斬新さと危うさを併せ持つFedora 9

 最新のFedora 9は、従来のFedoraプロジェクトの方針どおり、定番ディストリビューションとしては非常に斬新な仕上がりになっており、独自に開発されたものに加え、ほかのディストリビューションからも新たなアプリケーションが導入されている。それにしても、これほど位置づけが微妙なFedoraリリースは見たことがない。確かに時代の最先端といえるが、ある意味ではキワものと呼べなくもないのだ。下位システムとデスクトップソフトウェア群がアップデートされているほか、ユーザの利便性を損なうことなく斬新さを盛り込んだ部分は評価できる。その一方で目につくのが、特にパッケージのインストール方法など、使い勝手よりも目新しさが優先された変更点である。

 これまでのリリースと同様、Fedora 9にも多くのインストール方法が用意されている。そのうちいくつかはFedoraに独特のものだ。ダウンロードページには、32ビット版と64ビット版のDVDおよびCD、それにGNOMEとKDEの両デスクトップ環境のライブメディアも揃っている。あるいは、ブート可能なUSBメモリを作成することもできる。今回から使えるようになったこの方法は、独自のデータを保存することでカスタマイズ済みのインストール環境をずっと残しておける。また、Fedoraの関連プロジェクトUnityから提供されているカスタムスピンも利用できる。どれも気に入らなければ、Revisorを使って独自のインストールイメージを作成すればいいだろう。

 Fedora 9には、live-usb-creatorを使ってWindows環境でライブUSBメディアを作成するという手もある。Fedoraプロジェクトのリーダ、Paul Frields氏はUbuntuのWubi対応版の追加には今後も可能性があると述べているが、live-usb-creatorのほうがシンプルな方法に思えるし、ライブCDのような速度の問題があまり見られなかった点は無視できない。このアプリケーションは今のところFedora環境では使えないが、同プロジェクトのページにはそのうち使えるようになると記されている。

 ほとんどのユーザは、インストール用のDVD/CDまたはライブメディアからインストールを行うことになるだろう。最短の時間でダウンロードできるライブCDには、最も簡単なインストールプログラムが用意されている。しかし、インストール作業の詳細を選択できないので、熟練ユーザは物足りなく思うかもしれない。

 標準のインストール用ディスクでは、Anacondaが使われている。現在も使われているGNU/Linux用のグラフィカルなインストーラとしては、おそらく最古参のものだろう。Fedora 9のAnacondaで以前のバージョンから変わった部分といえば、ext4ファイルシステムへのインストール(このフォーマットが開発途上であること、また各種ツールで部分的にしかサポートされていないことから不安は残るが)とパーティションのサイズ変更ができるようになったことくらいだ。以前のベータ版と比べると、Anacondaにおける無線デバイスのリスト表示が消えている。しかし、リブートして新しいシステムが立ち上がらないと、インストーラによってどのデバイスが検出されたかわからない点はいただけない。それを除けば、Anacondaによるインストールはこれまでのバージョンと同様、初心者による選択項目を最小限に抑えつつ、熟練ユーザ好みのカスタマイズが可能なものになっている。

 またFedora 9には、今後のリリースに先駆けて、既存のシステムのアップグレード作業が簡単に行えるウィザードPreUpgradeが付属している。PreUpgradeが現時点で参照しているのはFedoraの開発者向けリポジトリRawhideだけであるが、Fedoraプロジェクトはリリース移行過程に関する曖昧性の解消を約束している。

新しいシステムとデスクトップ

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Fedora 9

 Fedora 9では数々の変更がひっそりと施されている。普通のユーザは気づかないだろうが、それでいてコンピューティング環境には大きな影響を与えうるものだ。まず、PulseAudio(Fedora 8ではオプションでインストール可能だった)が設定ダイアログにおける標準アプリケーションになり、ALSAやOSSといったこれまでの選択肢よりも洗練されたサウンドが楽しめるようになっている。また、System Vのinitスクリプトに代わり、CanonicalのUpstartが採用されている。その結果、特にブートおよびシャットダウンにかかる時間が短くなったが、今後はさらなる機能強化が期待される。速度に関しては、Xorg 1.4とX Server 1.5の組み合わせによるX Window Systemのパフォーマンス向上も見られる。

