合はわかりやすいオンラインヘルプシステムのおかげで、初心者でも問題なく大学の代数や微積分の演習に利用できるはずだ。

 Maximaの難点は、関数の定義に使う「:=」記号からPascal言語の代入演算子をつい連想してしまうことだ。また、「%」記号は定数を意味している(円周率は「%pi」となる)。それに、変数の暗黙的な乗算の扱いが難しく、TI-89のような機種を使いこんだ人は慣れるまでに時間がかかるだろう。そのため、「16x+12x」のようなステートメントを使うと、「構文エラー:Xが中置演算子ではありません」といった反応が返ってくる。

 簡単な関数宣言は、次のようにして行う。

f(x) := ((3 * x^2) * %pi)/(2 * x+7)

 するとこのステートメントは、wxMaximaによって、まるで黒板や教科書を見ているかのような「数式としてふさわしい形」で表示される。その後、「f(14)」と入力すると、「84%pi/5」という答えが得られる。

Kalzium

 Linux(特にKDEがインストールされた環境)で利用できる教育用ソフトウェアのなかで最も優れたものの1つが、元素周期表を扱ったKalziumだ。Kalziumの開発陣は、普通の人には思いも寄らないような周期表を作り上げている。

 いずれかの元素の上にマウスポインタを持っていくと、ツールチップと元素サンプルの写真が現れ、画面の左側に詳しい情報が表示される。また、各元素をクリックすると、別のウィンドウが開き、その元素の電気陰性度や発見された日などの情報までがそこに表示される。

 Kalziumには、Calculate(化学物質を対象とした計算ツール)、Timeline(時代による周期表の変遷の表示)、State of Matter(物質の状態変化に関する情報の提供)といった機能も用意されている。計算ツールに「H2SO4」と入力すると、水素2、硫黄1、酸素4という構成元素への分解結果と、98.075uという分子量の値が表示される。タイムライン機能は、1650年以降のある年を指定すると、その当時に知られていた元素だけを示してくれる。さらに、スライダを右に移動させて(年を進めて)いくと、画面上に表示される元素が増えていく様子が見られる。「State of Matter」ウィンドウには、指定した絶対温度における物質の状態(固体、液体、気体)や、その温度付近に沸点または融点を持つ元素が表示される。

Gnome Chemistry Utils

 GNOMEにも優れた化学関連ツールがいくつかある。それらは各ディストリビューションのリポジトリ内の「gcu-bin」に集められており、Gperiodicという元素表や化学物質の計算ツールなどが含まれる。

 Gnome Chemistry Utilsには、OpenBabel互換のファイルを扱えるGChem3dというビューアも入っている。OpenBabelは、分子の3次元モデルを含む化学データを扱うフレームワークである。GChemPaintという2次元描画ツールも存在し、これは分子や化合物の作図に役立つ。

OpenOffice.org Math

 最後に、OpenOffice.orgスイートの数式エディタMathを紹介する。利用するマークアップ言語は、科学技術系の文書作成のデファクトスタンダードであるLaTeXに似ている。ooMathをマスターすれば、実験レポートや論文用の数式をマークアップ形式で正確に表記できる。

 Mathではほぼすべての操作がマウスで行えるが、コツをつかめばマークアップで入力したほうが簡単な場合もある。たとえば、ニュートンの運動の第2法則をベクトルの積分として表す場合には、Mathの画面の下半分に「widevec F_Net = {d (m widevec v)} over {d(t)}」と入力すればよい。するとMathは、その組版出力を表示してくれる。

 Mathパッケージでは、数式をOpenOffice.org形式で保存できるほか、MathML形式にも対応している。この形式は、Firefoxのようなブラウザでは標準で表示できる。また、数式はPDFにもエクスポートできる。ただし、数式を直接JPGファイルやPNGファイルとして保存することはできない。

 Mathはオフィススイートの一部なので、別のOpenOffice.orgアプリケーションからも利用できる。たとえばWriterの場合は、「挿入」→「オブジェクト」→「数式」を選択すると、数式エディタが起動し、論文や実験レポートに数式を直接挿入できるようになる。

まとめ

 以前からプログラマや高度な科学計算を行う人々に選ばれてきたGNU/Linuxは、多くの専門分野の学生にふさわしいフリーおよびオープンソースソリューションの宝庫でもある。ここで紹介したようなアプリケーションは、数学や自然科学の世界に足を踏み入れる学生にとって確かな基盤となるが、利用できるものの一部にすぎないことを忘れないでほしい。

Linux.com 原文