「たがための」「何のための」グリーン化か!?――ユーザー企業がグリーンITに取り組むのは、環境保護のためというよりコスト削減のため?

「グリーンIT」――この言葉がどの程度魅力的に響くかは、受け止める側のユーザーの意識によっても異なってくるだろう。だが、今の米国において「ITのグリーン化」という錦の御旗──省エネルギーやリサイクル性の向上といったグリーン化のメリット──を振りかざされれば、だれも正面切ってそれに異を唱えることはできないはずだ。そして、熱心に「グリーン化」を説き、それをセールストークにするベンダーを批判することも。だが、本音を言えば、ユーザーにも、グリーンITについて言いたいことがないわけではないのだ。例えば、ベンダーのかけ声が大きい割りには、現行のITインフラに実装できる製品が限られていることに不満を抱くユーザーは少なくない。本稿では、そうしたユーザーの本音をあぶり出しつつ、グリーンITの現状と問題点を探ってみたい。

ブルース・ホード
Computerworld オンライン米国版

 グリーンIT市場はまだ成熟するには至っていないが、そうした中にあって、米国のPMIモーゲージ・インシュアランスとクーパー・コミュニティーズは、それぞれに独自のグリーン戦略を展開し、ITパフォーマンスを犠牲にすることなくコストを削減することに成功している。

 ユーザーの中には、ベンダーの力を借りてこうした「グリーン戦略」を練っているところもあるが、多くの企業はPMIモーゲージやクーパーのように、自らの力で戦略を立案している。つまり、現時点では、「企業におけるグリーン化の取り組み」は、主に「ユーザーが自力で進めるプロジェクト」になっているのである。その意味で、ベンダーが顧客に提案するグリーンITマーケティング計画には、まだ大きな「余白」が存在していると言える。

セールストークとしての「グリーン化」

 「ベンダーはこの市場を“グリーンウォッシュ”(環境保護という名目の下にビジネスの拡大を狙うという意味)している」と、グリーンIT市場に群がるベンダーに対して批判的な見解を披露するのは、市場調査会社ストレージ10グループの創設者兼シニア・アナリスト、グレッグ・シュルツ氏だ。

 「グリーン絡みのセールストークの背後には、金もうけの意図が透けて見える。グリーン化をにおわせ、この市場特有の当たりの良さをアピールすれば、顧客は食いついてくると計算しているのだ」と、同氏の舌鋒は、鋭さを通り越して怒気さえ感じさせる。

 シュルツ氏の舌鋒は、グリーン市場全体だけでなく個々のベンダーにも襲いかかる。今回、同氏が目をつけたのは、HPだ。氏は、同社が6月に発表した適応型ITインフラ「Adaptive Infrastructure」製品群のプレスリリースを引っ張り出し、そこにグリーンウォッシュの痕跡を指摘する。

 ちなみに、そのときに発表されたのは、「HP StorageWorks Enterprise Virtual Array」シリーズのシン・プロビジョニング機能および性能強化、「Linear Tape Open 4」規格に基づくテープ・ドライブ、新たな中小規模企業向け「DAT 160」テープ、「HP BladeSystem c-Class」エンクロージャ専用に開発された初のテープ製品「HP StorageWorks」などの、ストレージ製品/機能群だ。そして、以下が、くだんのプレスリリースの一節である。

 「HPは本日、ストレージ・アレイに要する消費電力とデータセンターにおける冷却コストを50%引き下げる『グリーン』ストレージ技術を発表しました」

 シュルツ氏は、「グリーン」を強調するこのプレスリリースは、人々に誤解を与えるおそれがあると指摘するのである。というのも、今回の発表では、省電力化を実現するための最適化が個々の製品に対して図られているわけではなく、単にデータがディスクからテープへ、あるいは別の階層へと移行されることによって消費電力が抑えられるだけのことでしかないからだ。

 つまり、データのライフサイクルにあわせて(消費電力の少ない)別のストレージ技術を使うようにすることで、省電力が実現されているにすぎないというわけだ。言ってみれば、単に情報ライフサイクル管理を実施しているだけのことであるのに、それをあたかも「HPのグリーン・イニシアチブ」の一部でもあるかのように主張するのはおかしい、と同氏は指摘するのである。