 Fedora 9のインストールが完了すると、絞り染め風の色合いを持つニューエイジ志向の壁紙を用いたデフォルトのデスクトップ画面が現われる。標準ソフトウェアのラインナップは、これまでのFedoraより最新に近いものに改められている。これについてはおそらく、慎重なポリシーの選択というよりもさまざまなプロジェクトのリリース時期の要因のほうが大きいだろう。とにかく今回のリリースには、GNOME 2.22やOpenOffice.org 2.4といった安定版の新規リリースだけでなく、KDE 4.03、Firefox 3 Beta 5、Linuxカーネル2.6.25、Sunのフリー版JavaであるOpenJDK(以前のIcedTeaツールも一部付属)など、開発版のアプリケーションもかなり含まれている。しかし全体として見れば、こうした開発版の収録に目立った問題は見られない。一般的なデスクトップ用途でOpenJDKを支持する声はかなり強くなっているし、Firefox 3も動作速度の最適化がまだとはいえ安定している。また、Ralink製チップセットを搭載した無線デバイスを使っている人にとっては、特にカーネル2.6.25の採用が嬉しいだろう。このカーネルでは、最初からRalinkのチップセットがサポートされているからだ。

 一方、アプリケーションの軽微な機能強化は、「Screen Resolution(画面の解像度)」ダイアログのデザイン変更やSELinuxのブラウザおよびエクステンション用ポリシーの追加など、わずかしか見られない。日常使用において以前との違いが最も目立つのは、Network Managerだろう。アクティブな複数のネットワークデバイスに対応できるようになり、リリースノートの概要には「無線の即時サポート」と記載されている。これは、厳密な設定をしなくても無線デバイスが自動検出されるという意味のようだ。

ソフトウェアのインストール方法

 Fedora 9において特に物議を醸している変更点が、YumのPirutフロントエンドとPupアップデータに代わるPackageKitの導入だ。そのねらいは、すべてのパッケージ管理システムに対応した共通のフロントエンドを提供することにある。同じシステムで.DEBおよび.RPMの両パッケージが混在する状態でのインストールや、パッケージ形式の変換を可能にするものではないが、インタフェースを共通化できることのメリットは大きい。PackageKitは、各アップグレードをセキュリティ、バグ修正、機能強化といったカテゴリに分類してくれるという点でもPupより優れている。この機能により、アップグレードの内容をいちいち調べなくてもインストールすべき対象を選ぶことができる。

 しかしFedora 9では、PackageKitへの移行が望ましい形では行われていない。まず、Fedora 9のリポジトリにはPirutもPupも見当たらない。さらに、GNOMEのPackageKitは、パッケージをグループに分けたうえでフィルタリングされた検索結果がインタフェースに表示されるにもかかわらず、グループごとのインストールや複数項目のインストールが行えない。つまり、GNOMEのPackageKitで一度に何十ものパッケージをインストールすることなく、KDEやXfceのデスクトップを追加したくなった場合には、Yumコマンドを使うか、Yumexのようなグラフィカルなソフトウェアインストーラをわざわざインストールしなければならないのだ。

 Fedora 9のPackageKit FAQによると、グループ単位のインストール機能は近いうちに使えるようになるという。しかし、この機能がない状態でPackageKitを導入したのは早計に思える。なぜ次回のリリースまで待てなかったのだろうか。

まとめ

 PackageKitの問題と(それほどの弊害はないが)KDE 4.0.3の収録という問題を別にすれば、Fedora 9はユーザビリティの高さと斬新さのバランスがうまく取れている。この数か月でFedoraを支持する声はUbuntuに匹敵するものになっているが、確かにFedoraはこうした評判に値する。むしろ、革新性という点ではおそらくUbuntuよりもFedoraのほうが上だろう。リリースのたびに最低でも十数個以上の新しいアイデアが盛り込まれている。また、Fedora 9は、Fedoraのメニューやダイアログにユーザの操作性を微調整するためのちょっとした設定項目が表示されない希有なリリースでもある。

 しかし、Fedora 9の問題点は、Fedoraプロジェクトが努力しているバランスの維持がいかに難しいかを如実に物語っている。KDEについてもPackageKitについても改良が進められていることや、その間の対処方法が用意されていることは重要でない。こうした状況は偶発的なものであり、Fedoraプロジェクトが関与していることではないからだ。

 その斬新さにより、Fedoraはこのところ注目を集めている興味深いディストリビューションの1つになってはいる。だがFedoraプロジェクトは、さまざまな変更がユーザに与える影響をもっと考慮して独創性を抑え気味にする必要があるだろう。おそらく、今回のそれほど重大ではない問題点により、Fedoraの現状のリリース方針は、今後のリリースで大きな問題が起こらないうちに是正されることになるのではないだろうか。

Bruce Byfieldは、Linux.comに定期的に寄稿しているコンピュータ分野のジャーナリスト。

Linux.com 原文