自由なソフトウェア開発活動の支援を通じて世界に貢献するBradley Kuhn氏

 Software Freedom Law Centerの創立メンバの1人であるBradley Kuhn氏は、フリーソフトウェアという理念の古くからの擁護者であり、FLOSSコミュニティにおいて最大の発言力を有す人物とも目されている。そして先日Linux.comは、以前にFree Software Foundationの取締役を務めていた同氏から最近の活動状況について話を伺うことができた。

Linux.com:まずは最近の活動についてお聞かせ頂けますか?

Bradley Kuhn: FSF関連で私が行ってきたのは主にGPL関連のライセンス問題です。その中の1つを挙げるとすれば、(同僚であるEben Moglen氏およびDaniel Ravicher氏との協力の下)GPL Compliance Labという世界初のGPL施行チームをFSFにて設立したことでしょう。実際FSFで扱うGPL関連の施行問題は以前は1年に3から4件程度であったものが、年間30から50件に増えています。

 もっともその後明らかになったのは、GPLだけでなくFLOSS(Free, Libre and Open Source Software)関連のライセンスについて法的なサポートを必要とする著作権保持者やプロジェクトが多数存在するということでした。そこで求められるサポートはGPLの施行に関連するものが一部を占めていましたが(BusyBoxの一件など)、その他には著作権にまつわるより一般的な内容が含まれていたのです。そうしたものの大部分は非営利団体としての認定および活動上の支援を必要としていたものの、そのすべてがGNU Project(こうした組織運営上のサポートをFSFから得て、新規プロジェクトの設立をその庇護下で勧めていた当時唯一の501(c)(3)認定団体)に参加できる訳ではありませんでした。

 私とEbenはRMSも交えて、FLOSS業界全体で求められるこれらのサービス群をFSF側から提供する方法について様々な検討を行いました。そして辿り着いた結論は、今後もFSFは身動きの取りやすい小規模な擁護組織としての形態を維持する必要がある関係上、これほど大量な余剰作業を抱え込むことはできないというものですが、EbenにはFLOSS系プロジェクトの求める法律関連のサービスを提供する新組織を別途に立ち上げる資金確保のあてがあったので、それをSoftware Freedom Law Center(SFLC)という名称にて設立した訳です。

 SFLCが法人組織として設立されたのは2005年初頭のことであり、同年3月に私はFSFを離れてEbenとDanと共にSFLCの設立チームに参加しました。SFLCにて私は2つの仕事を引き受けていますが、主に従事しているのは法律家とハッカーとの間の橋渡し役としての活動です。学生時代に私が専攻したのはコンピュータサイエンスであり法律ではありませんでしたが、その後の活動経験としてはソフトウェア開発とコンピュータサイエンスだけでなく、法務関係の仕事にも長年携わってきました。そのため法律家とハッカーの双方と話をつなげることのできる私が、両者の窓口としての役回りを引き受けたのです。SFLCの法務担当者が高度に複雑で政治的な判断が求められるFLOSSの世界に順応するのも私がサポートしていますし、また同時にSFLCのクライアント側に彼らの進めるソフトウェア開発プロジェクトにおいてどのような法的問題が生じるのかを理解してもらうサポートも私の役目となっています。つまり私の立場は、FLOSSコミュニティにSFLCを根付かせるための存在といったところですかね。

LC:Software Freedom Conservancyの設立の動機と、組織としての目的をお聞かせください。

BK: FLOSS系プロジェクトの管理において見過ごされがちな問題の1つに組織に関する側面があります。非営利団体を運営していくと言っても、その日常業務における間接費的な負担はかなりの量に達するため、非営利なFLOSSプロジェクトにとっては組織を維持していくだけでも一苦労となっているのです。一般にそこで必要とされる組織運営上のノウハウは、FLOSSの世界を基本的に支えているボランティア精神で簡単に賄われるといった性質のものではありません。コード開発やドキュメント整備のスキルに長けている人材を見つけることはできても、管理能力を持つ人材がボランティアで参加することはまずないでしょう。

 SFLCを立ち上げた最初の段階で多くのプロジェクトから出された質問の1つは、連邦所得税の免除に関する501(c)(3)の適用団体と認定され、公共の利益に則した活動としてソフトウェア開発に対する寄付金を受け取るにはどうすればいいのかというものでした。そこで企業関連の法律のエキスパートであるKaren Sandler氏を雇い入れ、各種のオプションを検討してもらい、私たちがこの問題の最適な解決法を特定する上でのサポートをしてもらったのです。

 候補となるソリューションは多数思いつきましたが、それらの中で最も革新的と私が判断したのがSoftware Freedom Conservancy(以下、Conservancy)です。これは501(c)(3)認定を独自に受けた上でSFLCと密接に活動する団体という位置付けとなっており、自力で非営利団体を立ち上げるだけのリソース、知識、時間を持たないFLOSSプロジェクトを保護する非営利な組織として活動することをその目的としています。

 Conservancyの加盟プロジェクトは、組織運営に関する支援をConservancyから受けつつ、各自のプロジェクトを進めていくことができるようになります。つまり非営利団体および501(c)(3)の認定というメリットと同時に、管理や財務などの関連業務に対するサポートをConservancyから受けることができるのです。これら各種プロジェクトにおける管理業務を私どもが一括してサポートすることは、この種の作業を効率してさばけることになりますし、ハッカーはソフトウェアの開発やドキュメント類の整備に専念するなど、各自の得意分野に集中してもらうことができます。

 個々の加盟プロジェクトとの関係については、技術的な方向性やプロジェクト活動の意思決定に対してConservancy側から干渉することはありませんので、FLOSSとしての開発能力は損なわれないはずです。むしろ本来の活動目的の妨げとなる取締役会などの運営を始め、非営利団体や501(c)(3)としての認定を独自に申請したり非営利団体に課せられる資産公開の書類を提出するといった雑務に時間を取られることを避けることができるのです。

 その他にもプロジェクトの確保した資金が、公共の利益とFLOSSの発展という非営利活動の目的に則した用途に使われているかという、財務面での監査についてのサポートも行わせていただきます。



Tina Gaspersonは1998年よりフリーランスのライターとして活動中で、主要な業界紙にビジネスおよびテクノロジ関連の記事を執筆している。

Linux.com 原文