 シュルツ氏はまた、サーバ仮想化によって省エネを図ろうとする動きにも疑問を呈する。確かに、仮想化の導入によってサーバの数を減らすことはできるが、それによってどれだけの電力が削減されるかまでをきちんと検証している企業は少なく、効果のほどは未知数だというわけだ。

 「仮想化によるサーバのコンソリデーション(統合)で、仮に10台のサーバを1台に集約できたとしよう。その場合、いったいどれほどの電力を節減できたことになるのだろうか。もちろん、前と変わらないということはありえないだろうが、その比率は果たして10対1なのか、5対1なのか、それとも2対1なのか。(一般には、10台を1台にしたのだから、消費電力は限りなく10分の1に近くなると思われているようだが)それが落とし穴だ」(同氏)

しょせんはビジネス

 揺籃期の今は、ベンダーとユーザーによってさまざまなグリーン化の可能性が模索されている段階であり、いまだ普遍的なグリーンIT戦略が確立されるには至っていない──調査会社Forrester Researchが今年5月に発表した調査では、そんな状況が浮き彫りになった。

 「高まるグリーンITへの関心度」(Tapping Buyers’ Growing Interest in Green IT)と題されたこの調査は、北米および欧州に本社を置く企業のITマネジャーやプロキュアメント・プロフェッショナルを対象に行われた(回答者124人)が、うち85%が「IT運営業務計画を立案するにあたって、エコロジーを重要な要素だと考えている」と答えたにもかかわらず、「自社の物資購入プロセスにグリーン化基準を設けている」と回答した人はわずか4分の1にとどまった。

 当然のことだが、企業にとって大事なのは、何と言っても「最終損益」だ。この調査でも、ある回答者が「われわれがグリーン化に取り組もうとするのは、環境のことを考えてというよりも、コスト削減というビジネス上の成果を期待してのことだ」との回答(自由記述)を寄せている。

 また、調査報告書を作成したクリストファー・マインズ氏は、次のように総括している。

 「(調査結果から)今、企業がグリーン化に関心を持つのは、『効率性』と『企業責任』という2つの動機からであることがわかった。なかでも、大半のIT意思決定者が『グリーン化に関連する物資を購入する動機』として挙げていたのは、『コスト削減』であった。つまり、彼らは、ROI(投資収益率)に基づいた実務的判断を下しているわけだ」

グリーンITも「ベンダー先導型」

 もちろん、グリーンITのような新しい試みを先導するのは、例によってベンダーの役割だ。IntelのEMEA(欧州・中東・アフリカ)セールス&マーケティング担当副社長、ゴードン・グレイリッシュ氏は、現状を「ベンダーの省エネ製品が目覚ましい進歩を遂げている傍らで、ユーザー・コミュニティがなかなかそれに追随できないでいる状況」であると分析する。

 例えば、デンバー保健医療局(Denver Health and Hospital Authority)でオペレーション&プランニング・マネジャーを務めるデビッド・ブーン氏は、最近初めてグリーンITについて学んだ。そしてその結果、「優れたコンセプトだ」と感じたという。しかしながら、「エネルギーの消費を抑える手法はいくつかあるはずだが、現段階でそのうちどれだけがIT分野の省エネ手段として実用可能になっているのかが分からない」という理由から、その導入には消極的な姿勢を見せている。

 一方で、PMIモーゲージ・インシュアランスのように、むしろベンダーよりも積極的な姿勢でグリーンITに取り組むユーザー企業もある。同社でコーポレート・システム担当上級副社長を務めるスタンレイ・パチュラ氏は、「他社よりも環境保護への貢献を考慮しながら取り組みを進めていると自負している」と胸を張る。同氏にとって、グリーンITは、エネルギー消費を効率化するためのものであると同時に、環境汚染(排出物とハードウェア廃棄物)を抑制するためのものであるのだ。

 そんな同氏も、ベンダー──特に、同社の主要契約ベンダーであるIBMとSun Microsystems──のグリーンITに対する最近の取り組みと、その成果については、高く評価している。なかでも同氏が注目しているのが、仮想化技術だ。

 「サーバ統合技術については、より少ない台数の物理サーバでシステムを稼働できる技術だととらえている。また、デスクトップの仮想化技術を導入すれば、在宅勤務を実現することが可能な環境が整う。これによって、われわれが冷暖房を施さなければならない区域が減るだけでなく、(クルマによる)通勤の必要がなくなることで排気ガスを削減することもできる」(パチュラ氏)

