機能の点でFirefox 3は巨大なリリースだ。Mozillaによれば15,000以上の改良(規模は大小あり、ほとんどは内部的なものだが、少なからず外部的なものもある)があるという。ユーザー中心の機能のほとんどは大規模なベータテストのサイクルを経て検査されており、それらについてはFirefox 3 beta 4のレビュー(翻訳記事)でも触れている。
目立たない改良点もある。たとえば、このリリースでパスワードを保存する方法はかなりスムーズになり、目障りでなくなった。Firefox 3ではポップアップの代わりにページの上部にバーが表示され、新たに入力したパスワードを記憶するかどうか確認が求められる。このバーに答えたりバーを消したりするまでページが読み込めないということもない。複数のタブを使っているユーザーなら、改良されたFirefoxのタブ操作が気に入るだろう。タブの切り替えがスムーズにできるだけではない。ブックマークメニューで「タブですべて開く」を選択すると、開いているタブが置き換えられずに新しいタブでページが開かれる。また、複数のタブが開いたブラウザウィンドウを閉じる場合、ウィンドウを閉じる前にタブを保存することもできる。
ブックマークや履歴の操作にも目立った面白い変更がいくつかある。Firefox 3のアドレスバーには星が表示され、これを1回クリックするとページがブックマークされ、ダブルクリックすると新しいブックマークの登録とタグ付けができる。つまり、ブックマークにはタグも付けることができる。賢くなった新しいオートコンプリート機能のおかげで、探しているWebサイトをタグを使ってすばやく見つけられるようになった。新たに統合されたブックマークと履歴の管理機能では、他のブラウザとの間でインポートやエクスポートができる。また、気に入ったサイトにすぐにアクセスするため、頻繁に実行する検索を保存することもできる。
他に改良されたもので見逃せないのが、ついにダウンロードの停止と再開ができるようになった新しいダウンロードマネージャだ。ダウンロードマネージャでファイルを右クリックすると、元のダウンロードページに戻ることができる。いつもブラウザウィンドウでテキストをコピーアンドペーストしているのなら、これからはCtrlキーを使って複数のテキストの範囲を選択できるようになる。
Firefox 3のインストールは非常に簡単だ。tarファイルをダウンロードして/optなどの適当な場所に解凍し、./firefoxスクリプトを実行すればよい。このとき、既存のプラグインがチェックされ、Firefox 3で動作するもの、または互換性のある新しいバージョンがあるものだけが有効になる。さらにaddons.mozilla.orgからアドオンを入手するには、新しいアドオン管理機能が使用できる。新たに加わった「アドオンを入手」を選択すると、推奨のアドオンが表示され、新しいアドオンを検索することもできる。どちらの場合も説明と評価が表示され、クリックするだけでインストールができる。
改良されたルック&フィール
Firefox 3はUbuntuのGNOME Linuxデスクトップにうまく溶け込んでいる。これは、Firefox用の異なる4つの新しいテーマ(Linux (GNOME)、Mac OS X、Windows XP、Windows Vistaにそれぞれ1つずつ)が今回のリリースにバンドルされているためだ。テーマはボタンやウィンドウ、タブ、アイコン、ダイアログボックスに影響し、それらを各プラットフォームに溶け込ませている。
Firefox 3にはCairoグラフィックスサブシステムとゼロから構築された新しいグラフィックスレイヤが組み込まれている。これによりグラフィックスとフォントの処理が改善され、Webサイトの見栄えが以前のリリースよりよくなった。テキストのレンダリングがシャープになり、合字や複雑な書体のあるフォントのサポートが改善されている。
またFirefox 3では、舞台裏で数多くのCSSの改良が行われている。CSSのベンチマークテストでFirefox 3のCSSの力量をテストしてみたところ、Firefox 2.0.0.14と比べてかなりよくなっていた。このテストでは、CSSによって配置された2,500近くのDIVタグ領域があるページをローカルに置き、ブラウザがレンダリングするのに要する時間を計測する。CSSテストのグラフに示された数値は5回テストを実行した平均であり、Firefox 3が前のバージョンよりも20ミリ秒以上高速であることを示している。
したがって、Firefox 3がAcid2レンダリングテストをパスし、Acid3テストでFirefox 2.0.0.14を超えるスコアを出していることも驚くに値しない。
開発者にとってのFirefox 3
このリリースでは、Web開発者にとっても刺激的な機能が用意されている。まず、Firefox 3にはMicroformatsというシンプルでオープンなデータフォーマットのAPIがバンドルされている。このMicroformat APIは最終的にアドオンの構築に使用できる。
デスクトップアプリケーションからWebアプリケーションへの移行が進む中、Firefox 3では、mailto:リンクの操作にはYahoo! Mailといったように、Webアプリケーションをユーザーが指定できるようになった。また、webcal:やtel:、fax:といったその他のプロトコルもサポートされている。WebアプリケーションにFirefoxのプロトコルサポートを加えることに関心のあるWeb開発者は、Mozillaから詳細な情報を得ることができる。
