フリーソフトウェアで進められる新機軸のメニューデザイン開発

 フリーソフトウェア開発者の口からよく聞かされるのは、既に存在している機能を再開発するのは無駄だという意見である。もっとも最近勃興の著しいデスクトップメニュー関連の新機軸を見る限り、この分野についてはそうした意見も当てはまらないのかもしれない。

 数年前であればメインのデスクトップ環境におけるメニューとは、そもそもが置き換えを考える性質のものではなく、Debianに代表される一極集中型のものを使うしか選択肢は存在しなかった。GNOMEに至っては5年間に渡ってメニューエディタの用意すらしなかったくらいである。それが最近になると、SUSEでデフォルト装備されたSlab、GNOME Panel用のVista Menu(その完成度はUbuntuへの移植活動が事実上停止したUSlabに既に匹敵するレベルにあるようだ)、新規にリリースされたKDE 4といったWindowsにインスパイアされて開発されたであろうメニュー群を始め、BigBoardやGimmieなどのソーシャルネットワーキングをデスクトップに統合することを目指した新種のメニューなど、様々な実験的な試みが進められているのである。どうやら従来型のアコーディオン式メニューは機能的に適さなくなってきたか、あるいはファッショナブルではないと認識されつつあるようだ。

Windowsインスパイア型

 Windowsの最新バージョンでは従来スタイルのメニューが一新され、デフォルトのメニュー表示がよりコンパクトなデザインに改められている。いわゆるVistaメニューの場合、最近使用したプログラムリストのトップにWebブラウザと電子メールクライアントのアイコンが固定表示され、その他のプログラムは検索フィールドにて探し出せるようになっており、メニュー表示領域の右側には、現在のユーザアカウントおよび各種の設定用オプション、そしてコンピュータのシャットダウンや画面のロック用ボタンが配置されるというのがその基本デザインである。

 openSUSEにて従来のGNOMEメニューの代わりに採用されたSlabは、デザインの細部は異なっているものの、機能的にはVistaメニューと同様の構成となっている。このメニューにおける独自の仕様は、Applications、Documents、Placesという3つの独立したビューを設けることで、Vistaメニューよりもコンパクトにまとめられている点だ。SlabではVistaメニューと同様に従来型のメニューの代わりにすべてのアプリケーションを一覧するためのボタンが用意されているが、この仕様は包括性という点では優れているものの、コンピュータ上の特定項目しかアクセスできないという制限を依然として引きずり続けている。

 その名が示すようにGNOME Panel用のVista Menuも、最近のWindowsトレンドに合わせた開発成果である。この場合の最大の相違点はカスタマイズの自由度の高さで、アイコンおよび一般テーマのインストール、各ボタンのクリックで実行されるコマンドの変更オプションが用意されている。

 新たに開発されたKDE 4.0パネルも、SlabおよびGNOMEのVista Menu同様にVistaを参考にしてはいるが、これらより遥かに高い独自性を備えている。このメニューでは目的に応じて必要なものだけを表示させるよう、Favorites、Applications、Computer、Leaveという4つのタブビューが設けられているのだ。Applicationsビューにおいても表示スペースの節約が考慮されており、各サブメニューの表示領域はデスクトップ全体にカスケードするのではなくメニューウィンドウ内部に収まるようにされている。デフォルトのビューは基本的にApplicationsタブに固定しておけばよく、従来型のメニューツリー階層の中を徘徊させられるよりもこうしたサブメニュー方式の方がいいというユーザであれば、ここで見た新種のメニュー群の中でもKDEメニューが最も操作し易いのではないだろうか。

 その一方でユーザの中には、この種の新型メニューは性に合わないという方もおられるだろうが、いずれのケースにおいても従来型のメニューをパネルアプレットとしてインストールし直せるようになっている。またOpenSUSEではMain MenuアプレットがSlabに置き換えられているものの、3項目のMenu Bar(トップメニューのApplication、Places、System)は今でも利用可能なので、これまでどおりの方式で必要とする機能にアクセスできるはずだ。

ソーシャルネットワーキング統合型

 新規メニュー開発におけるもう1つの方向性は、FlickrやFacebookなどのソーシャルネットワーキングサイトおよびIRCアドレスへのアクセスを簡単化しようという動きである。

 Gimmieの場合は、Applications、Documents、People、Computerを色分けしたカラーコード式のアプリケーションランチャという形態を採用している。これらのランチャを実行するとウィンドウ形式のサブメニューが開かれるので、その画面上で必要なアプリケーションないしアクションを選択すればよく、特にPeopleについてはコンタクトしたい相手に直接アクセスできるという仕組みだ。

 BigBoardの場合、メニューでのソーシャルネットワーキングの統合という側面がより強く意識されている。オンラインデスクトップ化したGNOMEバージョンを提供しようとするGNOME Online Desktopプロジェクトの一環として開発されたBigBoardではMugshotとの併用が想定されているが、これはブックマーク管理にてdel.icio.usが果たしている役割をソーシャルネットワーキングサイトにおいて提供することを目的としたオンラインコミュニティである。デスクトップの左端に配置されるBigBoardのサイドパネルでは、画面上部にてアプリケーションその他の設定スペースが設けられているものの、これらのウィジェット群はソーシャルネットワークおよび関連サイトへのアクセスが主目的とされている。BigBoardの有す最大の問題点は、各ペインに配置するアイテムの上限が数個程度に想定されていることで、3ないし4つのカテゴリにおける追加数が5個を越えたあたりからBigboardのレスポンスは急速に悪化し、従来方式のメニューよりも鈍重な操作しかできなくなってしまうのだ。

発展なき世界に未来なし

 こうした実験的な新機軸のメニューが解決しようとしている問題の存在については、大半のGUIユーザが実際に感じ取っているものであろう。Debianに見られる一極集中型のメニュー構成は新規ユーザを混乱させるであろうし、それに対してWindows方式に準拠したメニューデザインは新規ユーザにとって親しみ易いはずだ。確かにカスケード方式のメニューは目障りであるし、ソーシャルネットワーキングへのアクセスは一般ユーザにとっての要望の多い分野と言えるだろう。

 ただし本稿で解説したような実験的なメニューが、本当に最適なソリューションであるかとなると話は別である。例えば、メニューのデフォルト表示が最近使用したプログラムと検索フィールドだけに限定されるという仕様は、過去に利用したことのないプログラムについては、その存在そのものを新規ユーザに気づかせにくくしているという側面も有している。またソーシャルネットワーキングが成長著しい分野であるのは事実としても、そのための専用デスクトップツールを開発する必要性はあるのだろうか? デスクトップからソーシャルネットワーキングにアクセスするだけなら、従来型のメニューやアイコンだけでも必要な設定を施せばGimmieやBigBoardと同様の役割は果たせてしまうのである。

 とは言うものの、そうしたものを必要とする特定ユーザの要望を満たすための機能をフリーなデスクトップにて追加しようというのは、挑戦してみる価値のある1つの試みと考えていいのだろう。最終的にこれらのメニューが広範に受け入れられなかったとしても、メニューの基本デザインというコンピュータ操作環境の根幹を成す要素の1つにて実験的な取り組みが今も試み続けられているという事実そのものが、フリーソフトウェアコミュニティの健全性を証明付けることになるはずだからだ。

Bruce Byfieldは、コンピュータジャーナリストとして活躍しており、Linux.com、IT Manager’s Journalに定期的に寄稿している。

Linux.com 原文