 ちなみに、PMIモーゲージは現在、EMCの「VMware」を使って215台以上の仮想サーバを構築している。その結果、物理サーバは、従来の140台から、わずか13台にまで減った。

 パチュラ氏は、IBMが自社と顧客のITインフラの省エネ化を図るために最近発表した「Project Big Green」(http://www.computerworld.jp/news/hw/64170-1.html)を、「真摯な取り組み」であるとして評価している。IBMはおそらく世界最大級のデータセンターを運営管理する企業だが、そんな同社自身がエネルギー削減とエコロジー運動に取り組むことは、まことにもって理にかなっているというのだ。というのも、こうしたベンダー自身がグリーン・プログラムに取り組めば、自社データセンターだけでなく顧客のデータセンターのイノベーションも促進されることになるからである。

重要なのは
ベンダーとユーザーの協調姿勢

 先に紹介したForrester Researchの調査では、グリーンITに取り組む企業の動機づけとしては「最終損益」が多くを占めていたが、なかには「道徳的義務」に基づく強い使命感に燃えてグリーン化に臨んでいる企業もある。土地開発をなりわいとするクーパー・コミュニティーズも、そうした企業の1社だ。

 同社で情報システム担当副社長を務めるパット・サンプルズ氏に言わせれば、これは「良心の呵責の問題だ」ということになる。

 「われわれは自分たちが生活していくうえでは、(良心の命ずるところに従って)紙製品の使用を抑制したり、リサイクルに回したりしている。それと同様に、ITシステムにおいても、できる限りそうした努力をするように心がけるべきなのだ」(同氏)

 この目標を達成すべく、クーパーでは、機器廃棄処理/リサイクル業者であるアクセス・リサイクリングの協力を得て、ハードウェアのリサイクルと省エネに取り組んでいる。

 とはいえ、そこは企業であるから、彼らとて、グリーンITプロジェクトを進めるうえでは、道徳的義務感を満足させるだけで足るとは考えていない。実際、コストの削減にも取り組んでいるし、それに成功してもいる。

 「省エネ化が進んだ最新鋭の機器を導入することで、サーバを2~3台処分することができた。これにより、消費電力を削減することができるうえ、ハードウェアのリース料やソフトウェアのライセンス料を抑えることもできる」と、サンプルズ氏も経営者の顔に戻って満足げだ。

 もっとも、クーパーをグリーンITに駆り立てている最大の動機は、やはり道徳的義務感であり環境保護意識である。それを裏づけるのが同社が推進している環境プログラムの充実ぶりだ。事実、同社のこのプログラムは、これまでにウェストバージニア州環境保護局による環境スチュワードシップ賞、ノースウェスト・アーカンソー・オーデュボン・ソサイエティによるストックトン賞などさまざまな賞を受賞しているのである。

 なお、クーパーのグリーン戦略は同社が独自に立案したものであり、主要契約ベンダーのDell、HP、Cisco Systemsなどが関与しているわけではない。サンプルズ氏は、ベンダーのグリーンITへの取り組み状況を、以下のように見ているという。

 「主要ITベンダーは、ようやく(グリーンITを)提案し始めたところだ。彼らはまだ“あるべき地点”に到達していない。私が知る限り、今のサーバはグリーンITイニシアチブが提唱している目標には遠く及んでいない。デスクトップは着実に目標に近づいているが、サーバとネットワーク・インフラはまだ追いついていない」

 では、ベンダーは今、いったい“どの地点”にいるのだろうか。そして、彼らはどこまで本気でグリーン化に取り組んでいるのだろうか。さらには、一部で言われているように、彼らはパッケージを変えただけの製品を「グリーン」と呼んでいるのだろうか。

 こうした疑問に対して、PMIモーゲージのパチュラ氏は、次のような見解を示す。

 「ベンダーは、単に(製品を)パッケージしなおして提供しているわけではない。彼らが顧客と歩調を合わせてグリーン・テクノロジーの導入に取り組んでいることは間違いない。実際、顧客がいかに環境に優しいインプリメンテーションを実現できるかを、ベンダー各社は真剣に考えている」

 このパチュラ氏の意見が、今の時点では、多くのユーザーに共通する意見であるようだ。

(Computerworld.jp)

提供:Computerworld.jp