他にもWeb開発者が注目すべき機能がある。WHATWG Web Applications 1.0 specificationのオンラインとオフラインのイベントをFirefox 3で実装する方法である。この機能を使って開発したアプリケーションは、インターネット接続が利用できないときでも、ユーザーのコンピュータにデータをローカルに保存し、後でコンピュータがオンライン状態に戻ったときにサーバーとデータの同期を取ることにより動作する。
Firefox 3では、ドキュメントオブジェクトモデル(DOM)の改良もいくつか行われている。DOMに関しては、W3C DOMとinnerHTMLのベンチマークを実行した。これは、ブラウザで大量のコンテンツを生成するにはどちらの方法がより高速かを判断するためのものである。Firefox 3では、前のリリースと同様にinnerHTMLでの動作の方が良好だが、Firefox 3での改善度を示すためにテストすることにした。それぞれの方法を5回実行し、方法ごとの平均時間を使ってグラフを作成した。
JavaScriptの速度テストとそれに関連するSunSpider JavaScriptベンチマークでの報告と同様に、Firefox 3のJavaScriptエンジンにも大幅な改善が見られる。JavaScriptテストをブラウザごとに10回実行し、平均の実行時間を使用した。
セキュリティ関連の改良
以前に我々が行ったレビューでもFirefox 3のセキュリティ機能の改良について触れた。古くてセキュアでないプラグインを無効にしたり、セキュアでないアップデートメカニズムを使用しているアドオンを無効にしたりといった内部的なセキュリティ強化に加え、Firefox 3では外部のアプリケーションやサービスの力を借りて安全性を保っている。Windowsプラットフォームでは、Vistaのペアレンタルコントロールの設定を使用するほか、実行ファイルをダウンロードするときには常駐しているアンチウイルスソフトウェアを起動する。また、Googleのマルウェアサイトのフラグ付けもフィッシングやマルウェアサイトを避けるのに役立てている。
Larry extensionのように、目立たないが重要なセキュリティのアドオンもいくつかある。Larryではサイトのセキュリティ証明書をチェックし、サイトがセキュリティ証明書を持っていれば、その内容およびサイトができることとできないことを理解しやすい言語で表示する。
ブラウザのセキュリティをテストするため、脆弱性テストを実行した。これは、開いているポートをスキャンし、Webブラウズ中にブラウザが開示している個人情報を特定する。テストのレポートによれば、Firefox 3は訪問したサイトについての情報を送信し、広告を誘導したりブラウズするパターンを見つけたりする特殊クッキーを”保存する可能性もある”。エクスプロイトのテストでは、いくつかの既知のエクスプロイトに対する防御に成功した。また、さまざまな既知の脆弱性に対抗できている。
メモリの問題
Firefox 3がその前の2.x系のリリースに比べて顕著な改善が見られない領域はメモリの消費である。MozillaによればFirefox 3はこれまででメモリ効率が最もよく、300を超えるメモリ”リーク”のバグが修正されおり、リークしているメモリのブロックを自動的に見つけて後始末する新機能があるという。
Firefox開発者のStuart Parmenterが行ったテストでは、Firefox 3 beta 4はメモリ消費が少なくなった。Parmenterは、Windows環境でストレステストを実行するMozillaのStandalone Talos frameworkの変更を行っている。MiningLabsではLinux上のFirefox 3.0 rc3で同じテストを行い、Parmenterの結果とは逆にLinux上のFirefox 3はFirefox 2よりもメモリを消費することを確認している。
私はもっと非科学的な手作業の方法でメモリの使用状況を計測した。Intel Core 2 Duo E4400 2.0GHzプロセッサと1GB RAMを搭載したUbuntuマシンで、まずFirefox 3を使ってさまざまな作業を4時間以上行った。次に、Firefox 2.x系の最新の安定リリースであるFirefox 2.0.0.14で同じことを繰り返した。ps_memスクリプトを使ってコールドスタートで15分ごとにメモリを測定し、結果をメモリの消費量のグラフにした。ご覧のとおり、Firefoxの2つのリリース間でメモリの使用量にはほとんどが違いない。しかし、メモリの解放に関しては、Firefox 3では以前のリリースよりもはるかに高い割合で解放されている。
まとめ
Firefox 3は上出来なリリースだ。ユーザーインターフェイスからCSSの処理にいたるまで、あらゆるところに新機能や改良が見られる。このリリースでは特にセキュリティに注意が払われている。また時代の要請に応え、メールの返信などの作業でユーザーがデスクトップアプリケーションをWebアプリケーションに置き換えることを可能にしている。Mozillaでは既存のコンポーネントにスマートな機能の追加も行っている。ダウンロードマネージャ、ブックマークと履歴の管理、アドオンの管理などだ。目立った新機能が追加されているもののFirefox 3は肥大化しておらず、さまざまなテストの結果で前のリリースよりもパフォーマンスで優に上回っている。
Mozillaの望みはFirefox 3で世界記録を樹立することだ。これを超えるリリースは考えられなかっただろう。
Linux.com 原文
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